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第3章:奴隷と豚

第12話:メノウの町の顛末

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「さてと……言いたいことはあるかな?」
「ガキが偉そうに」
「あん?」

 フィーナにニコを寝かしつけてもらって、いざ会談に。
 実質的に、メノウの町はゴブリン達が武力で制圧した状況。
 町の人達は、色々と不安かもしれないけど……

「へえ、あんたみたいなのでもゴブリンなのかい?」
「ええ、進化の過程でニコ様に近しい形になりたいと願った結果、貴方達と似たような見た目に」
「ニコ様ってのは、人なのかい?」
「はい」

 外の様子を俯瞰の視点で盗み見る。
 住人の方達と楽しそうに会話する、ネオゴブリンやゴブリンキング達。
 
「お兄さん可愛いね、飴ちゃん食べるかい?」
「良いんですか?」
「若い子が遠慮するもんじゃないよ」
「ありがとうございます」

 まだ少年といっていい容姿のゴブリンが、中年や年配の女性に囲まれて食べ物を貰っている。
 たくましいな、この町の住人の人達。

「オークだっけ? あっちは、豚みたいな見た目なのにねぇ」
「ゴブリンさんの方が、人にそっくりね」
「えへへ、照れます」

 自分の子供や孫くらいの容姿の美少年がはにかんだもんだから、おばさまがたが色めき立っている。

「ゴブテルさんって、お付き合いしてる人とかいらっしゃるんですか?」
「やっぱり、お相手はゴブリンじゃないと駄目とか?」
「私は、ニコ様と同じ人という種族に憧れてますよ」
「本当ですか?」

 死ね!
 ちょっと離れた場所では、俺も納得のイケメンゴブリンが若い女性に囲まれている。
 というか、イケメンゴブリン達か……

「お前ら、しっかりしやがれ! 自分の町だろうが」
「ひい……」
「領主ってのはそんなにえれーのか?」
「それは、町を統治する人ですから……」
「だったら、それなりの人格ってのが必要じゃねーのかよ! あんなやつ、頭失格だろうが! だったら、住人のおめーらできちんとした頭を選ぶしかねーだろーが」
「あの、人の町ってのは、貴族が納めるものでして……その、世襲制なうえに国王陛下からも認められておりまして……」
「その王様ってのは、おめーら一人一人の生活まで、面倒みてくれんのかよ! おめーらの名前を全部、言えんのかよ」
「話が通じない……」
「そんな単純な話じゃ……」
「嫁や子供を守るのがお前ら男の甲斐性だろうが! そのおめーら住人を守って豊かで幸せな生活を提供するのが、頭の甲斐性だろ? そして、それらを束ねてそれぞれに安定を享受させてやるのが王の役目じゃねーのか? お前らが者や金、労働力を納めて町や国を守るなら、国もお前らを守るのが世の常ってんじゃねーかよ!」
「そうだけど、人の世界ってのはそう単純じゃない……」

 なんか、ゴブリンカーペンターヘッドが、男どもを正座させて説教してるけど。
 野郎どもは涙目だな。
 なんせ、貴族や王族に逆らったら打ち首獄門まったなしだろうし。
 うんうん……
 ゴブリンと、人の世界は違うんだ。

 ゴブリンロードはめちゃくちゃ強いかもしれないけど、王様って戦闘力でいったら普通の人と大差ないからね。
 力こそ全ての魔物の世界と混合しないように。

「そんな腕前でどうやって、町を守ろうとしていたんだか」
「ひぃ」

 さらに兵達を拘束している大広間では5人ずつ縄をほどいて、ゴブリンキングが1人で相手していた。
 これは、絶対に逆らわないように徹底的に心を折りにいってるな。
 相手してるのはずっと同じゴブリンだけど、その後ろに似たようなゴブリンが10人ほど整列してるし。

