45 / 91
第3章:奴隷と豚
第9話:ハーミット・ウォルフ参上!
しおりを挟む
さてと……
「なんで、ゴブリンロードの方がつえーんだよ」
すっかり意気消沈の、ウォルフ君。
正体を見せてもらったけど、なんていうか……
思った以上に、普通にかっこいいというか。
身体もガッシリしてる。
まあ、野生の豚って体脂肪率13%前後っていうからね。
人型だと、そうだよねって感じ。
大柄だけど、かなり引き締まって見える。
ぶん殴りたい衝動にかられつつ、とりあえず放置。
子供たちのこともあるので、朝を待ってから行動開始。
俺は領主夫人の観察を継続したが……
色々と後悔。
マジで屑だったわ。
女性を数人部屋に招きいれたんだけど。
かなり憔悴した女性が4人。
それに対して、ベッドに横たわったまま扇子で顔を隠して見渡す領主夫人。
女性たちは、中に入るなり土下座。
この世界にも土下座ってあったのか。
地面に頭をこすりつけている。
「お願いですから、娘を返してください」
最初に懇願した女性を皮切りに、他の女性も子供達を返してくれと。
「まあ、お金もないくせに図々しい。で……子供を返したところでどうするつもり? 自分達だって満足に食べられないくせに」
「……それは」
「は……働いて、なんとかします」
「どこで?」
うわぁ、凄く悪い笑みを浮かべている。
「その、最初に紹介してもらった場所で働かせていただいたら」
「ははは、そんな薄汚れて痩せこけた女を誰が抱きたいと思うのよ!」
歯を食いしばって応えた女性をあざけり笑って、扇子を突き付ける領主夫人。
こいつ、本当に性格悪いな。
というか、娼館に落とすつもりだったのかよ。
ただまあ、領主夫人の言葉もごもっともと言えるというか。
ここにいる女性は、全員がガリガリに痩せこけていて、肌も荒れて酷い状態だ。
ちょっと、女性としての魅力が全くない。
血走った目や、不健康そうな唇を含めて。
「どうせ、貴方達じゃ客も取れなくて、親子ともども飢え死ぬのが分かり切ってよ」
豚を部屋に帰したのは、こういうことか。
こんな姿を、あのオークキングには見せられないもんな。
「頑張ります」
「貴方達が頑張っても意味がないわよ……選ぶのは男性ですし。選ばれなければ頑張りようもないでしょう」
「うっ……」
「酷い……」
領主夫人の言葉に、何人かが泣き始めた。
うーん。
胸糞悪い。
「売女の子供として惨めな思いをしながら最低限以下の生活で餓えて死ぬよりも、奴隷としてでも食事も取れて屋根と壁のある部屋で寝られる環境の方がよっぽどいいんじゃないかしら?」
代表で喋っていた女性が領主夫人を睨んでいるが、すぐに騎士の男性に頭を抑え込まれる。
「なかなか、たくましいことで」
そして、領主夫人はその女性の目の前までつかつかと歩いていくと、顎に閉じた扇子の先を当てる。
顎をくいっと持ち上げると、扇子で思いっきり頬をひっぱたいた。
痛そう……
ダメだ、すでにお腹いっぱい。
「生意気な女……まだ、助かる気でいるみたいね」
「助かる気なんて……自分の力で、あがいて「無駄よ!」
女性が何かを決意した強い眼差しで睨みつけて何かを言いかけたのを、領主夫人はさらに強い口調で黙らせる。
そしてふっと笑みを浮かべる。
「だぁって、貴女の子供達……もう、売っちゃったものぉ! オーッホッホッホッホ!」
そう言って、扇子を頬の横にもってきて高笑い。
うわぁ……
うわぁ、うわぁ……
リアルにこんな女がいる世界とか。
マジで、嫌すぎる。
はなたの子供って……
鼻にかけすぎた声でそう聞こえたけど、それだけでも役満級に性悪に見える。
「うそっ!」
「酷い……」
「いやぁ……!」
「ジョニー!」
女性たちがパニックを起こして泣き叫んでいるのを、楽しそうに一通り眺めたあと領主夫人が顎をしゃくる。
「その汚物、捨ててきて頂戴! まあ、その前に身体を洗ってあげてもいいわよ? 貴方達の手で」
領主夫人の言葉にそこにいた騎士たちがにやりと笑うと、女性の脇を掴んで無理やり立ち上がらせる。
「良かったな、最後に身体を清めてもいいってさ」
「まあ、そのあと汚しちゃうかもしれんがな」
「そしたら、また綺麗にしてやるよ」
そう言って、下卑た笑いを浮かべながらすっかり目の光を失って無気力になった女性たちを、引きずって連れ去る。
ふふふ……
無理……
いくら自称鋼を超えた謎金属の精神でも無理。
とか言いつつ、次の日の朝まで持ち越した理由。
それは……
女性たちがこのホテルで、自分の子供達と一緒にスヤスヤと眠っているから。
なんと、レジスタンスのハーミット・ウォルフが女性達を救出したのだ。
「いや、俺ずっとここに居たんだけど?」
女性たちが、ウォルフに揃ってお礼を言っていた。
当の本人は、困惑していたが。
ちなみに人化しているので、普通の人と見た目は変わらない。
ちょっとやぼったい、無精ひげの若者っぽい見た目。
しかし、見事な人化だ。
ぜひ、ランドルフに教えてやってほしい。
「いや、なんで俺が助けたことに」
そのウォルフの人化の技術に感銘を受けた数人のゴブリン達が、ウォルフを手本に人化して助けたからじゃないかな。
といっても、どっちかっていうと変装と幻術に近いけど。
「ついでに壁にも、ハーミット・ウォルフ参上と書いておきました」
でかした!
