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第16話~本音~
しおりを挟む足を止めると辺りを見渡し、滴り落ちる汗をシャツの袖口で拭いた。
僕の知っている限りでは、スージーがこの街に来たことはない。当然、彼女が訪れそうな場所などわかるはずもなく、ただ闇雲に走り回っていた。
何度もスージーの携帯電話にもかけてみたが、無情にも機械的な音声が流れ出す。電源が入っていない事を知らされると、益々不安に駆られた。
連絡がつかないと言う事が、これ程までに人の感情を乱すのかと身をもって思い知らされる。わざとではなかったとはいえ、直海に同じ思いをさせてしまった事を深く反省した。
探せど探せど、スージーの姿は見当たらない。焦る気持ちとは裏腹に時は刻々と過ぎてゆき、徐々に日が落ち始めていた。
家の者に何て言ってここへ来たのかはわからないが、彼女の身の安全を第一に考え彼女の家へと連絡する事にした。
胸元から携帯電話を取り出し、電話帳を開く。と、その時、ウィルの家からの着信が入った。
「もしもし?」
「あ! ミックさん? 直海です。スージーさん見つかったよ! 今ここに居るから早く帰ってきて」
「ほ、本当に? ……あ、有難うナオミ、すぐに戻るよ!」
スージーが見つかったとの知らせを受け、街の方へと向かっていた足がピタリと止まる。話しながら逆方向に向き直ると電話を切り、安堵の溜め息が漏れた。
とにかく彼女は無事だ。
それが確認出来ただけで、僕の気持ちは随分楽になったのだった。
ウィルの家に着くと、一目散にリビングへと向かう。
ソファーに座っているのは、紛れもなくスージーだ。雨に濡れてしまったのか頭からタオルを被り、両手でマグを包み込みながら温かいミルクを飲もうとしているところだった。
僕に気付いたスージーは、慌ててマグをテーブルに置き立ち上がる。明らかにバツの悪そうな顔をし、俯きながら自分のシャツの裾を両手でいじっていた。
「あ、あの。えと――」
直海は僕達を交互に見つめながら、ただ固唾を呑んで見守っている。
僕がスージーに歩み寄り片手を上げると、以前、倒れるフリをして僕にひっぱたかれたのを思い出したのか、スージーは咄嗟に肩をすくめて身構えていた。
「……っ、――?」
僕はスージーの頭にかけられたタオルをするりと取ると、それを裏返してまだ雫の残った彼女の髪を拭き始めた。そんな行動に出た僕を、スージーは不思議そうな顔で見つめていた。
しばらく沈黙が流れ、スージーは僕から発せられる言葉をただじっと待っている様だった。
「ナオミ? バスルーム使わせてあげてくれる?」
「え、ええ、勿論! ちょっと待ってね、今用意してくるから」
そう言うと、直海はパタパタとバスルームへと向かった。
スージーの頭を拭いている手がピタリと止まる。僕はバスタオルを手にしたまま彼女の背中に手を回すと、スージーをぎゅっと力一杯抱きしめた。
「こんなに濡れて……。風邪でもひいたらどうするんだ」
本当は怒るべき所なのに、久しぶりにスージーに会えた事と、最後の日にちゃんとお別れが言えずそれがずっと心残りだった事が、僕に優しい心を持たせてくれた。
抱きしめながら片手で彼女の濡れた髪を撫で、彼女の温もりを肌で感じていると、
「傘……、持ってくるの忘れちゃって」
そう言いながらスージーも又、僕の背中にそっと手を回す。
「会いたかったよ」
彼女にやっと会えた安心感からか、思わず僕は本音をポロリと漏らしてしまう。僕の背に回したスージーの手がピクリと動き、僕のシャツをぐっと握り締めた。
「……私も」
消え入りそうな声で呟くと、安心したかのように僕の胸元に顔を埋めた。
バスルームでお湯を張る音が聞こえて来ると同時に、窓ガラスにあたる雨音も強くなっていく。ザーザーと水音が響く中、久しぶりの再会に身体が小刻みに震えていた。
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