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詐欺師は二度、因縁をつける 春樹
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「ちょっと待てや! 兄ちゃん、病院行こうぜ病院! それと……おっさん! これは見逃せねえなあ! きっちり話つけようや!」
たまたま通りかかった場所で、事故を目撃してしまった上田春樹。その瞬間に閃いたものは金の匂いだった。気弱そうな少年が、サラリーマン風の男の運転する車に跳ねられた。こいつは必ず金に変えられる……そう思うと同時に、春樹は怒鳴りつけていた。
「え? いや、いいですよ……俺は大丈夫です。何ともないですから」
ためらいがちに、少年は口を挟んだ。しかし春樹は止まらない。
「ああ? おい少年、お前わかってねえなあ。交通事故ってのは、その時は無事でも、後から症状が出ることあんだよ。なあ、俺はプロなんだからよ、俺の言う通りにしとけ!」
適当な言葉を並べ立てると、春樹は男の方を向いた。中肉中背の四十男だ。地味な安物のスーツを着ており、髪を七三に分けている。ディスカウントショップで買えそうな眼鏡をかけ、腕時計はしていない。靴も明らかに安物だ。今時、珍しいくらい地味な風貌である。気弱そうな表情で、こちらを見ている。
春樹は、次に車を見た。一目でわかる安い中古車だ。身なりから察するに、五万ふんだくるのがやっとだろう。もっとも、この手のタイプは細く長くが鉄則である。一度に取れる額が少なくても、長く付き合っていけばいい。
「あんたマズイんじゃないの? 自転車の少年を轢いちゃうなんてさ。しかも、この子をそのまま行かせようとしてたよね? 普通は病院連れてくでしょ? それがドライバーの義務ってもんでしょ? なあ? これってさ、轢き逃げが成立しちまうぜ!」
言いながら、春樹は顔を近づけていく。中年男は、おずおずと目を逸らした。完全に怯えきっている。これなら、家まで押しかけられる。
「おっさん、きっちり話つけようや。ちょっと待ってろ……少年、お前の名前と連絡先を教えろ。後で電話するから」
少年の名前と連絡先を聞き出した後、春樹は田中一郎と名乗った中年男の車に乗り込んだ。まずは田中の自宅で、きっちり話をしようということになったのである。ふたりを乗せ、車は走り出した。
車の中で、春樹はいつものように喋り続けた。自らの武勇伝を、田中に語って聞かせる。
「だからよお、俺は言ってやったんだよ……やれるもんならやってみろ! ってな。だいたい、俺が拳銃向けられたくらいでビビると思ってんのかねえ。俺は昔、AK四七で撃たれたことだってあるんだぜ。んなもんでビビるかっての」
言うまでもなく、全部デタラメである。春樹は常に、こういった武勇伝のストックを頭の中に溜め込んでいるのだ。もっとも、普段はキャバクラなどで披露するのが関の山だった。
こんなデタラメの武勇伝を信じてしまう人間もまた、世の中には少なからず存在する。疑うことを知らないのか、人を殴った経験や殴られた経験が無いからなのか、単に愚かなだけなのかは不明だ。いずれにしても、春樹は息を吐くのと同じくらいのペースで嘘をつく。その嘘を信じた人間に言葉巧みに近づき、利用する。大抵の場合、嘘を並べ立てて金を巻き上げるのだ。
春樹の武勇伝は続く。
「いや、俺も銀星会の組長さんには気に入られてるんだよ。ずいぶん前から、何度もスカウトされてるし……組に入れば、すぐに幹部にしてやるって言われててな。ま、俺は一応は堅気の仕事してるからよ、断ったけどな……おい、ここはどこだよ?」
車が停まった場所は、マンションの駐車場だった。このマンションが田中の自宅なのだろうか。
春樹の思惑をよそに、田中は運転席を出た。
「早く出ろ……このクズ野郎が……」
押し殺した声が聞こえ、春樹は驚愕の表情を浮かべた。田中の顔つきが、完全に変わっているのだ。先ほどまでの、気弱そうなサラリーマンの仮面は、完全に消え失せている。
「た、田中……て、てめえは……」
それだけ言うのがやっとだった。田中は、完全に変化している。ひとりの人間が、一瞬でここまで急激に変わる様を初めて見た。印象や雰囲気が、百八十度変わってしまっているのだ。衣服も化粧も変えていないにもかかわらず、である。
何が起きたのかわからず、春樹は唖然となっていた……すると、田中は残忍な笑みを浮かべる。
「悪いな、嘘ついちまってよ……俺の名は田中一郎じゃないんだよ。桑原徳馬っていうんだ。ついでに言うとな、サラリーマンでもないんだ。俺はヤクザなんだよ」
桑原徳馬。
春樹は、その名前を聞いたことがある。変わり者ではあるが、金を稼ぐのが上手いヤクザとして有名だった。それと同時に、残虐な男としても知られていた。かつては銀星会の幹部だったが、数年前に何かヘマをしでかして破門された……という噂も聞いていた。
その桑原が、なぜ?
