総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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おしまいの後

桐生君と尾台ちゃん6※ ◎

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 仕事でたまに本社に行く、ちょうど営業に先輩がいて袴田君のことを聞かれたんだ。

「袴田ってヤツそっちに行ってるだろ? どうよ」

「ん? さすが本社から来ただけあって有能ですよ。皆、総務様様って口揃えて言ってます」
「マッジ?! あいつ、こっちじゃ仕事はできるけど態度悪くて性格キツいし袴田のせいで女の子も何人も辞めてさ。学歴鼻に掛けてコネ入社でかんじわりーヤツだったのに、御茶ノ水じゃ上手いことやってんだな」
「え」

 何それ、うちの総務の袴田君とは真逆の人物じゃないか。
 直に隣にいた上司が、こら僻むなって頭叩いたけど、内容に否定はしなかった。

 は? それが素なの? そんな奴に家送らせて大丈夫なのかよって桐生君に言ってみたけど、やっぱりただ頷くだけで。

「コネ……だろうね。実は直訴しに行った時に袴田君は会長の隣でずっと僕の話腕組んで聞いてたんだよ会長より深くソファーに座って。そんな態度さ……身内以外ないよなって僕も思ってた。そりゃ逆恨みもされるだろ、あれで頭もいいなら。本社の時の袴田君雰囲気と全然違うしあんまり驚かないかな」
「いや、そーいうこと言いたいんじゃなくてさ。このままじゃ尾台ちゃん取られちゃうよ? 女手懐けるの上手いみたいだし、ああ見えてヤリチン」
「そんなのお前が言えた義理なの? 今の袴田君見て、彼が誠実ならそれが全てだろ。誰にだって過去はあるよ、それを踏まえて今なんだ。例えその話が本当だとしても、今袴田君は改心して成長したってことだろ。ダメだよ大和、感情に流されて人を悪く言ってはいけない」

 まさかの諭されちゃって、もう後がないってーのにこの期に及んで何言ってんだコイツってネクタイを掴んだ。

「そんな正論バカじゃねえの?! いつまでこんなグダグダやってんだよ! だったら俺、尾台ちゃんに手出そうかな」

 したら、桐生君はやっと目を細めて言葉に熱を込めた。

「それはダメだよ」

「あ? 何だよ今更、ああ……尾台ちゃんが俺を好きなるのが怖い? 一回ヤッたらぜってー落とすよ、俺セックスすっげー上手いから」

 桐生君に挑発なんて効かない、そんなの知ってる。真っ直ぐな瞳をそのまま俺の手を剥ぎ取って、桐生君は首を振った。




「それで彼女の心が手に入るなら、僕はもうとっくにしてる」








 何だよそれ、やっぱり意味わっかんねー!





 で、結局尾台ちゃん綺麗になっちゃってるじゃん、これ男ができた時の反応ね。
 送迎以外で袴田君といる尾台ちゃんなんて初めて見た、もうイライラして見ないふりだ。

 バッカじゃねーの桐生君のばかばかばか!!







 後日、新規の案件で桐生君と同行した仕事の帰り、時刻はお昼前。
 御茶ノ水へついて、急に桐生君は言ったんだ。






「僕さ、尾台に告白したんだ」





 って、えええええ…………なんでこのタイミングなんだよ。もっと早く言えよ!


 そんで、どうしたもんかな神様はタイミングをよく合わせてくれるよな。
 俺達の前に件の二人が現れてしまったわけだ。


 あれ、見ろよって桐生君に指差されて俺も尾台ちゃんの笑顔にグッサリきちゃったよ……。



 信号の向こう側、ちょっと袴田君に笑いかけられただけで、尾台ちゃんは恥ずかしがって顔を背けた。

 その後は前を向いて歩く袴田君の横顔をじっと見つめてはにかんで…………会話して笑って袴田君の腕を引っ張る…………。







 桐生君は俺の隣で言う。

「にこにこ…………な? 尾台にこにこしてるだろ?」
「そうだね」
「やっと、笑ってくれた」
「ああ」











 笑顔





 という意味。
 息が止まりそうだった。
 何が、いつもニコニコしてるだよ。
 そっか、俺は知らなかったから、尾台ちゃんの本当の笑顔なんて。
 同じように見えてた、いつも笑ってくれてた。
 それに慣れていたんだ。











 そう、愛想笑いってやつを笑顔だと思ってた。





 自分がしてたんじゃないか、気持ちを殺して笑っとくの。
 だから、相手も合わせて笑ってくれる。
 前の彼女に言われただろ、皆俺に合わせてるだけだよって。

 尾台ちゃんも皆に合わせて笑っているだけだったんだ。

 分かってた癖に……分かっていた癖に…………。







 可愛いな、尾台ちゃんの本当に笑った顔。












「どうする? 大和」
「ん?」
「僕と飯食いに行くか、ちゃんと気持ちに決着つけるか」
「桐生君は?」
「僕はもう正直、このままでいるのしんどいな」
「そっか、じゃあ俺が話掛けるよ」
「格好いー優しい大和君」
「桐生君ほどじゃないよ」





 それでさ、本当の恋って人を好きなるってこんな難しいものだと知った。

 店出て、桐生君は俺達を二人きりにしてくれた。



 目の前にいるのに届かなくて、苦しくて。
 好きだなんて正面から言えないから嘘だって言い続ける。
 それでようやく気持ちを伝えられた。
 詳細に語る必要はなし、だって泣いちゃうから。


 そんで、袴田君こんなヤな奴だから近寄らないでよって、本社で聞いたこと本心で言った本当の俺は好きな子には他の奴と口聞いてほしくない小さい男だった。
 そうしたら尾台ちゃんに睨まれちゃったよ。