「でかしたじゃねー!」
ウォルフが俺に対して怒鳴ってきたが、ゴタロウに睨まれて黙らされていた。
オークロードって、ゴブリンロードよりも弱いのか。
「違うし……鈴木……さんの部下のゴブリンがおかしいだけだし」
鈴木と呼び捨てにしようとして、ゴタロウと他のゴブリンに睨まれたウォルフの言葉が尻すぼみに。
「これでも割と頑張って人のふりして、色々と念入りに計画を立てて実行してたんだけどな……全部、台無しだよ」
俺に出会った時点で、計画は失敗だよ……だって、お前ら馬鹿じゃん?
「酷いな! ロード種の知性をばっかにすんじゃねー!」
ばっかだから、ばっかにしてんだよ!
「ばっかていうな! 馬鹿より馬鹿そうで嫌だ」
お前が言い出したんだろう!
「ぐぬぬ……」
下手の考え休むに似たりというが……休んでた方が、時間も体力も無駄にしないぶん建設的だな。
「剣の癖に」
良いのかな、そんなこと言って?
「えっ、ったぁ! あいたぁ!」
俺とのやり取りに集中しすぎたせいか、背後に忍び寄ったシノビゴブリン達に気付かず、ボコボコにタコ殴りにされていた。
「で、こっちはどうされるので?」
「無視? 俺、勝手に名前は使われるわ、理不尽にボコられるわで割と可哀そうなんだけど? 少しは悪いとかって思わないの?」
「生憎と家畜に向ける情など、露ほどにも持ち合わせておりませんので」
「酷くね? 鈴木の部下酷くねってあいたぁっ!」
「鈴木様だろう! 無礼者!」
「なんで、剣に敬称つけってあいたぁっ!」
こいつは、本当に学習しないやつだ。
ただ、正体ばれても逃げ出さないし、なんでこんなことされて一緒にいるのか分からんが。
「ねえ、いつ叱りにいくの?」
そして、俺を持っているニコが首を傾げる。
そう、ゴタロウからニコの手へと俺は渡された。
色々と、もう頑張らなくても良いことが分かって、脱出させた。
ゴブリンに助けさせようかとも思ったけど、せっかくだしちょっと暴れてもらって。
といっても、壁をひたすら破壊して真っすぐ外に出てもらう程度だけど。
強引に真っすぐ歩いて壁を破壊するニコに、騎士達もどう手を出していいものかと攻めあぐねていた。
というか、恐怖で顔が引きつっていた。
だって声を掛けたら、目だけ笑ってない笑顔を向けられるんだもんな。
壁を無いものとして真っすぐ歩く子供に。
そりゃ恐怖だろう。
逃げ出してもらった理由でもある。
そんな表情をするくらいに、ニコが怒っていたからだ。
そしてもう1人。
「すまんな、ハーミット・ウォルフとやら」
「いやいや、おっさんこそ、しっかりしろよ! あんたの奥さん、最低すぎるだろう!」
「返す言葉もないが、あれで結構可愛いところもあるのだぞ?」
「返す言葉無いんじゃないんかーい! そんな言葉を吐いたのと同じ口で惚気んじゃねー!」
「まあ聞け! 普段は性悪で上から偉そうに行ってくるが、夜は下が好きでな……それはそれは、しおらし「ガキが居るところで、なんつー話してんだ、この色ボケじじい!」
ニコが居るところで下世話な話をしはじめた、ダンディなちょい髭親父に蹴りを入れるウォルフ。
「無礼者!」
「無礼も何も、俺はあんたの部下じゃねーからな?」
「なんと! そうなのか?」
ウォルフと、アホなやり取りをしているこの男性。
この町の領主。
レオウルフ・フォン・メノウ。
なんとなくウォルフと似た名前だ。
でもレオってついてるだけに、ウォルフよりも偉そう。
こっちもついでに助けてきた。
それが、一番の近道だと思って。
今頃、領主邸は大騒ぎだろうな。
あとは、バカ息子をどうするか。
レジスタンスのリーダーをやらされてるあいつ。
「うちの子供たちは、全員もれなく優秀だぞ? バカ息子とは失礼な」
「嫁と豚に謀反おこされた馬鹿領主は黙ってろ」
おお、俺も同じことを考えた。
ウォルフと同じレベルか……
それを言うなら、お前も部下の手綱くらいちゃんと握っとけよな?