「ちなみに、俺はこの11人の中で一番弱いからな?」
「マジか……」
「悪夢だ……」

 弱いかなぁ?
 逆にいえば、1番強いともいえるよなぁ……
 だって、ほぼ同じ戦闘力だもんな……君たち。
 ものは言いようだな。

 まあ、住人の方には申し訳ないが、町の外にはまだ出せない。
 出せるかどうかは、ここでの話し合いの結果次第だな。

 会議に視点を戻す。

「お帰りなさいませ」

 おっと、ゴタロウには視点だけ町を見に行ってたことが、バレてた模様。
 なかなかに、いい感じの部下だ。

「まず、ジョセフィーナ……は、問答無用で死罪か」
「なんでよ!」
「なんでって……外に売られた子供達全員見つかってるわけじゃないし、外から来た男性や女性または住人に対する兵たちの暴行の幇助に、殺人容疑も」
「殺人って……まあ。でも、だからってあんたに裁かれる筋合いはないわ」
「はぁ……国に任せても死刑まったなしだろう」
「誰が、ゴブリンの言うことなんか」

 話にならない。
 ゴブリンどころか、この町にいる人たちみんなが証言してくれると思うんだが。

「ジョセフィーナ……子供達を売ったって本当か?」
「うっさいわね。そうよ! 文句ある?」
「おめ、なんでごどを……」

 領主夫人の子供を外に逃がしたという話を信じていたオークキングが、かなりショックを受けているが。
 取り合えず、ジョセフィーナの死刑は確定。
 あとで、方法を考えないと。

「次に「ちょっと、待ちなさいよ!」」
「【サイレント沈黙】」

 ジョセフィーナがうるさいので、魔法で黙らせる。
 さてと……

「次はレオウルフ「ガキが偉そうに、貴族であるわしを呼び捨てにするな! ひっ!」」

 俺が名前を読んだらそっぽを向いて悪態をついていたが、その視線の先にゴブリンが現れたのをみて驚いて椅子から滑り落ちていた。
 本当に情けないやつだ。

「お前は、領主を退任だな……」
「貴様に、それを決める資格などあるか!」
「俺にはないが、領民の総意だ!」
「はあん?」
「ここに、アンケート結果が」
「アンケートだぁ?」

 すっとシノビゴブリン達が、資料をその場にいた全員に手渡す。
 そこに描かれているのは円グラフ。

 支持……12%
 不支持……82%
 どっちでもない……5%
 無回答……1%。

「ご覧のとおり8割以上が、お前を領主として認めないらしい」
「馬鹿な、出鱈目だ!」
「じゃあ、詳細な意見をいくつか抜粋して」

 そういって、支持派の意見から一部抜粋。

 正直誰が領主でも期待しないから、今のままでもいい……20代無職男性
 今回の件で反省してくれると期待して、変わらなければ何がなんでも殺す……50代騎士団所属
 色々と便宜を図ってもらっている(複数意見)
 どんどん町がだめになっていくのが、面白い(10代男性)
 身体を触らせると、お小遣いくれるから……10代女性(同意見多数)

「んー! んー!」

 3つ目の項目をみたジョセフィーナが、魔法の拘束にほころびを生じさせるほどにうめいている。
 声が出せるだけでも、凄いな。
 でもお口にYKKでお願いします。

「【サイレント沈黙】」
 
 魔法の重ね掛けで、完全に黙った。
 息できてる?
 できてる?
 良かった。

 領主夫人の口の前に手をもってきたゴブリンが頷いたのをみて、話を続ける。

「すげーな……支持派の意見でまともなのが、ほとんどねーぞ?」
「でたらめだ!」

 そのレオウルフの声に、護衛として仕方なく同行を許可した騎士団長がおでこに手を当てて、首を横に振っていた。
 殺気が膨れ上がったところをみるに、騎士団関係者ってこいつかな?
 他の意見をみたあたりで、顔を曇らせていたから。
 諦めたのだろう。
 というか、このまま続投させたら、この人に殺されそうだ。

 反対派の意見は……
 まったく役に立たない、税金泥棒(複数意見)
 正直入り婿だし、まったくもって親近感が湧かない(複数意見)
 顔がキモイ(多数意見)
 見た目が無理(圧倒的多数意見)
 壇上で演説するときに、胸元を見てくる視線が気持ち悪い(女性回答者超多数意見)

