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2 呼び鈴ならぬスイッチ
しおりを挟む執事と言えば朝は早い。
主人の起きる前から全て準備万端で控えておくのは基本中の基本。
うん、これは以外と面倒くさいのと、主人を良く知らなければ先回りし難い。昨日就職したシェインには無理な話。
フフ、しかし秘策があるのだ。
「おはよう御座います。ご主人様、お目覚めのお茶をご用意しておりますが、如何でしょうか?」
その日の気分に合わせられる様に数種類は用意しておく。
「……懐かしいね…シェイン、おはよう…」
「お茶が懐かしいのでございますか?メアリーさんは忙しくてお茶のご用意も出来なかったと?」
「いや、メアリーはよくやっているよ。」
「そうでございましょうね。とても丁寧に仕事内容を教えていただきました。」
「ほう?例えば?」
短めの金髪に、淡いピンクの優しい瞳。世の女性達が放っておきはしないだろう美貌の持ち主がガラット王子だ。
「そうですね。ご主人様の朝はノンシュガーのお茶に具沢山のスープ、昼食後は必ず午睡をなさって午後の政務、晩餐後は入浴を終えて趣味のお部屋に…此方がご主人様の毎日の行動パターンだと。」
「社交界はお嫌いで殆どの出席は無いため、ほぼこのお屋敷でお過ごしです。時間があれば温室で読書をされるので、軽食とコールドドリンクをご用意します。趣味の部屋には使用人は入れません。そしてこれから朝のお仕事ですね。必ずタイをお召しになられますので。」
ガラット王子がゆっくりと朝のお茶を飲んでいる時に、タイを数本トレーに並べ運んでくる。
「一晩で覚えたのか?」
「はい。記憶力は良いのです。屋敷の間取りも頭に入れました。」
「かなり、有能な執事のようだね。なのになぜ?曰く付きの私の所になど来たの?」
「…私には、目指すものがあるのです!が、どうも今までのご主人様とは私のやりたい事が合わなくてですね…」
「何か、酷いことをされたのかい?」
心配そうに覗き込んでくる視線にびっくりして、ピッと背を伸ばす。
「いえ、私の希望と反りが合わなかったと言うだけの話です。此方のお屋敷では、使用人部屋を好きにしていいということで、満足して働けそうです。」
安心させるように、にっこりと微笑み返す。年齢よりは幾らか童顔に見えてしまうシェインの瞳は深い緑。整えた髪は夜の色。
「希望とは何?」
「私の休みを絶対に守って欲しいのです。」
「それは、了承しよう。けど、急に君を呼びたくなった時はどうしたらいいのかな?」
「いえ、それでなのですが、此方をお持ちください!」
コロン、とエメラルドの様な石がガラット王子の掌に乗せられた。まるでシェインの瞳と瓜二つ、同じ色をしている石だ。
「……これは?」
愛おしそうに見つめているガラットの顔を見るのはなんとなく照れ臭い…
いかん!これは仕事だ!
「私の分身の様なものです。御用の時は此方に触れて下さいませ。私に分かるようになっておりますから。」
「触れるだけでいいの?魔法みたいなんだね?」
「勿論、プチッと押しても構いませんよ。壊れる物では無いでしょうし、そちらの方がより確実に私まで届きますから。勤務中は此方を押して呼んでくださっても構いません。」
「便利な使い方をしているものだね……」
「そうですね。そちらは便利です。あの、ご主人様?何故に手を握ってこられるのです?」
話しながら、側にいたシェインの手を、ガラット王子が手に取って繁々と見つめていた。
「君の手は、こんなにも滑らかで柔らかなのに、仕事を押し付けてしまうなんて忍びないな…」
「は?それで生きていますので、人間は仕事が無いと死んでしまうんですって!働かざるもの食うべからずと言いますからね。仕事ができることは喜ばしいことでしょう。」
ニコニコと胸を張って自論を展開するシェインの手をガラット王子はギュウッと握りしめる。
「そう。君が楽しそうでよかったよ。これからもよろしくね?」
笑顔絶えぬガラット王子に笑顔で返して、今日の仕事が始まった。
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