ことの発端は、お前の部下のオークキングの暴走だからな?
「ウグググ」
そう言ったら、悔しそうに唸ってた。
ちょっと、すっきり。
「ちーっす、ハーミット・ウォルフでーす」
そんな感じで、宿でわちゃわちゃしてたら、次のハーミット・ウォルフ達が戻ってきた。
子供達や、それなりの年齢の女性、あと死んだ魚のような目をした男性を連れて。
「なんで、俺がこんなにいるんだよ」
ちなみに入ってきたハーミット・ウォルフ達は6人。
4人がゴブリンロードで1人がゴブリンエンペラー、もう1人がゴブリンキング。
「レア支配種のエンペラーまでいるのか……まあ、レア中のレアのロードが群れてる状態で言うことでもないが」
ロードほどではないが、キングよりもレアなエンペラー種。
珍しそうに見てたけど、たまたま数が多いだけでロードの方がレアなんだよな。
連れてきた人間たちを置いて、ハーミット・ウォルフ達はすぐに出かけて行ったけど。
本物のウォルフが、額に手を当ててため息をついている。
元気出せ。
何があったか、知らんが。
「この状況で、よくそんなことが言えるなってったぁ! あいったぁ!」
「口を慎め無礼者!」
「あんたの部下、マジで容赦ねーわ!」
俺に対して呆れた様子で愚痴をこぼしたウォルフが、またもゴブリンロードに叩かれていた。
いやいや、お前もそろそろ学習しような?
「つーか、これお前らこのまま町出たら、全部俺のせい?」
ウォルフの呟きに対して、部屋にいたゴブリン達が無言でニヤリと笑う。
同時に……
うん、きしょい。
というか、怖い。
「ひっ……酷くね?」
「畜生に向ける情など露ほどにも「酷くね? 畜生にまで落とされた」
ゴタロウの言葉尻を食って、ウォルフがその場に崩れ落ちたので肩に手をおいてなぐさめ……手なかったわ。
仕方ない、放っておくか。
「さて、アホは放っておいて、作戦会議といくか」
「あー、マジでひでー。まあ、良いか……俺も「あー、お前はあっちで子守りでもしててくれ」
「……」
そういってゴタロウを中心に車座にゴブリン達が集まってきたので、ウォルフがその輪に加わろうとしてすぐ横のゴブリンに肘で押し返されていた。
流石に、その扱いは俺も可哀そうだと思う。
いいぞ、もっとやれ!
「泣くぞ! 最後には泣くぞ!」
最後には泣くって言われても、そもそも最初から仲間じゃない件。
「うわぁーん」
本当に泣きながら、部屋から飛び出していった。
「おじちゃん、仕方ないから一緒に寝てあげる」
俯瞰の視点でどこに行ったか探したら、最初に居た部屋で髭が嫌だと言っていた男の子に慰められてた。
面白いやつ。
ただ、この子の親もさっき見つかったんだよな。
そろそろ、ハーミット・ウォルフが連れてきてくれるはずだけど。
「パパ、ママ……せっかく会えたのにごめんね。今日は、このおじちゃんと寝る……なんだか、放っておけなくて」
「うわぁーん、なんて良い子なんだぁ……」
情けないぞ、ウォルフ。
そして、気付け。
両親が、殺気を込めた視線をお前に送ってるぞ?
