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国王の召喚

17 御前への召し出し 2

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 連れてこられた人物はゆっくりと、優雅な足取りで王座の前まで進み来る。音も立てずに歩く様はまるで高貴な貴人の様にも見えた。
 
 王座の前から横に退けた王太子一行には目もくれずにその者は王座の前に進み出
た。

「その方が噂に違わぬエルフとやらか?」

 国王レナージの声がかかると、ゆっくりと畏まった古風な礼を持ってその者は王に応える。

「お初にお目に掛かります。私は森の住人エルフに相違ありません。此度のお召は何用でございましょう?」

「……!?」

 声は確かにキールの物。しかし、王太子タルコットももちろんフレトールもこんな言葉遣いをキールに教えた事も聞いた事もない。

「ほう…ベールが邪魔よの?取ってみよ。」

 驚きをなんとか抑えつつ場を伺うフレトールの耳に国王レナージの言葉は続く。

 白く透けないベールをスッポリと頭にかぶっていたキールだ。このままでは本当にエルフかどうかも見定める事はできないからだ。

「御意に……」

 自分を見せ物の様に扱おうとする人間に反発すると思っていたキールの反応はいともあっさりとした物だ。国王レナージに言われるがまま、静かにベールを外しにかかる。

「…….まぁぁぁ……」

「ほぅ………」

「なんと、お美しい…………」

 キールがベールを取った瞬間、謁見の間の人間達の息を呑む音が響き渡る程であった。

 丁寧に櫛笥ずられた緑銀色の長めの髪は邪魔にならない様に緩く束ねられ、輝かしい艶を放つ。同じく同じ色を湛えた宝石の様な瞳は物憂げに伏されて、言い様の無い色気を出していた。ほんのりと赤みの指す頬と唇以外白く輝く様なきめ細かい肌はシミひとつなく、室内にいると言うのに輝いている様にも見える。シンプルだが、品の良い長衣は細くスラッとしたキールの身体の線を強調しすぎない様に包み込んでいて、なんとも気品ある清楚な雰囲気を惜しげもなく晒していた。

 そして、緑銀色の髪の間からは人間とは違う、長い耳が伸びている。

「おぉ……噂に違わぬとはこの事か……見紛う事なきエルフの姿だ。」

「ええ、本当にお美しいですわ…」

「陛下……!ぜひ、あのエルフと触れおうて見たいと存じます。」

「私もですわ……」

 夢うつつの者の様にどこか恍惚とした表情を浮かべながら国王レナージの側妃達は言い合うのだ。
 
 ただ見たいと言う事ならばまだ分かる。


 触れ合って見たいだと……?犬、猫の類だとでも……?


 会って数刻も立たないうちに、触れ合って見たいとはどう言うことか…?国王の物である側妃達から出た言葉とは思えないものだ。エルフの事を気軽に触れ合える動物か何かだと勘違いしている様な発言にフレトールは目眩さえ覚えるのだ。

「ふふふ…お前達。自分に素直になるのも良いが、それを私の目の前で言うのか?」

 当の国王レナージはそんな側妃達の言葉に気を悪くするばかりか、なんとも楽しそうである。見目良く若い側妃達のする事はなんでも可愛らしく写ってしまう物なのかもしれない。

「そうだな……エルフ殿?名を何という?」

「…キールと………」

 名を聞かれたら礼儀上名乗るのは当たり前のことだ。ただそれだけのはずなのに、キールが国王達に名乗る事がフレトールには面白くは無い。出来ることなら、自分は罰を受けてもいいから、名乗りたく無いとキールには国王レナージの要求を突っぱねて貰いたいたかった。こんな事無理だと思いながらも、どうしてもフレトールの心に湧き上がる気持ちは抑えきれそうにも無いのだ。

「ふむ…キールか。我が妃が其方を近くで愛でたいという。私もそれに倣うとしよう。こちらへ、来るがいい。」

「ま、宜しいのですか?私達が側によっても?」

「陛下、感謝いたしますわ。」

「こんな事夢の様でしてよ?」
 
 キールはキール。誰のものでも無いはずなのに、国王レナージの側妃達はウキウキと国王レナージからの許可が降りたとばかりに喜んでいる。妃達も十分に熟知しているのだ。側に寄れと言った王がキールに対して十二分に興味を示しているという事を。こうなってはキールは国王の物も同然となる。でしゃばって国王レナージの不況を買う恐れがある事はしない方が良いのである。もしかしたらこのままキールを後宮に入れるとなれば常にエルフは目の前にいるのだから、妃達はそう焦らなくても良いと思ったのかもしれないが。

 ウキウキとはしゃぐ妃達に対し、フレトールの顔色は徐々に悪くなっていく。フレトールはつい先日、心をキールに捧げたいと告げたばかりなのだから…国王の様子からすると、このままキールを後宮に連れて行かれそうな不安がヒシヒシとフレトールを蝕んでいく…

「さぁ!キール、こちらへ…」

 欲望の色を隠そうともしない国王レナージは、目を細めてキールを見据え手を上げてキールを手招きする。

 ギリッ…フレトールの拳が鳴るのと、謁見の間が大きく開かれるのは同時であった。












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