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第2話~生い立ち~
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そんな訳で、僕と彼女の共同生活が始まることになった。
「お嬢様は人見知りが激しいお方で……」
執事のフランクの言っていた言葉に初めは耳を疑ったが、フランクがお茶を入れに客間から姿を消した途端急に大人しくなった。フランクが居た先程までとは全く違い、彼女は僕と目も合わせようとはしない。
部屋の隅で壁に向かって床に座り込み、一人で何やら絵を書き始めていた。
「初めましてスージー。僕は今日から君の家庭教師になったミックって言うんだ、よろしくね」
彼女の背後に屈んで話しかけるが、全く反応が無い。
「……っと、何してるの? 僕もまぜてよ」
「……」
余りにも反応の無い彼女に僕は、やれやれどうしたものかと溜息を吐いた。いつもならこの年代の子達から引っ張りだこなのだが、どうやら彼女はそうでは無いようだ。
それでも僕は彼女の背後に座り込んで幾度となく話しかけてみたが、やはり彼女は背を向けたままだった。
色々問いかけた中で、ある質問だけ体が何度か反応を示した事に気付いた。それは、彼女の家族の事について触れた時だった。少しの手ごたえを感じた僕は、いくつか家族についての話題を投げかけてみたが、最終的にこの質問には彼女は素早く反応した。
「君のお父さんとお母さんはどんな人?」
そう言った途端、ずっと背中を向けていた彼女はくるりと振り返った。
肩まで伸びた少しクセのあるブラウンの髪、吸い込まれそうな青い瞳、透き通る様な白い肌。本当にお人形さんの様だ。
僕がそんな彼女に見惚れていると、スージーの腕がふっと上がった。すぐに、何かが降ってくると危険を察した僕は咄嗟に両腕を重ね、それを遮った。
「うわっ!」
次の瞬間、辺りは白い粉に包まれた。ゲホゲホとむせながら両手で宙に舞った粉を払っている僕の前で、又嬉しそうに彼女はケラケラと笑っていた。
◇◆◇
「スージーのお父さんとお母さんって何かあったの?」
僕の話にずっと耳を傾けていたリオが口を開いた。
「うん、僕も後で知ったんだけどね。スージーのお母さんはスージーがまだうんと小さい頃に事故で亡くなったそうなんだ。その後、お父さんはこのお屋敷に仕えていた女性と再婚したんだよ。スージーは本当のお母さんの様に慕っていたし、彼女も又スージーを本当の子供の様に接していたんだ。しばらくして、お父さんも心臓の病気で亡くなってしまったんだけど、パパが大好きだったスージーはそれから心を閉ざしてしまった。お母さんはそんなスージーが心配になって、彼女の支えになってくれる人をずっと探していたんだって」
「へー。それでミックがスージーと馬があったって言うわけね」
「嬉しい事にね」
当時の事を思い出し、目尻を下げた。
◇◆◇
「スージー! 早くしないと遅れちゃうよ!」
彼女の部屋の扉をノックしながら呼びかけるが、一向に返事がない。扉を開けてみると、そこは既にもぬけの殻だった。
「またあそこか」
彼女の机の上から通学カバンを取ると、急いで階段を駆け下り裏庭へ回った。
「……、――スージー? 早くしないと学校に遅れちゃうよ!」
沢山ある動物の小屋を、僕は一つずつ覗いていった。
「こっちよ! 先生」
低い柵の上から白くて華奢な腕がスッと伸びて、こちらに向かって手を振っている。それを見た瞬間、僕の背筋に冷たいものがスッと走った。
「ス、スージー! なんで長袖を着ていないの!?」
すぐに駆け寄って柵の上から彼女を覗き込むと、呑気にウサギにエサをやっている彼女が笑顔で答えた。
「だって暑くて着てらん無いもん。大丈夫、お薬はちゃんと塗ってあるから」
その言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした僕を見て、彼女は眉を顰めて苦笑いしている。
「ほんっと先生は心配性なんだから。私はいつまでも子供じゃないのよ? もう自分の事は自分で出来るって」
「うん……そうだね」
十三歳になった彼女は晴れて今日から学校に通学出来るようになった。
自分で薬と体調の管理をする。もし何かあっても、学校側には一切責任を問わないといった、いかにも“仕方なく面倒事を引き受けてやるんだ”と言わんばかりの条件付で。
スージーが学校に通う事が出来るようになったのは本当に嬉しい事だったが、彼女を自分の妹のようにかわいがり片時も離れず見守ってきた僕としては、ほんの少しの寂しさを覚えた。
「――。……!! スージー! 時間だよ!!」
っと、感傷に浸っている場合では無かった。初日にいきなり遅刻は頂けない。
「え? ……あーっ!! そうだった! そう言う大事な事は先に言ってよ!」
僕の手から通学カバンをもぎ取ると、大慌てで走って行った。
「良く言うよ、僕ちゃんと伝えてたのに。ねぇ?」
腰に手を置き、柵の中のウサギに話かけていたら、行ったはずのスージーが又大慌てで帰って来た。
「どうしたのスージー。忘れ物?」
「うん! 大事な事忘れてた!」
そのままの勢いで駆け寄ってくると、僕の肩に手を置き、つま先をうんと伸ばしながら頬にキスをくれた。
「先生! 行って来ます! すぐ帰って来るから寂しがらないでね」
片目を瞑って僕にそう言うと、手を振りながら駆けて行った。
「お嬢様は人見知りが激しいお方で……」
執事のフランクの言っていた言葉に初めは耳を疑ったが、フランクがお茶を入れに客間から姿を消した途端急に大人しくなった。フランクが居た先程までとは全く違い、彼女は僕と目も合わせようとはしない。
部屋の隅で壁に向かって床に座り込み、一人で何やら絵を書き始めていた。
「初めましてスージー。僕は今日から君の家庭教師になったミックって言うんだ、よろしくね」
彼女の背後に屈んで話しかけるが、全く反応が無い。
「……っと、何してるの? 僕もまぜてよ」
「……」
余りにも反応の無い彼女に僕は、やれやれどうしたものかと溜息を吐いた。いつもならこの年代の子達から引っ張りだこなのだが、どうやら彼女はそうでは無いようだ。
それでも僕は彼女の背後に座り込んで幾度となく話しかけてみたが、やはり彼女は背を向けたままだった。
色々問いかけた中で、ある質問だけ体が何度か反応を示した事に気付いた。それは、彼女の家族の事について触れた時だった。少しの手ごたえを感じた僕は、いくつか家族についての話題を投げかけてみたが、最終的にこの質問には彼女は素早く反応した。
「君のお父さんとお母さんはどんな人?」
そう言った途端、ずっと背中を向けていた彼女はくるりと振り返った。
肩まで伸びた少しクセのあるブラウンの髪、吸い込まれそうな青い瞳、透き通る様な白い肌。本当にお人形さんの様だ。
僕がそんな彼女に見惚れていると、スージーの腕がふっと上がった。すぐに、何かが降ってくると危険を察した僕は咄嗟に両腕を重ね、それを遮った。
「うわっ!」
次の瞬間、辺りは白い粉に包まれた。ゲホゲホとむせながら両手で宙に舞った粉を払っている僕の前で、又嬉しそうに彼女はケラケラと笑っていた。
◇◆◇
「スージーのお父さんとお母さんって何かあったの?」
僕の話にずっと耳を傾けていたリオが口を開いた。
「うん、僕も後で知ったんだけどね。スージーのお母さんはスージーがまだうんと小さい頃に事故で亡くなったそうなんだ。その後、お父さんはこのお屋敷に仕えていた女性と再婚したんだよ。スージーは本当のお母さんの様に慕っていたし、彼女も又スージーを本当の子供の様に接していたんだ。しばらくして、お父さんも心臓の病気で亡くなってしまったんだけど、パパが大好きだったスージーはそれから心を閉ざしてしまった。お母さんはそんなスージーが心配になって、彼女の支えになってくれる人をずっと探していたんだって」
「へー。それでミックがスージーと馬があったって言うわけね」
「嬉しい事にね」
当時の事を思い出し、目尻を下げた。
◇◆◇
「スージー! 早くしないと遅れちゃうよ!」
彼女の部屋の扉をノックしながら呼びかけるが、一向に返事がない。扉を開けてみると、そこは既にもぬけの殻だった。
「またあそこか」
彼女の机の上から通学カバンを取ると、急いで階段を駆け下り裏庭へ回った。
「……、――スージー? 早くしないと学校に遅れちゃうよ!」
沢山ある動物の小屋を、僕は一つずつ覗いていった。
「こっちよ! 先生」
低い柵の上から白くて華奢な腕がスッと伸びて、こちらに向かって手を振っている。それを見た瞬間、僕の背筋に冷たいものがスッと走った。
「ス、スージー! なんで長袖を着ていないの!?」
すぐに駆け寄って柵の上から彼女を覗き込むと、呑気にウサギにエサをやっている彼女が笑顔で答えた。
「だって暑くて着てらん無いもん。大丈夫、お薬はちゃんと塗ってあるから」
その言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした僕を見て、彼女は眉を顰めて苦笑いしている。
「ほんっと先生は心配性なんだから。私はいつまでも子供じゃないのよ? もう自分の事は自分で出来るって」
「うん……そうだね」
十三歳になった彼女は晴れて今日から学校に通学出来るようになった。
自分で薬と体調の管理をする。もし何かあっても、学校側には一切責任を問わないといった、いかにも“仕方なく面倒事を引き受けてやるんだ”と言わんばかりの条件付で。
スージーが学校に通う事が出来るようになったのは本当に嬉しい事だったが、彼女を自分の妹のようにかわいがり片時も離れず見守ってきた僕としては、ほんの少しの寂しさを覚えた。
「――。……!! スージー! 時間だよ!!」
っと、感傷に浸っている場合では無かった。初日にいきなり遅刻は頂けない。
「え? ……あーっ!! そうだった! そう言う大事な事は先に言ってよ!」
僕の手から通学カバンをもぎ取ると、大慌てで走って行った。
「良く言うよ、僕ちゃんと伝えてたのに。ねぇ?」
腰に手を置き、柵の中のウサギに話かけていたら、行ったはずのスージーが又大慌てで帰って来た。
「どうしたのスージー。忘れ物?」
「うん! 大事な事忘れてた!」
そのままの勢いで駆け寄ってくると、僕の肩に手を置き、つま先をうんと伸ばしながら頬にキスをくれた。
「先生! 行って来ます! すぐ帰って来るから寂しがらないでね」
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