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恋の仕返し ~Gift of Love~(バレンタインプロジェクト文芸社Loves TOKYO FMラジオドラマ原案募集入選)
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【アタシは幼なじみのあいつと出かけることになった
デートじゃない
あいつの買い物の相談役として同行するだけ
どうしてアタシがそんな役回りを……】
*
【卒業間際の中学生男女による、ささやかな一日を描いた片想いの物語】
*
【バレンタインプロジェクト文芸社Loves TOKYO FMラジオドラマ原案募集聴いて、マイラブストーリー入選】
県立高校の合格発表があった日の夜だ。あいつ、何てメッセージ送ってきたと思う?
「今度の日曜、ヒマ? 付き合ってよ」
デート? そんなんじゃないって。別にどーでもいい存在だ。ただ、近所ってだけ。小学校の6年間と中学3年間、たまたま一緒のクラスだったけど。もっとさかのぼれば、幼稚園も同じ。そう、腐れ縁とかいうやつ。
「ある人にホワイトデーのプレゼントをしようと思ってるんだけど、何を贈ったらいいか分からないから、選ぶの手伝って」
あいつは控えめに言ってモテない。だから毎年、仕方なくアタシだけがバレンタインにチロルチョコをあげているのに。アタシにお返しはないんかい。いや、ほしいなんて、これっぽっちも思ってないよ。
バレンタインのお返しというよりは、中学の卒業を前にしてプレゼントするつもりだろうか。そこでアタシに助けを求めてきた。普通そういうこと、他の女子に頼むかよ。
「キャンディでいいんじゃない?」
「形として残るやつがいい」
なんでアタシがあいつの恋の手助けをしなきゃいけないんだ。だけど断ったら、やきもちを焼いているんじゃないかって思われるのが癪だから、引き受けることにした。
日曜は県内の中心地である駅で待ち合わせた。お互いの家が近所なんだから一緒に行けばと思うかもしれないが、クラスメートに見られたら大変だ。
よく考えてみたら、あいつと二人きりになるなんて、中学に入って初めてかも。小さい頃はよく一緒に遊んだし、よく泣かした。アタシがあいつを泣かせたっていう意味。だって、あいつ、ウジウジしているから、ついキツイことを言ったり、蹴りとか入れたくなるんだよね。ま、昔のことは水に流してって言いたいけど、今でも根に持っているんだろうな。
改札の外で待っていたら、アタシのダッフルコートのフードが、何者かの手によって頭にかぶせられた。しょっぱなからイタズラを仕掛けてくるなんて、まったく頭に来るやつだ。髪がぐちゃぐちゃじゃないか!
春休み前なのに、街はにぎやかだった。おしゃれなファッションビルへ入ろうとして、あいつは躊躇した。恥ずかしいのだ。実はアタシも初めて。
あいつはいちいち意見を聞いてきたが、アタシの反応がイマイチだったからだろう、なかなか選べずにいた。はっきり言ってアタシ、興味ないんだよね、アクセサリーとかって。
テナントのショップをいくつも回っても決められず、駅の反対側にある商店街へ移動した。
アタシはお腹が空いて仕方がなかった。しかし、乙女としては口が裂けても言えない。か弱いフリをしてみた。
「アタシ、これ以上、歩けない……」
同時にアタシのおなかの虫が響き渡った。
あいつは寿司と焼き肉、どっちがいいかと聞いてきた。寿司はどうせ回っているだろうから、後者を即答した。
だけど、連れていかれたのは牛丼チェーン店だった。焼肉定食を食べながら、あいつは卒業後のことを話題にした。
「お前、県立に決めたんだろ」
「近所だからね。ぎりぎりまで寝てられるし。それにしても、またあんたと一緒だよ」
「俺、私立へ行くことにしたんだ」
初耳だった。そっか……別れ別れになっちゃうのか。そうしたら、あいつは言った。
「別に永遠の別れってわけじゃないしな」
昼食後、あいつは買い物の続きをした。アタシはうわの空だったので、あいつが怒っていることに気がつかなかった。
「どっちがいいか、決めろよ」
「なんで、アタシが決めなきゃいけないのよ! アタシは関係ないでしょ!」
お客や通行人が見ているのも構わず、怒鳴り散らしていた。
「第一、プレゼントする前に、相手に気持ちを伝えたらどうなの!」
「できるわけねえだろ」
「どうして?」
「……いいんだよ。ただ、俺のこと、ちょっとでも覚えていてくれたらなあと思って」
「分かんない。全然、分かんない」
「分かってたまるか」
「女の子はモノより気持ちのほうが、ずっとずっと嬉しいの!」
周囲から拍手が起こった。ギャラリーの野次馬たちが一斉に手を叩いていた。アタシは顔から火が噴き出るような思いで、一目散に逃げ出した。
だが、その腕をつかまれた。あいつだった。握りしめる力は強く、痛かった。
