灰色のエッセイ

板倉恭司

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地球の日本人の話

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 これは、数年前に体験した話です。



 その日、私は近所を歩いていました。仕事帰りで、時間は午後八時から九時の間だったと思います。既に暗くなっており、私は家に帰るべく足早に進んでいました。
 道中、向こうからひとりの男が歩いて来るのが見えました。そこの道路の幅は、三メートルほどでしょうか。ふたりがすれ違うのは、決して難しくない広さです。それでも、私は端によって歩きました。
 ところが、すれ違った瞬間……男が奇声を発したのです。何と言ったのか、よく聞きとれなかったですが「ぐえへへへ!」もしくは「ひゃひゃははは!」というようなものだったと思います。
 いきなりこんな声を出され、私は立ち止まりました。何者かと思い、男の方を見ます。すると、相手も立ち止まり私を見ていたのです。
 そこで初めて、男の顔をまじまじと見たのですが……はっきり言って、異様な風貌でした。テクノカットのような髪型で肌は浅黒く、顔つきは東南アジア系にありがちなものです。年齢は四十過ぎでしょうか。身長は百七十センチあるかないかで、痩せた体つきです。ただ、目は異様にギラギラしていました。その目で、私をじっと見つめているのです。
 一応、言っておきますが……私の身長は百七十センチ強です。しかし体重は八十キロを超えており、がっちり目の体格です。また、髪はスキンヘッドで顔は濃く、ある知人から「プエルトリコの囚人」などと言われたこともあります。
 つまり、私は親しみやすいタイプには見えないはずです。しかし、件の男は私をじっと観ています。敵意は感じられなかったですが、はっきり言って無気味です。
 私は「こいつヤバい」と思いました。が、もしかしたらどこかで会っていた人物なのかもしれません。仕事先で会ったのか。あるいは、何かの集まりで会ったのか。
 そこで、念のため聞きました。

「すみません、どちらさんでしょうか?」

 すると、相手はこう答えたのです。

「地球の日本人です!」

 今も覚えていますが、たいへん元気のいい態度でこんなことを言ったのです。この時点で、私はやっと気づきました。ああ、こいつはマトモじゃない……と。

「あっ、そうですか」

 そう言うと、私はそそくさと立ち去りました。念のため、途中で振り返ってみましたが、後はつけられていなかったので直ちに家に帰りました。



 その後、この「地球の日本人」と称する男とは二度ほどすれ違いました。いずれも、私を意味有りげな目で見てきたことを覚えています。いずれも私は目を逸らし、反応することなく立ち去りました。
 ただ。ここ数年ほどは見かけていません。どこかの施設に収容されてしまったのでしょうか。詳細は不明ですが、もう会いたくないのは確かです。








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