結局、ウォルフはその視線に気付かずスヤスヤと寝入っていたが。
本当に、なんなんだこいつは……
「なんで、ゴブリンロードの方がつえーんだよ」
すっかり意気消沈の、ウォルフ君。
正体を見せてもらったけど、なんていうか……
思った以上に、普通にかっこいいというか。
身体もガッシリしてる。
まあ、野生の豚って体脂肪率13%前後っていうからね。
人型だと、そうだよねって感じ。
大柄だけど、かなり引き締まって見える。
ぶん殴りたい衝動にかられつつ、とりあえず放置。
子供たちのこともあるので、朝を待ってから行動開始。
俺は領主夫人の観察を継続したが……
色々と後悔。
マジで屑だったわ。
女性を数人部屋に招きいれたんだけど。
かなり憔悴した女性が4人。
それに対して、ベッドに横たわったまま扇子で顔を隠して見渡す領主夫人。
女性たちは、中に入るなり土下座。
この世界にも土下座ってあったのか。
地面に頭をこすりつけている。
「お願いですから、娘を返してください」
最初に懇願した女性を皮切りに、他の女性も子供達を返してくれと。
「まあ、お金もないくせに図々しい。で……子供を返したところでどうするつもり? 自分達だって満足に食べられないくせに」
「……それは」
「は……働いて、なんとかします」
「どこで?」
うわぁ、凄く悪い笑みを浮かべている。
「その、最初に紹介してもらった場所で働かせていただいたら」
「ははは、そんな薄汚れて痩せこけた女を誰が抱きたいと思うのよ!」
歯を食いしばって応えた女性をあざけり笑って、扇子を突き付ける領主夫人。
こいつ、本当に性格悪いな。
というか、娼館に落とすつもりだったのかよ。
ただまあ、領主夫人の言葉もごもっともと言えるというか。
ここにいる女性は、全員がガリガリに痩せこけていて、肌も荒れて酷い状態だ。
ちょっと、女性としての魅力が全くない。
血走った目や、不健康そうな唇を含めて。
「どうせ、貴方達じゃ客も取れなくて、親子ともども飢え死ぬのが分かり切ってよ」
豚を部屋に帰したのは、こういうことか。
こんな姿を、あのオークキングには見せられないもんな。
「頑張ります」
「貴方達が頑張っても意味がないわよ……選ぶのは男性ですし。選ばれなければ頑張りようもないでしょう」
「うっ……」
「酷い……」
領主夫人の言葉に、何人かが泣き始めた。
うーん。
胸糞悪い。
「売女の子供として惨めな思いをしながら最低限以下の生活で餓えて死ぬよりも、奴隷としてでも食事も取れて屋根と壁のある部屋で寝られる環境の方がよっぽどいいんじゃないかしら?」
代表で喋っていた女性が領主夫人を睨んでいるが、すぐに騎士の男性に頭を抑え込まれる。
「なかなか、たくましいことで」
そして、領主夫人はその女性の目の前までつかつかと歩いていくと、顎に閉じた扇子の先を当てる。
顎をくいっと持ち上げると、扇子で思いっきり頬をひっぱたいた。
痛そう……
ダメだ、すでにお腹いっぱい。
「生意気な女……まだ、助かる気でいるみたいね」
「助かる気なんて……自分の力で、あがいて「無駄よ!」
女性が何かを決意した強い眼差しで睨みつけて何かを言いかけたのを、領主夫人はさらに強い口調で黙らせる。
そしてふっと笑みを浮かべる。
「だぁって、貴女の子供達……もう、売っちゃったものぉ! オーッホッホッホッホ!」
そう言って、扇子を頬の横にもってきて高笑い。
うわぁ……
うわぁ、うわぁ……
リアルにこんな女がいる世界とか。
マジで、嫌すぎる。
はなたの子供って……
鼻にかけすぎた声でそう聞こえたけど、それだけでも役満級に性悪に見える。
「うそっ!」
「酷い……」
「いやぁ……!」
「ジョニー!」
女性たちがパニックを起こして泣き叫んでいるのを、楽しそうに一通り眺めたあと領主夫人が顎をしゃくる。
「その汚物、捨ててきて頂戴! まあ、その前に身体を洗ってあげてもいいわよ? 貴方達の手で」
領主夫人の言葉にそこにいた騎士たちがにやりと笑うと、女性の脇を掴んで無理やり立ち上がらせる。
「良かったな、最後に身体を清めてもいいってさ」
「まあ、そのあと汚しちゃうかもしれんがな」
「そしたら、また綺麗にしてやるよ」
そう言って、下卑た笑いを浮かべながらすっかり目の光を失って無気力になった女性たちを、引きずって連れ去る。
ふふふ……
無理……
いくら自称鋼を超えた謎金属の精神でも無理。
とか言いつつ、次の日の朝まで持ち越した理由。
それは……
女性たちがこのホテルで、自分の子供達と一緒にスヤスヤと眠っているから。
なんと、レジスタンスのハーミット・ウォルフが女性達を救出したのだ。
「いや、俺ずっとここに居たんだけど?」
女性たちが、ウォルフに揃ってお礼を言っていた。
当の本人は、困惑していたが。
ちなみに人化しているので、普通の人と見た目は変わらない。
ちょっとやぼったい、無精ひげの若者っぽい見た目。
しかし、見事な人化だ。
ぜひ、ランドルフに教えてやってほしい。
「いや、なんで俺が助けたことに」
そのウォルフの人化の技術に感銘を受けた数人のゴブリン達が、ウォルフを手本に人化して助けたからじゃないかな。
といっても、どっちかっていうと変装と幻術に近いけど。
「ついでに壁にも、ハーミット・ウォルフ参上と書いておきました」
でかした!