 本当の自分でぶつかったら拒絶されちゃうって悲しいけど、やっと素直な尾台ちゃんに触れられたんだって思った。
 だってこんな感情今までになかったし。

 どんなディープキスよりも触れた唇が熱くて、握った手が尊くて、生きてるってこういうことなんだな。
そうだよ、人ってそういうもんだっただろ、俺が面倒臭いって全部逃げてただけだ。


 ああ、やっぱり尾台ちゃんが好き。
 だから大好きだから、彼女を苦しめたくないから、これはやっぱり嘘にしておこう。




 全部全部、嘘だよ。




 だから本当に好きだったって言わせてね。


 初めの告白がこれだなんて俺らしいじゃないか。









 尾台ちゃん、袴田君と必ず幸せになってね(大嘘)














 その間桐生君が袴田君に何言ったのかは知らない。











 知らないが、数日後、尾台ちゃんは突然会社を無断欠勤して、袴田君は早退、そんな二人初めてな訳で、皆動揺した、でも桐生君は袴田君が行ったから大丈夫でしょうって呑気。




 そんで、そのまま桐生君の昇進祝いの飲み会だ。
 盛り上るし、俺も桐生君課長になるの嬉しいけど尾台ちゃんいないのはちょーーーっと寂しい、仕方ないか。
 二次会どうすっかて中、肝心の主役がいないもんで外に出たら桐生君は煙草を吹かしていた。

 店のブロック塀に座って、お決まりのセブンスター吹かして携帯は膝の上、画面が光ってる。


「主役様がこんなとこで何してんの?」

 声掛けたら、

「いやー綺麗な星空だなーと思ってさ」

 って星一つない空見ながら言ってる。


 近付いたら雑音みたいのがして、ん? 携帯通話中だし。

 覗いたら表示された名前袴田君で声が漏れッ??
 ギシギシ雑音に甘い声と男の声がして、



【嫌って言っても体が俺を好きだって言ってるよ? ほら、このだらしない涎垂らしまくってるとこでお前の立場わからせてやるから喉潰すまで鳴くんだぞ】


??????!!!

【絵夢】

!!!!!

 って最後の名前でいっぱい色んなの浮かんできちゃって

 


 ピっと通話ボタン切っておいた。
「なにこれ」
「いや、わかんないけど袴田君が通話切らないからわざとかなって」
「今どんな気持ち?」
「タバコうめーなって……」

 何だよ今の! 袴田君ドエスかよ!





 それで、まあまあそうなるよね。
 翌週、尾台ちゃんは、私袴田君と結婚する! ってキラキラな笑顔で言ってた。


 まさかの清純でうぶそうな尾台ちゃんはとんでもないプレイしてる、ドエムだった。



 そんなの嘘だ! なんて思いたいけど資料貰いに行ったら下向いてる尾台ちゃんのうなじに歯形ついてるし!!

 俺そんなプレイしたことないぞ、驚いてたら尾台ちゃんは顔を上げてヘラッと笑った。

「今取引先に連絡したので、少し待って下さいね」
「うん、わかったあんがと…………っつかそれ」
「何でしょ?」

 うなじを指でなぞったら尾台ちゃんはヒィ! って体をびくつかせて、尽かさず隣の八雲さんが「セクハラです辰巳部長に言います」って眼鏡キラッだ。

 っつか、もう猫被って愛想笑いする必要ないし、尾台ちゃんに意地悪したりちょっかい出すの最近のマイブーム、スゲー楽しい。

 向こう側に座る久瀬さんが言う。
「もういいかげん未練がましい輩を両断するためにも、えったんの変態プレイを包み隠さず言ってみればいいのでわー?」
「ひどい! 変態プレイなんてしてませんよ! け ん ぜ ん!!」

 尾台ちゃんぷんぷんしちゃって、ああこんな表情初見な訳で袴田君のおかげなのは悔しいけど、可愛いなぁ。

「なーにー? 尾台ちゃんいつも何してるの?」

 頭撫でてみたら、尾台ちゃんは少し考えて頬を両手で押さえながら目を伏せた。

「今度はー異世界にも挑戦したくてぇ、目が覚めたらそこは林檎の木の下。アリスになった私の前を黒兎さんが走って通り過ぎるの。一緒に旅をすることになるけど兎さん常に発情期だし大変。おっきくなったりするクッキー食べたりぃ」


 尾台ちゃんはニヤニヤ妄想して久瀬さんのしらけた目。
 八雲さんは眼鏡に手を添えながら目を輝かせた。
「素晴らしいです尾台さん、私も異世界に行きたい!! 猫さんになって辰巳さんに飼ってもらって美味しいクッキーとふかふかなベッドでお茶会したいです」



「いやん、かわゆ!」
 尾台ちゃんがぎゅってした所で先方から連絡が返ってきた。


 まあそんなんで、まさかの総務の袴田君にヒロインを横取りされてしまうという結末だったが自分に素直に生きるのは、思っていたより苦しくなくてむしろ楽しかった。

 桐生君も少し落ち込んでたけど、今は笑って仕事してるよ。






 そんでそんで、たまたま桐生君と一緒に乗ったエレベーター、二階から袴田君も乗ってきて、携帯弄りながらの奴は俺達に気が付いてないようだった。
 後から乗った社員の紙管が袴田君にぶつかって携帯を落として、桐生君が拾おうとしたら、

「うっ!!」

 桐生君はその手を止めた。
「あ、やべ」



 袴田君が慌てて俺も覗いたら、そこにはワイシャツだけの尾台ちゃんが涙目で映っていた、なんっちゅーもんを待受にしてんだよこの変態眼鏡は。


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