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第3章:奴隷と豚

第11話:豚の恩返し

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「おで、よぐわがんねぇげど! お前ら、ジョセフィーナを泣かせる悪い奴! 絶対に許さんど!」
「その、田舎臭い喋り方をおやめなさい」

 オークキングが咆哮あげて、気勢を高める。
 直後に、領主夫人から突っ込みが。

「すまね」

 しかしなぁ……
 すでに決着はついたようなもんだろうに。

 豚共はほぼ全員が、俺の魔法によってその場に倒れているし。
 領主夫人の当初の目的かどうかは分からんが、彼女の子供は領主になれないみたいだし。

 そもそも、領主は生きてこっちについてるわけだし。
 全てが、遅すぎたんだよ。

 それに外の様子も気になる。
 フィーナとランドールが何をしているのかとか。

「くらえ、ノーズスタンプ」
 
 ニコ、後ろに下がれ。

「うん!」

 オークキングが突っ込んでくる。
 鼻をこっちに向けて。
 それに対して、ニコが少し下がると目の前にシノビゴブリンが割って入ってくる。

「なっ!」

 いとも容易く片手で止められたことに、オークキングが驚いているが。
 それもそうだろう。
 オークロードに腕力で勝るような、ゴブリンロードだし。

 というか、ウォルフも部下の説得に当たったりとか。

「えぇ……ここで、正体ばらすの?」
 
 ウォルフが面倒くさそうな表情を浮かべて、ゴタロウに後頭部をはたかれていた。

 お前の部下だろうが。
 
(レジスタンス共は制圧した。すぐに、そっちに向かう)

 しかも、ランドールから嫌な報告まで。
 来なくていいから。

(えっ?)

 えっ? って、そんなショック受けんなよ。
 本当に、来なくていいんだって。
 もうじき、片が付きそうなんだし。
 領主が味方だから、ニコを助け出しても不利益になることはないし。

(えぇ……)

 ランドールが、かなり不満そうだが。
 関係ない。

「くっ! どけっ、おらは……」
「誰を相手にするのですか? あなたの目的の相手は誰ですか?」
「誰……誰だ? 誰を倒せばいい?」

 そうなんだよな……
 オークキングは領主夫人を守るつもりなんだろうが、誰から守るんだって話なんだよな。
 領主からか?
 ニコからか?
 レジスタンスからか?
 それとも、ゴブリンからか?

 四面楚歌というか。
 それぞれが、それぞれの目的を持って領主夫人と対立しているからな。
 全員を相手どらないといけないわけだが。

 それにしたって、狙われるに値するだけの理由を領主夫人はもってるわけで。
 何をもってして、守ったとみなすか。

 そのあたりを、全く考えてないことが分かる。

「わかんねぇ、ジョセフィーナはどうしたいんだ!」

 結果として、領主夫人の意向をきくしかないわけだが。
 
「お母さま?」
「あなたを領主にできないかもしれないことは分かりました……だからといって、この生活を手放す気もありませんけどね! もはや、この町などどうでもいいわ! まずは、あのくそ亭主から殺してちょうだい!」
「おう、分かったど」

 分かるなや。
 いま、その女相当にゲスい発言してたからな?
 少しは……

「まあ、その男なら良いでしょう……息子さんもいるみたいですし」
「えっ?」

 あっさりと道を譲ったゴタロウに、領主のレオウルフがマジでみたいな顔で二度見してて笑える。
 まあ、ゴブリンのゴタロウからすれば、人がどうなろうが知ったこっちゃないんだろうが。

「誰か守ってくれ! 助けてくれたら、騎士団長にしてやろう!」
「えぇ……恩人を部下にするつもりなのか? せこいねー」

 レオウルフの言葉に、ウォルフが眉を寄せているが。
 お前は、助けるつもりなんか元から無いだろう。

「いや、よっぽどいいものならやぶさかでもないぞ? この町をくれるとか……」

 そう言って、変装をといてオーク形態に……無駄にイケメンなオーク形態になるウォルフ。

「なっ、こいつもオークだったのか?」
「ロード!」

 その正体を見て、レオウルフとオークキングが声をあげている。
 そっか……
 オークキングは気付いてなかったのか。

「人間の貴族ってやっぱり屑だよな、だから俺たちが代わりに統治した方がよさそうだよな?」
「ロード……」

 そういってオークキングの傍によっていったウォルフ。
 キングが期待した眼差しをウォルフに向ける。

 そして、キングの腰に腕を回し……

「馬鹿野郎が!」

 そのままバックドロップをかけられていた。

「痛い! 何をなさるので」
「相手を見て喧嘩売りやがれ! どう考えても、こいつらヤバい奴らだろう!」

 どうやら、ウォルフは俺達と争う気はないらしい。
 しかしわざわざ正体を現した理由は……

「おいおっさん、あんたの奥さんはオークキングを手懐けてるらしいが……ロード飼ってみる気はねーか?」
「何を馬鹿な……」
「守護者として、守ってやるって言ってるんだ……悪いが、そこらの正規兵どもじゃ束になっても相手にならんぞ?」

 おお、領主に売り込みか。
 目的は……

「まあ、それなりの立場と、オークの地位を要求するがな」
「だが……」
「断れば、こんな町すぐにでも……滅ぼしたら、そこの怖い人に怒られそうだから、お前ら領主一族を根絶やしにしてやろう……たぶん、そっちの兄さん方もあんたらの内輪もめに辟易してそうだし」

 ウォルフの言葉に対して、シノビゴブリン達が頷いている。
 まあ、正直領民の皆さんも不満は溜まっているようだし。
 
 ただ、そうなると俺達のうまみがないな。

「おっと、兄さん方と揉める気はないぜ? 流石に竜まで相手となったら勝ち目はないしな」
「そうだった……ゴブリンの群れと竜も来てるんだった」

 ウォルフの言葉に、レオウルフが頭を抱えている。

「ロード、おで……いくら、ロードでもジョセフィーナのためなら「ああん? 俺とやろうってのか?」

 遠慮がちに話しかけてきたオークキングを、ウォルフが睨みつける。

「キングの?」

 そして、頭を掴む。

「お前がか?」

 下から顔を寄せて、のぞき込むようにしながら凄みをきかせるウォルフ。
 へぇ、なかなか怖いじゃん。
 チンピラみたいだけど。

「ジョセフィーナいなかったら、おで生きてねー」
「そうよ! 全力で私を守りなさい」
「うん、おで頑張る」

 本当にあの領主夫人は、害悪だな。
 オークキングの目を覚ましてやりたいところだが。

 そして、オークキングが手と手を叩いて、気合を入れたところに扉が激しく開かれさらなる乱入者が。

「くっ、大丈夫かルアンダ!」
「キオリナ兄さん」
「待ちなさいよ、この豚やろう!」
「フィーナ! 鈴木が来ちゃ駄目っていっておるぞ! 待つのじゃ!」

 レジスタンスのリーダーのキオリナ。
 それを追ってきたフィーナ。
 さらにそれを追ってきたランドール。

 ふふふ……

 勢ぞろい……

 来るなっていったのに。
 というか……

 流石に、俺も面倒くさくなってきた。
 というか、腹が立ってきた。
 
 こいつらの、あまりの身勝手さに。

「寒気が……」
「なんだ、この威圧……」
「鈴木、まて! まつのだ!」
「主……」
「あっ、だめ……」
「うっ……」

 ニコの持った俺の刀身から放たれる威圧。
 ランドールの威圧に加えて、いままで獲得した全ての魔物の威圧を放つ。

 圧が暴風のように荒れ狂って、周囲に襲い掛かる。
 可視化されるほどの、強烈な威圧。
 色々な色による重圧に、全員がその場にひれ伏す。

 ゴブリン共! そこの豚共を全部連れてとっとと町から出やがれ!

「はっ」
 
 俺の言葉に返事をしたゴタロウだが、声が若干震えてる気がする。
 いいよもう……

 取り合えず、豚共は邪魔だ。

「おでが……おでが、ジョセフィーナを……」
 
 その心意気は見上げたものだが、いかんせん守る対象が悪すぎるな。
 俺の威圧に逆らうように立ち上がる。
 足はガクガクと震えて、中腰の姿勢ですら辛そうだが。

「ジョセフィーナ……逃げ……て」

 そう言って足元から槍を拾って投げようとして……槍が爆ぜる。
 魔法で破壊したわけだが。
 手の中で粉々になった槍をみて、呆然としたようすのオークキング。
 それならばと、一歩ずつこっちに近づいてきたので、地面を土魔法で陥没させる。
 それだけで、足を踏み入れて全力でこけるオークキング。

 それでも諦めないのは流石だが。

 領主夫人なら口から泡吹いて倒れてるから、逃げられないんじゃないかな?
 
 取り合えずこの場にいる人間が全部失神したので、その間に豚共を外に運び出す。
 住民がワーワー騒いでいたが、気にすることも無く。
 流石にゴブリンの群れがオークを担いでいるのを見て、思うところがあったのか道が開ける。

 そこを歩くゴブリン部隊。

 レジスタンスや兵士たちは、全員もれなく縛られて並べられていた。
 優秀だなーゴブリン達。
 
 そういえば、この町の冒険者達は魔物の襲来があったというのに、何をしてるんだ?
 ギルドに引きこもっている?
 住人を避難させつつ。

 そっか……
 なんか、微妙だな。
 戦う気はないけど、何もしないと叩かれるだろうから、救援活動でアピールしてるのかな?

 取り合えずシノビゴブリン達には、領主一家をまとめて縛って一室に突っ込んどいてもらった。
 あとで、話し合いをするために。
 こっち側の代表は……俺とゴタロウ、ウォルフかな?
 オークキングは……話してからきめるか。

 あと、こっちを期待した目で見ているそこの駄竜。
 お前は、連れて行かんからな?

 気持ち悪い見た目しやがって。
 幼い少年の顔で、身長190cmはやめれと言っただろう。

「まだ、修業中なのだ。仮面をつけたらどうだろうか?」

 仮面つけたら、一生練習しなくなりそうだから却下。

「ぬぅ……厳しくないか?」

 なんか、お前甘やかされまくってそうなんだもん。
 一人くらいは厳しい人が居た方がいいと思うぞ?

「そんなに甘やかされた記憶はないがな……親にも追い出されたし」

 100年以上親のすねかじってたくせに。

「ぬぅ……」

 取り合えず、正直町のことなんか俺の関わるべきことじゃないが。
 ニコの今後のためにも、色々と手をまわしておいた方がいいな……
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