「でかしたじゃねー!」
ウォルフが俺に対して怒鳴ってきたが、ゴタロウに睨まれて黙らされていた。
オークロードって、ゴブリンロードよりも弱いのか。
「違うし……鈴木……さんの部下のゴブリンがおかしいだけだし」
鈴木と呼び捨てにしようとして、ゴタロウと他のゴブリンに睨まれたウォルフの言葉が尻すぼみに。
「これでも割と頑張って人のふりして、色々と念入りに計画を立てて実行してたんだけどな……全部、台無しだよ」
俺に出会った時点で、計画は失敗だよ……だって、お前ら馬鹿じゃん?
「酷いな! ロード種の知性をばっかにすんじゃねー!」
ばっかだから、ばっかにしてんだよ!
「ばっかていうな! 馬鹿より馬鹿そうで嫌だ」
お前が言い出したんだろう!
「ぐぬぬ……」
下手の考え休むに似たりというが……休んでた方が、時間も体力も無駄にしないぶん建設的だな。
「剣の癖に」
良いのかな、そんなこと言って?
「えっ、ったぁ! あいたぁ!」
俺とのやり取りに集中しすぎたせいか、背後に忍び寄ったシノビゴブリン達に気付かず、ボコボコにタコ殴りにされていた。
「で、こっちはどうされるので?」
「無視? 俺、勝手に名前は使われるわ、理不尽にボコられるわで割と可哀そうなんだけど? 少しは悪いとかって思わないの?」
「生憎と家畜に向ける情など、露ほどにも持ち合わせておりませんので」
「酷くね? 鈴木の部下酷くねってあいたぁっ!」
「鈴木様だろう! 無礼者!」
「なんで、剣に敬称つけってあいたぁっ!」
こいつは、本当に学習しないやつだ。
ただ、正体ばれても逃げ出さないし、なんでこんなことされて一緒にいるのか分からんが。
「ねえ、いつ叱りにいくの?」
そして、俺を持っているニコが首を傾げる。
そう、ゴタロウからニコの手へと俺は渡された。
色々と、もう頑張らなくても良いことが分かって、脱出させた。
ゴブリンに助けさせようかとも思ったけど、せっかくだしちょっと暴れてもらって。
といっても、壁をひたすら破壊して真っすぐ外に出てもらう程度だけど。
強引に真っすぐ歩いて壁を破壊するニコに、騎士達もどう手を出していいものかと攻めあぐねていた。
というか、恐怖で顔が引きつっていた。
だって声を掛けたら、目だけ笑ってない笑顔を向けられるんだもんな。
壁を無いものとして真っすぐ歩く子供に。
そりゃ恐怖だろう。
逃げ出してもらった理由でもある。
そんな表情をするくらいに、ニコが怒っていたからだ。
そしてもう1人。
「すまんな、ハーミット・ウォルフとやら」
「いやいや、おっさんこそ、しっかりしろよ! あんたの奥さん、最低すぎるだろう!」
「返す言葉もないが、あれで結構可愛いところもあるのだぞ?」
「返す言葉無いんじゃないんかーい! そんな言葉を吐いたのと同じ口で惚気んじゃねー!」
「まあ聞け! 普段は性悪で上から偉そうに行ってくるが、夜は下が好きでな……それはそれは、しおらし「ガキが居るところで、なんつー話してんだ、この色ボケじじい!」
ニコが居るところで下世話な話をしはじめた、ダンディなちょい髭親父に蹴りを入れるウォルフ。
「無礼者!」
「無礼も何も、俺はあんたの部下じゃねーからな?」
「なんと! そうなのか?」
ウォルフと、アホなやり取りをしているこの男性。
この町の領主。
レオウルフ・フォン・メノウ。
なんとなくウォルフと似た名前だ。
でもレオってついてるだけに、ウォルフよりも偉そう。
こっちもついでに助けてきた。
それが、一番の近道だと思って。
今頃、領主邸は大騒ぎだろうな。
あとは、バカ息子をどうするか。
レジスタンスのリーダーをやらされてるあいつ。
「うちの子供たちは、全員もれなく優秀だぞ? バカ息子とは失礼な」
「嫁と豚に謀反おこされた馬鹿領主は黙ってろ」
おお、俺も同じことを考えた。
ウォルフと同じレベルか……
それを言うなら、お前も部下の手綱くらいちゃんと握っとけよな?