「悪かったよ。お前にこんなこと頼んじゃって。もう帰ろう」
地元の駅に着き、バスで帰ろうとしていたアタシに、あいつは自分のチャリンコの荷台を示した。いつもなら憎まれ口でも叩いて何か言い返すアタシだが、おとなしく従った。
でも、やっぱりアタシはアタシ。二人乗りったって、普通の乗り方じゃない。後ろ向きだ。
「女らしく横座りしろとは言わないけど、フツー、そんな乗り方するか?」
「だって、疲れたから。背もたれもあるし」
アタシはあいつの背中に寄りかかった。あいつは漕ぎだしたが、アタシはバランスを崩し、荷台から飛び降りた。
「だから、ちゃんと座れって言っただろ」
しょうがなく、アタシは前向きに荷台をまたいだ。すると、あいつは無言でアタシの手をつかみ、自分の腰に回させた。アタシは抵抗することなく、腰に回す手に力を入れた。
あいつはプレゼントのことはもういいと言った。本当にいいのだろうか。
もやもやした気持ちでいると、前方にお寺が見えてきた。ここは月一で小さな縁日が出ていて、小学校の低学年くらいまではあいつとよくここへ来たっけ。
ぼんやり思い返しながら、ずいぶんとさびれてしまった境内を並んで歩いた。アタシの目に入ってきたのは、屋台の片隅にあったピンクとブルーの小さなだるまのセットだった。
「これ、これ、これにしなよ、プレゼント」
「この色、気持ち悪いぞ」
「絶対、いいって。ピンクのだるま、もらったらきっと嬉しいよ」
気乗りしないあいつを見て、アタシは気づいた。これはアタシがもらうんじゃない。
「そうだね……アタシは可愛いと思っても、その子は気に入らないかも……」
アタシは足早に通り過ぎていった。寺の出口であいつは追いついてきた。
「じゃあね」
いつもと同じ挨拶。でも、もしかしたらこれが最後かもしれない。顔も見ずに立ち去ろうとすると、あいつはダッフルコートのフードを引っ張ってきた。
「じゃあな、卒業式で」
まだあと一回、卒業式で会えるんだ。
家に帰ると、アタシはベッドに倒れ込んだ。
「痛ッ」
首の付け根に何か当たった。ダッフルコートのフードの中だ。あいつのイタズラか?
「……!」
アタシはそれを手にしたまま、じっと見つめていた。
何なんだよ、あいつ。アタシは怒っているのに、笑みを浮かべ、しかも涙までこぼしていた。
アタシの手の中にあるのは、小さなピンクのだるま。バレンタインの最高の仕返しじゃないか!
(了)
デートじゃない
あいつの買い物の相談役として同行するだけ
どうしてアタシがそんな役回りを……】
*
【卒業間際の中学生男女による、ささやかな一日を描いた片想いの物語】
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【バレンタインプロジェクト文芸社Loves TOKYO FMラジオドラマ原案募集聴いて、マイラブストーリー入選】
県立高校の合格発表があった日の夜だ。あいつ、何てメッセージ送ってきたと思う?
「今度の日曜、ヒマ? 付き合ってよ」
デート? そんなんじゃないって。別にどーでもいい存在だ。ただ、近所ってだけ。小学校の6年間と中学3年間、たまたま一緒のクラスだったけど。もっとさかのぼれば、幼稚園も同じ。そう、腐れ縁とかいうやつ。
「ある人にホワイトデーのプレゼントをしようと思ってるんだけど、何を贈ったらいいか分からないから、選ぶの手伝って」
あいつは控えめに言ってモテない。だから毎年、仕方なくアタシだけがバレンタインにチロルチョコをあげているのに。アタシにお返しはないんかい。いや、ほしいなんて、これっぽっちも思ってないよ。
バレンタインのお返しというよりは、中学の卒業を前にしてプレゼントするつもりだろうか。そこでアタシに助けを求めてきた。普通そういうこと、他の女子に頼むかよ。
「キャンディでいいんじゃない?」
「形として残るやつがいい」
なんでアタシがあいつの恋の手助けをしなきゃいけないんだ。だけど断ったら、やきもちを焼いているんじゃないかって思われるのが癪だから、引き受けることにした。
日曜は県内の中心地である駅で待ち合わせた。お互いの家が近所なんだから一緒に行けばと思うかもしれないが、クラスメートに見られたら大変だ。
よく考えてみたら、あいつと二人きりになるなんて、中学に入って初めてかも。小さい頃はよく一緒に遊んだし、よく泣かした。アタシがあいつを泣かせたっていう意味。だって、あいつ、ウジウジしているから、ついキツイことを言ったり、蹴りとか入れたくなるんだよね。ま、昔のことは水に流してって言いたいけど、今でも根に持っているんだろうな。
改札の外で待っていたら、アタシのダッフルコートのフードが、何者かの手によって頭にかぶせられた。しょっぱなからイタズラを仕掛けてくるなんて、まったく頭に来るやつだ。髪がぐちゃぐちゃじゃないか!