「おい兄ちゃん、お前に頼みたいことがあるんだよ。ちょっと来て手伝ってくれや。嫌とは言わねえよなあ?」
たまたま通りかかった場所で、事故を目撃してしまった上田春樹。その瞬間に閃いたものは金の匂いだった。気弱そうな少年が、サラリーマン風の男の運転する車に跳ねられた。こいつは必ず金に変えられる……そう思うと同時に、春樹は怒鳴りつけていた。
「え? いや、いいですよ……俺は大丈夫です。何ともないですから」
ためらいがちに、少年は口を挟んだ。しかし春樹は止まらない。
「ああ? おい少年、お前わかってねえなあ。交通事故ってのは、その時は無事でも、後から症状が出ることあんだよ。なあ、俺はプロなんだからよ、俺の言う通りにしとけ!」
適当な言葉を並べ立てると、春樹は男の方を向いた。中肉中背の四十男だ。地味な安物のスーツを着ており、髪を七三に分けている。ディスカウントショップで買えそうな眼鏡をかけ、腕時計はしていない。靴も明らかに安物だ。今時、珍しいくらい地味な風貌である。気弱そうな表情で、こちらを見ている。
春樹は、次に車を見た。一目でわかる安い中古車だ。身なりから察するに、五万ふんだくるのがやっとだろう。もっとも、この手のタイプは細く長くが鉄則である。一度に取れる額が少なくても、長く付き合っていけばいい。
「あんたマズイんじゃないの? 自転車の少年を轢いちゃうなんてさ。しかも、この子をそのまま行かせようとしてたよね? 普通は病院連れてくでしょ? それがドライバーの義務ってもんでしょ? なあ? これってさ、轢き逃げが成立しちまうぜ!」
言いながら、春樹は顔を近づけていく。中年男は、おずおずと目を逸らした。完全に怯えきっている。これなら、家まで押しかけられる。
「おっさん、きっちり話つけようや。ちょっと待ってろ……少年、お前の名前と連絡先を教えろ。後で電話するから」
少年の名前と連絡先を聞き出した後、春樹は田中一郎と名乗った中年男の車に乗り込んだ。まずは田中の自宅で、きっちり話をしようということになったのである。ふたりを乗せ、車は走り出した。
車の中で、春樹はいつものように喋り続けた。自らの武勇伝を、田中に語って聞かせる。
「だからよお、俺は言ってやったんだよ……やれるもんならやってみろ! ってな。だいたい、俺が拳銃向けられたくらいでビビると思ってんのかねえ。俺は昔、AK四七で撃たれたことだってあるんだぜ。んなもんでビビるかっての」
言うまでもなく、全部デタラメである。春樹は常に、こういった武勇伝のストックを頭の中に溜め込んでいるのだ。もっとも、普段はキャバクラなどで披露するのが関の山だった。
こんなデタラメの武勇伝を信じてしまう人間もまた、世の中には少なからず存在する。疑うことを知らないのか、人を殴った経験や殴られた経験が無いからなのか、単に愚かなだけなのかは不明だ。いずれにしても、春樹は息を吐くのと同じくらいのペースで嘘をつく。その嘘を信じた人間に言葉巧みに近づき、利用する。大抵の場合、嘘を並べ立てて金を巻き上げるのだ。
春樹の武勇伝は続く。
「いや、俺も銀星会の組長さんには気に入られてるんだよ。ずいぶん前から、何度もスカウトされてるし……組に入れば、すぐに幹部にしてやるって言われててな。ま、俺は一応は堅気の仕事してるからよ、断ったけどな……おい、ここはどこだよ?」
車が停まった場所は、マンションの駐車場だった。このマンションが田中の自宅なのだろうか。
春樹の思惑をよそに、田中は運転席を出た。
「早く出ろ……このクズ野郎が……」
押し殺した声が聞こえ、春樹は驚愕の表情を浮かべた。田中の顔つきが、完全に変わっているのだ。先ほどまでの、気弱そうなサラリーマンの仮面は、完全に消え失せている。
「た、田中……て、てめえは……」
それだけ言うのがやっとだった。田中は、完全に変化している。ひとりの人間が、一瞬でここまで急激に変わる様を初めて見た。印象や雰囲気が、百八十度変わってしまっているのだ。衣服も化粧も変えていないにもかかわらず、である。
何が起きたのかわからず、春樹は唖然となっていた……すると、田中は残忍な笑みを浮かべる。
「悪いな、嘘ついちまってよ……俺の名は田中一郎じゃないんだよ。桑原徳馬っていうんだ。ついでに言うとな、サラリーマンでもないんだ。俺はヤクザなんだよ」
桑原徳馬。
春樹は、その名前を聞いたことがある。変わり者ではあるが、金を稼ぐのが上手いヤクザとして有名だった。それと同時に、残虐な男としても知られていた。かつては銀星会の幹部だったが、数年前に何かヘマをしでかして破門された……という噂も聞いていた。
その桑原が、なぜ?
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