ことの発端は、お前の部下のオークキングの暴走だからな?
「ウグググ」
そう言ったら、悔しそうに唸ってた。
ちょっと、すっきり。
「ちーっす、ハーミット・ウォルフでーす」
そんな感じで、宿でわちゃわちゃしてたら、次のハーミット・ウォルフ達が戻ってきた。
子供達や、それなりの年齢の女性、あと死んだ魚のような目をした男性を連れて。
「なんで、俺がこんなにいるんだよ」
ちなみに入ってきたハーミット・ウォルフ達は6人。
4人がゴブリンロードで1人がゴブリンエンペラー、もう1人がゴブリンキング。
「レア支配種のエンペラーまでいるのか……まあ、レア中のレアのロードが群れてる状態で言うことでもないが」
ロードほどではないが、キングよりもレアなエンペラー種。
珍しそうに見てたけど、たまたま数が多いだけでロードの方がレアなんだよな。
連れてきた人間たちを置いて、ハーミット・ウォルフ達はすぐに出かけて行ったけど。
本物のウォルフが、額に手を当ててため息をついている。
元気出せ。
何があったか、知らんが。
「この状況で、よくそんなことが言えるなってったぁ! あいったぁ!」
「口を慎め無礼者!」
「あんたの部下、マジで容赦ねーわ!」
俺に対して呆れた様子で愚痴をこぼしたウォルフが、またもゴブリンロードに叩かれていた。
いやいや、お前もそろそろ学習しような?
「つーか、これお前らこのまま町出たら、全部俺のせい?」
ウォルフの呟きに対して、部屋にいたゴブリン達が無言でニヤリと笑う。
同時に……
うん、きしょい。
というか、怖い。
「ひっ……酷くね?」
「畜生に向ける情など露ほどにも「酷くね? 畜生にまで落とされた」
ゴタロウの言葉尻を食って、ウォルフがその場に崩れ落ちたので肩に手をおいてなぐさめ……手なかったわ。
仕方ない、放っておくか。
「さて、アホは放っておいて、作戦会議といくか」
「あー、マジでひでー。まあ、良いか……俺も「あー、お前はあっちで子守りでもしててくれ」
「……」
そういってゴタロウを中心に車座にゴブリン達が集まってきたので、ウォルフがその輪に加わろうとしてすぐ横のゴブリンに肘で押し返されていた。
流石に、その扱いは俺も可哀そうだと思う。
いいぞ、もっとやれ!
「泣くぞ! 最後には泣くぞ!」
最後には泣くって言われても、そもそも最初から仲間じゃない件。
「うわぁーん」
本当に泣きながら、部屋から飛び出していった。
「おじちゃん、仕方ないから一緒に寝てあげる」
俯瞰の視点でどこに行ったか探したら、最初に居た部屋で髭が嫌だと言っていた男の子に慰められてた。
面白いやつ。
ただ、この子の親もさっき見つかったんだよな。
そろそろ、ハーミット・ウォルフが連れてきてくれるはずだけど。
「パパ、ママ……せっかく会えたのにごめんね。今日は、このおじちゃんと寝る……なんだか、放っておけなくて」
「うわぁーん、なんて良い子なんだぁ……」
情けないぞ、ウォルフ。
そして、気付け。
両親が、殺気を込めた視線をお前に送ってるぞ?
結局、ウォルフはその視線に気付かずスヤスヤと寝入っていたが。
本当に、なんなんだこいつは……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる