灰色のエッセイ

板倉恭司

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赤ちゃんとの闘いの話

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 これは、数年前に体験した話です。

 当時、私は仕事の都合で移動中でした。時間は午後三時から四時の間であったと思います。
 街を歩いていた時ですが、目の前で踏切が降りたため足止めを食らいました。仕方ないので、立ち止まり電車の通過を待っていた時のことです。
 ふと気づくと、わずか数十センチほど先に赤ちゃんの顔がありました。前に立っているお母さんが赤ちゃんを抱っこしており、ちょうど赤ちゃんと私が見つめ合う形となっていたのです。
 その赤ちゃん、なぜか私をじっと睨んでいます。「怪しい奴め」とでも言わんばかりの表情で、私の顔を見ているのです。
 私は仕方ないので、ニッコリ微笑んでみました。しかし、何の効き目もありません。不機嫌そうな顔で、私を睨んでいます。
 ならば……と、私はヘラヘラ笑いながら首を揺らしてみました。だが、これまた何の効果もありません。「お前は何をしているのだ」とでも言いたそうな顔で、私を睨み続けています。
 こうなると、私も意地です。鼻の下を思切伸ばし、ゴリラのような顔をしてみました。その顔で、頭を左右に振りました。
 その時、横からぷぷぷ……という声が聞こえたのです。私は、ちらりとそちらを見ました。
 すると、二人組の女の子が私を見ながらクスクス笑っているのです。年齢は十代の制服姿で、学校帰りでしょうか。どうやら、この二人組は私と赤ちゃんの闘いをじっと見ていたようなのです。
 ここで根っから明るいタイプ、いわゆる陽キャの人なら、その二人組にも変顔をしてみせるのでしょう。ただ、私はそういうタイプではありません。タイミングよく踏切が上がったので、私は逃げるようにその場を立ち去りました。
 
 その日、私はいろんな意味で敗北感を覚えながら帰りました……。
 




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