 ……
 なんか、統治能力と関係ないところで支持率が落ちてる。 
 取り合えず、スケベ親父ということは分かった。

「うーむ……心当たりが……」

 そして、レオウルフが神妙な面持ちに。
 比例するように騎士団長の表情は険しいものに。

「ということで俺はよそ者だが、住人の意見をまとめたうえでの退陣要求だ」
「だが、わしが辞めたところでどうなる? キオリナにはまだ統治は無理だろう」
「はっ? 出来るし?」
「いや、無理じゃな……」
「いーや、できますぅ!」
「お前みたいな青二才に何が出来るというのだ!」
「色々と出来ますぅ! インフラの整備に、特産品の開発、近隣都市との協力関係の強化に、出産育児に対する補助制度の設立。観光資源の保護に、福利厚生費の見直しによる住人の満足度の向上、色々と考えてますが? 参考までに父上がこれまで行ってきた政策をお伺いしても?」

 豚で見るからにボンボンの癖に……まともなことを言ってる気が。
 理想論じゃないといいが。

「うるさいうるさいうるさい! なんだ、そのふわっとし抽象的な意見は! もっと具体的な案はないのか?」
「質問を質問で返さないでくれますかぁ? まずは、父上の行った施策を聞いているのですが? もしかして……ないんですか?」

 すっごく、高次元なテーマの程度の低い親子喧嘩だ。
 見るに堪える。
 横で、ジョセフィーナの子供のルアンダが、表情を曇らせている。

「あるに決まってるだろう! だが、そんなものお前に言っても理解されないに決まってる。このバカ息子が!」
「へぇ……じゃあ、私の方から……まず特産品の方ですが、温泉地近くにある泥炭層。そこにある泥をパック代わりにする美容品の販売を考えてますよ? これは実際に領民の方に協力をえて、効果をいま実証中です。もちろん、それ以外にもありますがそれは置いておきましょう。他には、お父様が領内で遊び惚けている間に、私は他領のご子息、ご息女方と手紙にて交流を図っております。ときおり、町の外に出ていたのは、こうやって築き上げた人脈をより密なものにするために、持ち回りでパーティを行っておりまして……」

 なんだろう……
 あれ?
 この息子優秀じゃないか?

「これらに関しましては、そこにいるルアンダにも知恵を出してもらっております。色々と帝王学等も学び、また特権階級との関りを長く続けて凝り固まってしまった私には想像も及ばない、神童と名高い知性と、子供ながらの柔軟な発想……独自性のある視点からの意見は目から鱗が落ちるようなものばかりで……」

 からの、弟自慢にシフトしてたが。
 レオウルフがぽかんとしてる。
 いい意味で、目玉どこー? 状態だな。

 しかし、長いな。
 弟自慢。

「そもそも、私と違って見た目も天からの贈り物といっても過言ではない容姿。私自身を暗愚な悪役をすることで、領民達にルアンダに傾倒させることで人心掌握においても一定の結果が出ておりますが? これによるメリットとしては、私が出した無茶な意見をルアンダに否定させ、より優れた代替案を出させることで、多少は町に不利益のある政策でも目をつむらせつつ意欲的に領民を動かせることができます……デメリットとしては、私が嫌われてもしかしたら、クーデターが起きるかもといった程度のもんです」

 自身をマッチポンプにして弟の評価をあげつつ、実質住人に不利益があっても必要な政策に関しては最初に無茶な提案をして、弟にそれよりもマシで耳障りの良い政策を出させて住人をスムーズに従わせると。
 ドアインザフェイスとの併用か……

 こいつ、意外と恐ろしいぞ?
 ゴタロウに視線を送ると、ゆっくりと頷いていた。
 及第点というか、町を任せるのに問題ないと。

「私は……お兄様が嫌われるのは、とても嫌ですけどね」
「人の上に立つ者というのは、嫌われ者かカリスマを持つ者しかいない……そして、町を発展させるのは、有能な嫌われ者だ。私は有能ではないが、その分、お前が有能だからな……しかも、溢れ出るカリスマもある。だから、2人合わせれば最高だな」

 弟からそのカリスマとやらは感じないが、兄の目からするとそうなのだろう。
 良かったなアホ領主に、屑嫁。
 子供達は幾分かマシなようだぞ?

