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十三話

 何者?

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 すぐに真希から返事が返ってきた。

『一応、無事なのね。こっちでは、光輝、工藤先輩、木梨先輩は行方不明扱いよ。それで学校は臨時休校。まだ、私も信じられないの。シナリオを変更したくても、ぽんぽんアイデアが思いつくとでも? ただ、今の台本を読んだけど、確かに工藤先輩の意識は出てきてないわね』

 そんな、真希からの返信に光輝は少し不安を覚えた。

「工藤先輩も行方不明なら、この世界に飛ばされたはずなのに……」

 木梨も難しい顔をして腕組む。

 真希からの返信が再び届いた。

(まさか、工藤先輩の身になにか?)

(ま……まさか、工藤の遺体が⁉︎)

 光輝は息を飲み込み、木梨は真っ青になる。

 二人の不安をよそに、真希は淡々とした口調で書き続けていた。

『そっちはそっちで変える努力してよ! 私もやるだけやってみるけど、書き直すだけで全てが本当に変わるとは思えない。これには伝説の神社の作用が働いてる気がするの。明日、恋々稲荷神社の裏にある宝魂寺へ行ってみるわ』

 そんな真希の返信に、木梨は首を傾げる。

「何だ? この宝魂寺って?」

「色々あって。因みに、木梨先輩は地元の人ですか?」

「おう、生まれも育ちも玉華市だ」

「地元なのに、宝魂寺知らないんですか? ……あっ! 工藤先輩も知らなかったみたいだけど」

「だろうな。俺も工藤も、神社とか寺に興味ないし。駅前の大きな神社もあるなぁぐらいだから」

 光輝は苦笑いをした。

「じゃあ、伝説の神社は?」

「それは何となく覚えてる。ガキの頃に流行った七不思議とかいうやつだろ? くだらない迷信だ」

「まあ、そうなんですけど……。でも、その七不思議が現実になってるみたいです。真希が学園祭の二ヶ月前に、その伝説の神社に呼ばれて祈願したんですよ。それから工藤先輩と三人で調べて、宝魂寺の住職さんに話を聞いたんです」

 今までの経緯を、光輝は詳しく話した。

 木梨は首を傾げるばかりだ。

「ふ~ん。なるほどねぇ……俺らが、この世界にいることも非現実的だからな。信じるけどさ、菅野の奴『そっちはそっちで頑張れ』って言いやがったな」

「なんか、真希らしいですね」

 ……二人は笑い合う。

 木梨は少し考えた後に、光輝に問いかけた。

「なあ……広沢はさ、元の世界に戻りたいわけ?」

「えっ……」

「いや、だってさ。劇の途中で逃げ出したのは、観客の罵声に耐えられなかったんだろ? それに、工藤のこと好きだよな?」

 木梨にそう問われた、光輝は言葉に詰まる。

「僕って……そんなにバレバレですか?」

「まあな……。でも、いいんじゃね? 工藤はイケメンだし優しいからな。観客が言ったことなんて気にすんな。嫉妬だろ。工藤は男からもよく告られてたぜ。その度に、アイツは真剣に考えて申し訳なさそうに断ってさ。人の気持ちをバカにするような男じゃないってことだ」

 光輝は、木梨の言葉に少し救われたような気がした。

「そ……そうですよね。工藤先輩は本当に優しいですし、僕なんかじゃ無理だろうな」

「うーん。どうだろうな。俺は応援するよ」

「えっ……でも」

 光輝が困惑していると、木梨は優しく微笑みながら頭をくしゃくしゃと撫でる。

「お前さっ、この話の主人公だろ! 無理とか以前に変えろよ」

「木梨先輩……」

 すると、部屋の外から清河の声が聞こえてきた。

「座長、入っていい?」

「はうっ! おお、おおおう! 清河か。入れよ」

 木梨が声をかけるとドアが開き、清河が入ってくる。

 ベッドに光輝と木梨が並んで座っているのを見た清河は、眉間に皺を寄せた。

「座長、蘭丸はまだ幼い。手を出すことは許さない」

「おいおい、ち……違うって! ただ、学園祭の話とかしてたんだ! 俺にそんな趣味はないぞ!」

「蘭丸、こっちへおいで。私の部屋で一緒に寝よう」

「へっ? えっ……あ~。座長おやすみなさい!」

 清河は、光輝の腕を取ると連れて行ってしまう。

「おう。ま……まあ、なんだ。頑張れよ」

 残された木梨は呟いたあと、大きく溜息をついたのだった。

(す~が~の~! アイツ一体、どんな風に話を変えたんだよ。俺を変態扱いか!)

