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20 お迎え
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コツコツコツ……
日の光溢れる神殿内に軽やかな靴の音が響き渡る。
「これは、ようこそおいで下さいました。」
深々とした礼を手で遮り、そのまま奥へと歩を進める。
「世話になった。あれは?」
「こちらに御座います。」
恭しく頭を下げたまま、奥へと案内に立ちながら、後ろを歩き着いて来る者が説明を付け加えて来る。
「何度となく、お声を掛けさせてもらったのですが、大層お疲れのご様子で……」
奥へと少しばかり進んだだけで丸テーブルへうつ伏せで眠っているだろうシェインの姿が見て取れた。
手に持つ石は輝きを失ってはいない。本当に寝こけているだけに見える。
「フッ」
安堵からか、あどけない無防備の姿が思いの外可愛らしかったからか、自然と笑みがこぼれ出る。
「貴方様のその様なお姿は久しく見ておりませんでしたね。」
感慨深げに呟くがそれへの返答はなかった。
「手間をかけさせたな。これはこちらで預かろう。こちらの意向を汲み大義であった。」
「滅相もございません。貴方様の存在が、どれだけ大きいか、そのお方がここに来られただけでも十分に物語っておられましょう。暁の君。」
「その名を使うな…人間には許してはおらぬ。」
「申し訳なく思いますが、我らは他に呼び名を知りませぬ故。お許し下さいませ。」
「致し方なしか、其方達に誠の名を名乗るつもりもないからな。」
「お許し頂けるだけで十分で御座います。我らは十二分に恩恵を受けておりますれば。こちらから何を返そうにも思いつきませぬ。」
「いらぬ。邪魔だてせねばそれで良い。また、これが望めばここへ来よう。今は連れ帰るぞ。」
「はっお心のままに…」
ガラット王子の視線の先には、未だにスヤスヤと寝息すら聞こえそうな程に深い眠りに落ちているシェインがいる。
供もなく自らシェインを横抱きに抱え上げ、少々神殿司を驚かせはしたが、何食わぬ顔でガラット王子はその場を後にした。
離宮に戻る馬車の中、シェインは夢も見ぬ程深く、深く眠っている。己が誰の腕の中に抱かれているのかも、眠る者には分からないだろう。
「シェインリーフ……」
腕の中の細い体を、起こさぬ様にしっかりと抱きしめて、あどけない顔を覗き込むのは酷く優しい光を湛える燃えるような赤い目のガラット王子。
「お前はいつ、私だと気がつくだろうね?私が誰か分かったら、変わらずその綺麗な瞳でまた、私を追いかけて欲しいものだ…」
誰もいない車内でそれはそれは愛おしそうにシェインの額に唇を落とした。
日の光溢れる神殿内に軽やかな靴の音が響き渡る。
「これは、ようこそおいで下さいました。」
深々とした礼を手で遮り、そのまま奥へと歩を進める。
「世話になった。あれは?」
「こちらに御座います。」
恭しく頭を下げたまま、奥へと案内に立ちながら、後ろを歩き着いて来る者が説明を付け加えて来る。
「何度となく、お声を掛けさせてもらったのですが、大層お疲れのご様子で……」
奥へと少しばかり進んだだけで丸テーブルへうつ伏せで眠っているだろうシェインの姿が見て取れた。
手に持つ石は輝きを失ってはいない。本当に寝こけているだけに見える。
「フッ」
安堵からか、あどけない無防備の姿が思いの外可愛らしかったからか、自然と笑みがこぼれ出る。
「貴方様のその様なお姿は久しく見ておりませんでしたね。」
感慨深げに呟くがそれへの返答はなかった。
「手間をかけさせたな。これはこちらで預かろう。こちらの意向を汲み大義であった。」
「滅相もございません。貴方様の存在が、どれだけ大きいか、そのお方がここに来られただけでも十分に物語っておられましょう。暁の君。」
「その名を使うな…人間には許してはおらぬ。」
「申し訳なく思いますが、我らは他に呼び名を知りませぬ故。お許し下さいませ。」
「致し方なしか、其方達に誠の名を名乗るつもりもないからな。」
「お許し頂けるだけで十分で御座います。我らは十二分に恩恵を受けておりますれば。こちらから何を返そうにも思いつきませぬ。」
「いらぬ。邪魔だてせねばそれで良い。また、これが望めばここへ来よう。今は連れ帰るぞ。」
「はっお心のままに…」
ガラット王子の視線の先には、未だにスヤスヤと寝息すら聞こえそうな程に深い眠りに落ちているシェインがいる。
供もなく自らシェインを横抱きに抱え上げ、少々神殿司を驚かせはしたが、何食わぬ顔でガラット王子はその場を後にした。
離宮に戻る馬車の中、シェインは夢も見ぬ程深く、深く眠っている。己が誰の腕の中に抱かれているのかも、眠る者には分からないだろう。
「シェインリーフ……」
腕の中の細い体を、起こさぬ様にしっかりと抱きしめて、あどけない顔を覗き込むのは酷く優しい光を湛える燃えるような赤い目のガラット王子。
「お前はいつ、私だと気がつくだろうね?私が誰か分かったら、変わらずその綺麗な瞳でまた、私を追いかけて欲しいものだ…」
誰もいない車内でそれはそれは愛おしそうにシェインの額に唇を落とした。
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