「あの? 俺を雇うって話はどこいった?」
「お前の雇い主の領主は、解任されたから……お前の行き場はないな?」
「いやいや、別にそこのアホ息子でも構わんぞ?」

 それまで黙っていたウォルフが、ここに来て口をはさんできたが。
 そもそも、こいつの目的を聞いてない。
 協力するかどうかは別として。

「なんで、この町に潜り込んだんだ?」
「いやぁ……」

 そこでウォルフが語った理由は、まあ……
 オークってのは、もともと繁殖力がそれなりに強いらしい。
 というのも多胎動物であるために、一度の出産で10頭前後の子供を産むからだ。
 それによって、数が増えすぎないようにと生産調整をしているらしいが。
 それでも数が増えていくと。
 その背景としては進化して無駄に知性が上がったために、繁殖目的だけでなく愛情表現としても性行為をする豚が多く……避妊に対する認識が甘いこともあるらしい。
 このままでは巣とした場所の生態系にも影響があるということで、人との共存の道を模索していて。
 そのモデルケースとして、たまたまオークキングのお陰で伝手のできたこの町をターゲットに。
 人との性行為であれば、人は一度の出産で1人……しかも年2回出産可能なオークと違って、ほぼ年に1度しか出産しない。
 
 問題はオークと人との間に恋愛感情が芽生えるかという部分。
 そのためにも、まずは人側にオークが町に住むことを認めてもらって……

 凄く熱く語っている。
 ゴブリン達は理解を示している。
 キオリナとルアンダは、何やら思案顔。
 そして……レオウルフは鼻をほじっていた。
 うん、ぶん殴っていいかな?

 というか、この世界の亜人種の魔物って……

「まあ、俺みたいに人化出来れば早いんだろうが」
「ウォルフ殿とやら、まずは何頭……いや、何人と言った方がいいかな? 何人くらいの受け入れを要求しようと考えているのだ?」
「あー、俺を代表に、まずは20人ほどで考えている。一応、女も連れてくるが……たぶん、人の雄とオークの雌が交わったところで、ハーフが一度に何人かは生まれるだろうな」
「それは……まあ、後々のことを考えたら、労働力や兵力の増強に魅力的な話ともいえるが……」
「いやいや、数が多ければいいってもんでもないぜ? 俺達だって、その一度の出産数が問題で、こうやって解決案を探してるわけだし」
「ゴブリンも、オークほどじゃないが、一度に3~5人は産むから……そうか、人との共存にそんなメリットが」
「それだと、亜人種の魔物の雌の存在意義が」
「そうなんだよな。ただ、もし人が同時に複数の子供を産まないのが遺伝に関係するのであれば、かりに人の雄とオークの雌が交わっても、10匹生まれるなんてことはないかもしれない。そして、血が交わるうちに出産数は減るかなと……」
「そもそも、子供が複数いたら……そうだな、可能性は」
「色々と理由はあるが、俺達は子供が好きだ……まあ乳の出に差があって、よく出る女どもが持ち回りで色んな子供に乳をやったりするからかもしれんが」

 おーい!
 俺を置いてかないでくれるかな?
 なんだろう……
 キオリナとウォルフの会話が盛り上がっていて、加えてルアンダが一生懸命何かを考えてキオリナに耳打ちしてるし。
 ちょっと、話が長引きそうだからそれは後回しで。

「すまんな……なんか、この坊ちゃんとは話が合いそうだわ。見た目も親近感湧くし」
「誰が豚だ! オークに親近感をもたれても、全然嬉しくないわ」
「鏡を見てみろよ!」
「ふん……鏡だと? おい、鏡を……おお、豚が映っているぞ!」
「はっはっは」
「お兄様……」

 ウォルフとキオリナが意気投合してる横で、ルアンダが頭を抱えている。
 終始こんな感じでと言ったらあれだが、レオウルフとジョセフィーナは別として、キオリナとルアンダ、ウォルフとは建設的な話し合いとなった。
 なってしまった。
 不本意ながら。

 バカ息子をどうまるめこもうか。
 ウォルフを、どうやって引き込んで利用してやろうかと考えていたが。
 ベストではないが、ベターな結果になりそう。

 いやいや……

 おかしいよね?

 ウォルフが真面目に考えている。
 キオリナがかなり為政者としての自覚がある。
 ルアンダはよく分からんが。

 人は見た目で判断しちゃだめだよね?

 
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