兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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◯祭りの前。

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 祭りの準備はあらかた整った。屋台は倉庫から出して社殿の前に停めてある。境内の隣の公園には町内会の出店があって、焼きそばやポップコーンの調理が始まっている。お囃子隊のチビ達が集まって来た。一般の見物人も集まりつつある。神社の門前町に並ぶ、古い木造の家々の紙灯籠に明りが灯り、たちまち昼間とは別世界のような趣になる。
 茜の姿が見えないと思ったら、本部で老人達にお茶出しをしていた。
「茜、こっちに来な」
 声をかけると茜は「はいっ」とやたら元気よく応え、うちの祖父さんに深々とお辞儀をしてから、きびきびと走ってきた。まるで知玄とものりみたいだ。
「なんでしょう!」
「老人どもの相手はいい。お囃子のチビ達を公民館に集合させてくれ。お茶出しは俺と智也ともやでやる」
「了解です」
 茜は警察官のように敬礼をして走っていった。だが智也は不満そうだ。
「なんで? 爺さん達も茜ちゃんにやってもらった方が喜ぶっすよ」
「だからだ。老人どもに旨い汁を吸わせるな。来年も女を寄越せと言われたらかなわねぇ」
 俺が盆に茶碗を載せて行こうとすれば、智也は忠犬みたいにあとを着いて来た。
「気がつくじゃねぇか、知白ともあきよ」
 しらんぷりして通り過ぎようとした俺の祭半纏の袖を、祖父さんが引いて言った。
「お茶汲みなんてぇのはお前さんみちょうな能無しの仕事だいな。あの娘さんを見てみない。賢くって器量良しだ。お前さん、あの娘を嫁にしてみる気はねぇかい?」
「ねぇよ。つうか器量良しを能無しの嫁にくれてどうすんだよ。どうせなら、あんたん家の有能な末っ子様にでも紹介すれば?」
 祖父さんは高笑いして言った。
「有能に有能をめあわせれば、お互い足を引っ張り合って共倒れだぁ。才女さんの旦那には、お前さんみちょうな無能な働き者が丁度いい」

「祖父ちゃんは口ではあんなこと言うけど、アキちゃんに期待してるんスよ。お気に入り同士にくっついて欲しいだけなんじゃないかなぁ」
「それはねぇと思う」
 屋台巡航が始まる前に、ちょっと休憩。智也は俺の隣に腰掛け、ジュースを飲んでいる。俺は煙草を一服。茜はといえば、そわそわとあちこちをうろついて、メモを取ったり写真を撮ったりと忙しい。
「それにしても、今年は結構集まったっスね、お囃子の子」
「ほとんど町外から応募してきた奴らだ。定着はしないだろ」
「新しい家の子を勧誘したらどうっすかねぇ」
「無理。寄付金のことで揉めるに決まってる」
「あー」
「寄付金って何ですか?」
「うわぁ!?」
 何の前触れもなく、茜が背後からぬっと顔を出した。忍者か。
「祭り運営のための寄付金。この祭りは戦前からある旧い家の長男坊だけを集めてやってきてて、寄付金もそういう家から徴収してきたんだ。だから最近越して来た家からは取れないってこと」
「なるほどぉー」
 茜はDr.スランプのアラレちゃんみたいに口を縦に丸くして言った。きびきびとよく働く子だが、喋ると間の抜けた印象だ。と、そこへ、
「お兄さーん」
 更に間の抜けた声が俺を呼ぶ。知玄だ。まさか本当に来るとは思わなかった。真咲まさき姐達を味方につけて、気が大きくなってんのか?
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