春休み前なのに、街はにぎやかだった。おしゃれなファッションビルへ入ろうとして、あいつは躊躇した。恥ずかしいのだ。実はアタシも初めて。
あいつはいちいち意見を聞いてきたが、アタシの反応がイマイチだったからだろう、なかなか選べずにいた。はっきり言ってアタシ、興味ないんだよね、アクセサリーとかって。
テナントのショップをいくつも回っても決められず、駅の反対側にある商店街へ移動した。
アタシはお腹が空いて仕方がなかった。しかし、乙女としては口が裂けても言えない。か弱いフリをしてみた。
「アタシ、これ以上、歩けない……」
同時にアタシのおなかの虫が響き渡った。
あいつは寿司と焼き肉、どっちがいいかと聞いてきた。寿司はどうせ回っているだろうから、後者を即答した。
だけど、連れていかれたのは牛丼チェーン店だった。焼肉定食を食べながら、あいつは卒業後のことを話題にした。
「お前、県立に決めたんだろ」
「近所だからね。ぎりぎりまで寝てられるし。それにしても、またあんたと一緒だよ」
「俺、私立へ行くことにしたんだ」
初耳だった。そっか……別れ別れになっちゃうのか。そうしたら、あいつは言った。
「別に永遠の別れってわけじゃないしな」
昼食後、あいつは買い物の続きをした。アタシはうわの空だったので、あいつが怒っていることに気がつかなかった。
「どっちがいいか、決めろよ」
「なんで、アタシが決めなきゃいけないのよ! アタシは関係ないでしょ!」
お客や通行人が見ているのも構わず、怒鳴り散らしていた。
「第一、プレゼントする前に、相手に気持ちを伝えたらどうなの!」
「できるわけねえだろ」
「どうして?」
「……いいんだよ。ただ、俺のこと、ちょっとでも覚えていてくれたらなあと思って」
「分かんない。全然、分かんない」
「分かってたまるか」
「女の子はモノより気持ちのほうが、ずっとずっと嬉しいの!」
周囲から拍手が起こった。ギャラリーの野次馬たちが一斉に手を叩いていた。アタシは顔から火が噴き出るような思いで、一目散に逃げ出した。
だが、その腕をつかまれた。あいつだった。握りしめる力は強く、痛かった。
「悪かったよ。お前にこんなこと頼んじゃって。もう帰ろう」
地元の駅に着き、バスで帰ろうとしていたアタシに、あいつは自分のチャリンコの荷台を示した。いつもなら憎まれ口でも叩いて何か言い返すアタシだが、おとなしく従った。
でも、やっぱりアタシはアタシ。二人乗りったって、普通の乗り方じゃない。後ろ向きだ。
「女らしく横座りしろとは言わないけど、フツー、そんな乗り方するか?」
「だって、疲れたから。背もたれもあるし」
アタシはあいつの背中に寄りかかった。あいつは漕ぎだしたが、アタシはバランスを崩し、荷台から飛び降りた。
「だから、ちゃんと座れって言っただろ」
しょうがなく、アタシは前向きに荷台をまたいだ。すると、あいつは無言でアタシの手をつかみ、自分の腰に回させた。アタシは抵抗することなく、腰に回す手に力を入れた。
あいつはプレゼントのことはもういいと言った。本当にいいのだろうか。
もやもやした気持ちでいると、前方にお寺が見えてきた。ここは月一で小さな縁日が出ていて、小学校の低学年くらいまではあいつとよくここへ来たっけ。
ぼんやり思い返しながら、ずいぶんとさびれてしまった境内を並んで歩いた。アタシの目に入ってきたのは、屋台の片隅にあったピンクとブルーの小さなだるまのセットだった。
「これ、これ、これにしなよ、プレゼント」
「この色、気持ち悪いぞ」
「絶対、いいって。ピンクのだるま、もらったらきっと嬉しいよ」
気乗りしないあいつを見て、アタシは気づいた。これはアタシがもらうんじゃない。
「そうだね……アタシは可愛いと思っても、その子は気に入らないかも……」
アタシは足早に通り過ぎていった。寺の出口であいつは追いついてきた。
「じゃあね」
いつもと同じ挨拶。でも、もしかしたらこれが最後かもしれない。顔も見ずに立ち去ろうとすると、あいつはダッフルコートのフードを引っ張ってきた。
「じゃあな、卒業式で」
まだあと一回、卒業式で会えるんだ。
家に帰ると、アタシはベッドに倒れ込んだ。
「痛ッ」
首の付け根に何か当たった。ダッフルコートのフードの中だ。あいつのイタズラか?
「……!」
アタシはそれを手にしたまま、じっと見つめていた。
何なんだよ、あいつ。アタシは怒っているのに、笑みを浮かべ、しかも涙までこぼしていた。
アタシの手の中にあるのは、小さなピンクのだるま。バレンタインの最高の仕返しじゃないか!
(了)
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