 清河の部屋にはシングルベッドが一つ。

 光輝の意識をもつ蘭丸は、清河と同じベッドで寝かされていた。

(僕、一緒に寝るんだ!)

 光輝は、緊張のあまり身体がガチガチに固まってしまう。

「蘭丸、そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。私は君を傷つけたりしないよ」

 清河は優しく光輝を抱きしめる。

(クスッ……小動物みたいで蘭丸は可愛いな)

 光輝は思わず赤面した。

 そんな光輝の様子を見た清河は、再びクスクスと笑うのであった。

「さあ、そろそろ寝よう。明日、晴れたら次の場所へ移動するからね」

 清河は優しく光輝の頭を撫でると、寝息を立て始める。

 光輝も最初は緊張していたが次第に眠りへと落ちていく。



 ──その頃、真希は自宅の部屋の明かりを消してベッドに横たわっていた。

(とりあえず、三人とも寝かしつけてやったわ。あとは、清河が自分を工藤先輩だってことをどう気づかせるか? みんな生きてて良かったけど……)

 そんなことを考えつつ真希も眠りについたが、すぐに目が覚めてしまう。

「この状況で生きてると言えるの? でも、台本の世界で生きてるのは確実。今、わかっている事はそれだけね。やっぱり、工藤先輩が気になるわ。清河は、本当に工藤先輩? うーん……わかんないわね」

 ──真希はベッドの中で、何度も寝返りを打つ。

 そして、ある考えに至るとベッドから飛び起きた。

(頭の中がグチャグチャよ。まず、恋々稲荷神社の御守りを清河が持っている。なのに、工藤先輩の意識はない。そして、清河は自分が工藤先輩だって気づいてない? それにマー。喋りすぎじゃない? まさか……) 

 真希は自室の机の上にある御守りを見つめた。

 蘭丸は光輝の意識があって、役とは違う行動をすることは不思議ではない。

 ……木梨の意識をもつ星大河も同じく。

 おかしいのは、馬のマーと清河だ。

 マーに限っては、役の設定から大幅に変わりすぎだ。

 それどころか人の言葉を話し、蘭丸を光輝としてサポートをし、作られた世界と認識している。

「自我がしっかりしすぎ。別の世界があることを知っている……何者なのよ」 

 真希は御守りを見つめながら、思わず呟いた。

(……そのせいで、清河に影響が出てるってことはないかしら)

 マーが台本の世界の住人ではないと、真希は考えていた。

 他の役たちは言動は違うものの、台本の世界の住人らしい言動から外れてはいない。

 しかし、マーだけは自分が作られた存在で役目が終わると無になることを知っている。

「光輝に、マーが何者かわかるまで警戒するように伝えないと」

 真希は、すぐに台本の余白に書き込んだ。

「あとは徹底的にシナリオを変更して、全員まとめてハッピーエンドを迎えさせるわ」

 そして、思いつくまま朝方まで台本を書き直し、真希は台本を閉じると決意を胸に就寝した。

 翌日、真希は宝魂寺へと向かう。

「二時間の睡眠じゃ、流石にだるっ! でもハッピーエンドの為よ」

 真希は寝不足で痛む頭を手で押さえる。

「あっちの世界は、私が変更した通りになってるのかな? 蘭丸を実年齢にしちゃったけど大丈夫かしら? 子供のままの設定だと、恋愛しづらいわよね。蘭丸と清河が大人だったら何したって問題ない! ……どうせなら、蘭丸が妊娠できる話もありかも。続きは、住職と話してから決めよっと」

 真希はブツブツと独り言を呟きながら、宝魂寺の前に着くと大声で叫んだ。

「おはようございます! 住職いらっしゃいますかあー!」

 すると中から、住職が姿を現す。

「おや……前に尋ねて来たお嬢さんだね。今日は、お友達は一緒じゃないのかい?」

「そのお友達が消えたんですよ」

「消えた? どういうことだい?」

 住職は、驚いて真希を見つめた。

「まあまあ、立ち話もなんですから中へ入っていいですか?」

「あ、ああ、そうだね。どうぞどうぞ」

 前回と同じ客間に通される。

 座布団の上に座ろうとすると、住職が慌てた様子で声をかけきた。

「あっ……お嬢さんはお茶でよかったかい?」

「あんまり寝てないので、ブラックコーヒーにしていただけますか。それと、見てほしいものがあるんです」

「はいはい……何かな?」

「これです」

 真希は、鞄から台本を出した。

「こ……これは?」

「前回、一緒に来た二人の男友達は、私が作ったその台本の中にいます。読んでみてください」

 住職は台本を受け取った。

「ふむ。こりゃあ、随分と念が込められているねえ。この本自体が生きてるみたいだ……」
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