がんばれ宮廷楽師!  ~ラヴェルさんの場合~

やみなべ

文字の大きさ
4 / 5

しおりを挟む
「はぁぁぁ~~~……やっぱりこうなったか~~……」


 ラヴェルとしても決闘での解決だけは避けたかった。

 レヴィンは先ほど言った通り、その天井知らずな魔力から放たれる魔法は天災レベル。
 その威力は最早天の裁きに等しいほどの力を秘めている。

 対してエクレアは同格といってもレヴィンほどの魔力もなければ、その能力も圧倒的大火力を誇るようなものではない。

 彼女の能力は『夢』を支配する力であり、現実に自身が支配する『夢』を顕界させる……言い方を変えれば『現実』を彼女の都合よい『夢』へと書き換える能力だ。

 そして、エクレアは『神殺し』まで至ったレヴィンと同格。そんな彼女が作り出す『夢』が普通なわけない。

 そう……エクレアが作り出す『夢』は邪な夢と書いて『邪夢』っと言わんばかりな世界。“混沌”の力にあふれた“深淵”とほぼ同等の世界だ。そんなものを現実に顕界されたら無事で済むわけがない。

 一定の力量を持たないものは顕界された瞬間SAN値直葬となり、戦うまでもなく敗北決定。
 仮に直葬は避けられても“狂気”やら“錯乱”の精神系デバフ付与は避けられないから精神集中が必須な魔法をロクに操れなくなるっというか、その魔法が誤作動して自爆する事だってある。

 自身のコンディションを最悪にされた上で常に自爆の危険性が孕む魔法を使わざるを得ない事もあって、魔術師からみればエクレアはとても戦い辛い相手なのだ。


(まぁだからといって物理で挑むのが正解ってわけじゃないところは前世同様相変わらずなんだよねぇ。それに、レヴィンも魔術師としてのプライドがあるから不利を承知で魔法主体で攻めるだろうし……はぁぁ~~~)

 ラヴェルは弟として兄の性格をよく知っていた。
 兄は搦め手のような小細工も使う事は使うが、それより正面から叩き潰す方が大好きな人種。

 多少精神への浸食を受けようとも、自爆上等で魔法をバンバン放つだろう。
 自分含む周囲の被害お構いなしで天災クラスの禁呪魔法を躊躇なく放つだろうことを見抜いていた。


 そして、エクレアも周囲の影響お構いなしで“混沌”の出力を上げる事を見抜いていた。

 なにせ彼女が顕界させる夢世界は敵対者どころか世界を支えるであろう自然界のルールにまで浸食する。
 わかりやすくいえば、彼女が夢を顕界させれば巻き添え的に近辺で百年に一度レベルな超自然災害ともいうべ局地的天変地異を誘発させてしまうわけだ。

 おまけにそういった二次被害は彼女のあずかり知らぬことろで引き起こされるというのだから……

 結局のところ、エクレアはレヴィンと違う方向性での歩く天災なのだ。


 そんな世界を壊すに足る力を持つ二人が決闘なんか行えば……



「「大丈夫だ、問題ない!!城は壊さないよう、配慮する」」

 ラヴェルを気遣ってなんだろうが、どうあがいても気休めとしか思えない言葉を残してたった今生成した壁の穴から外へ飛び出す二人。

 背中から熾天使のごとき純白な6枚の羽根(ただし一対だけ漆黒)を展開させたレヴィン。
 背中から“深淵”を具現化したかのような禍々しい悪魔の羽を展開させたエクレア。

 部外者からみれば『堕天使 VS 悪魔』ともみれる人外同士の激突。天が割れて地が裂けるという世界の終焉ラグナロクを予期されてしまうかのような激突は……






「これのどこか配慮してるんだよぉぉぉぉぉ!!!」



 そう突っ込まざるを得ないほどの激しさであった。




 そんなわけでラヴェルにできるのはただ神に祈るだけだった。

 奇跡が降臨してくれることを願って……
 
 具体的にいえば二人の『神殺し』を達成した戦いに同行していた同格仲間の一人……

 属性『善』の極致で対『悪』のエキスパートとされる、二人にとって天敵。


 猫十字教会の大司教様ユキノ=シャノワールが降臨してくれることを願って……


 ラヴェルはひたすら、祈っていた。













……………………


 結論からいえば、そんな奇跡が起きないまま決着がついた。


 宣言通り、城に大した被害を出さないまま決着がついた。




 裂けた大地を始めとした周辺の被害もエクレアがス〇ホでなんらかの機関に依頼した事もあって、翌日にはあっさり元通り。
 世界は何事もなく平和な時を刻んでいた。





“あぁそうか……あれは夢だったんだ……”



 ラヴェルはそう思いながら……
 自室にぽっかりと空いた壁の穴からの景色を眺めながら、何事もなく過ごせる今日を感謝するのであった。











 なお、決闘の行方は僅差でエクレアの敗北であった。


「約束通り、この本はこのまま異世界本屋で出版させてもらおう。よかったじゃないか、これで有名人になれるぞ」

「くぅぅう……報酬はもう1割でいいから私が居た世界だけは出回らないようにして!!真実が出回ったら私の犠牲が無駄になるから出回るにしても一冊だけ……原本となる一冊だけに限定させて!!」

「その程度ならよかろう。ほら、もってけ」


 エクレアとしては非情に不本意であったが、自身の暴露本の出版を条件付きで渋々認めるに至ったようだ。

 なお、エクレアが持ち帰った原本は自身が生前大切に育てていたサクラの木の洞の中に入れて封印を施したようだが……


 300年後にある男が偶然手にし、大々的に広められる事態となったのは余談である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...