123 / 143
123 待機
しおりを挟む
「姫様、どうやらここで足止めで御座います……姫様?」
馬車の外から声をかけるが、しばし返答が無い。小窓から覗いてみれば珍しい事にサザーニャはウトウトと眠っている様であった。
一国の姫君として王城に生まれ、神託の巫女姫となってからは王城巫女宮より殆ど外出せずに過ごしてきた。
ゴアラへは幼少の折数度来たことがあるだけで、慣れぬ小さな馬車で気の張る長旅はサザーニャの体力も限界だったのだろう。
急ぎ宿を探して休ませて差し上げなければ!お付きの騎士達が周辺宿を聞きまわるも宿は殆ど空いていない状態であった。
長旅覚悟で地方から出てきた令嬢の中には馬車の中で寝泊りする者も出てきた程だ。神殿ができてから一度にこれ程の人が集まったことが無いというくらいに多くの人で溢れかえったのである。
常であれば国賓として迎えられる様な身分であるサザーニャであり、勿論ゴアラに来た時は王城にて留まるのが常であった。
ゴアラの宿屋での宿泊も、野宿なども勿論した事がなく女騎士達は主人を休めることができる場所を確保する事に全力を注ぐ事になった。
サザーニャの一行は女性のみの一団だ。他の参拝者達は屈強な騎士や護衛兵が付いており、周りの人々からもやや浮いて見えてしまう一団だ。
余りにも多くの馬車が一度に止めておける場所もなく、街の周囲を囲む様に停車させそれぞれ休む様にと触れが出された。
サザーニャの一行も町中に程近く明るさも十分望めるところに落ち着く事になった。
「姫様、ここで申し訳ありませんが、こちらが本日の夕食になります。評判の良い宿屋が出している夕食でして、味は保証いたします。毒味も終わって居ますのでゆっくりとお召し上がりください。」
「ここに留まる方々が多いのですね。」
食事を受け取りながら狭い車内で何とか溢さぬ様にゆっくりと食べ始めた。
「美味しい…。ゴアラでは王城の外にも出た事などなかったのですもの。こんな時ですが、良い機会に恵まれたと思いたいですわね。」
「お宿が取れずに申し訳ありません…。姫様が前向きでいらっしゃるので私達も力付けられます。」
「貴方達もゆっくりと休んで頂戴ね。疲れているでしょう?」
野宿するしかないのだ、それでも体を休めて欲しかった。
「夜分に失礼いたします…」
突然に声が掛けられる。騎士に気取られぬほど、気配がなかった。夜間であり、日中よりも注意していたのに…
「何者?」
馬車から離れた茂みの方からフードを被った一人の男が姿を現した。
「お前は、あの時の?」
エベル国境付近であった不思議な魔術士…
「言付けを主人より預かっております。お嬢様方、主人の館にご案内いたします。其方で数日お過ごし下さい。」
物腰はごく丁寧だが、声質からは感情は読み取れない。
「貴方達少し下がっていて?」
サザーニャが護衛騎士に声をかける。
「姫様?」
「大丈夫、その者と話がしたいのです。ですがどうかこのままでご無礼をお許しください。」
「構いませんよ。此方の用は済みましたから。其方の御用は何でしょう?」
「先ずは先日の礼を申し上げます。
そして貴方様のご主人様のお申し出有り難いとは思いますが、此度の旅は人となるべく関わらぬ様にと参ってきた者です。ご主人様のお世話になっては関わらぬ、では通りませぬでしょう。ご主人様のお気が悪くなりませぬ様に謝っていただくことは出来ますでしょうか?」
「ああ、それならば問題はありませんよ。その屋敷は今は使われていない物ですから。勿論掃除はしてありますが、使用人はおりませんし、諸々のことはあなた方でして頂かなくてはいけませんが、自由に使って良いとのことでした。」
「重ねて失礼な事をお聞き致します。貴方様の話の何をもって信頼すればよろしいかしら?」
「成る程。用心される事は良い事ですね。お待ちください。」
フードの男がフードを取った。
漆黒の黒髪に深い深い緑の瞳。優しげな表情からは敵意は感じない。
ホァと男の手の周りに霧が立ち込める。
手の上に何か載っている?
「此方をお確かめ下さい。」
男が出してきた物は一つのメダルの様に見えた。
メダルの様に見えたのはペンダントだ。
台座の上に刺繍された布が貼ってある?
「それを此方へ!早く!」
失礼かもと思ったが、男の手に持っているものに見覚えがある様に思ったのだ。
女騎士が受け取り、サザーニニャの元へ運んできた。
「間違えありません。持ち主の方を存じています……
けれど、どうして?」
サザーニヤはペンダントを見つめたままポツリと呟いた。
「それの持ち主からの依頼なのです。今は捨て置かれている屋敷へと貴方様を招くようにと。ご安心下さい。神殿までは私が案内を致します。勿論ご滞在中は訪問者などが無いように配慮致しましょう。」
「姫様……如何なさいますか?」
「そんなに気遣って下さって…もう、あの方には全てお見通しでしたのね?では、もう何も隠し倒せるものなどありませんわね…。」
サザーニャは顔を上げて男を見返す。
「貴方様のご主人様の申し出に従いましょう。案内を頼めますか?」
「此方の申し出を受けてくださり、賢明なご判断ですね。では道すがら貴方様の疑問にもいくつかお答えいたしましょう。」
「不思議な魔術士様。理を外れていますのに何故だか貴方様からは危機感を感じませんの。」
「貴方に何かありましたら、私が本気でゴアラの王に命を狙われることになりそうですよ?」
クスクスと笑いながら、恐ろしい事をさらりと言う。
「全てにおいて、貴方様の邪魔は一切致しませんのでご安心を。」
今までの道中が嘘の様に屋敷までの道のりは何とも和やかなものだった。
馬車の外から声をかけるが、しばし返答が無い。小窓から覗いてみれば珍しい事にサザーニャはウトウトと眠っている様であった。
一国の姫君として王城に生まれ、神託の巫女姫となってからは王城巫女宮より殆ど外出せずに過ごしてきた。
ゴアラへは幼少の折数度来たことがあるだけで、慣れぬ小さな馬車で気の張る長旅はサザーニャの体力も限界だったのだろう。
急ぎ宿を探して休ませて差し上げなければ!お付きの騎士達が周辺宿を聞きまわるも宿は殆ど空いていない状態であった。
長旅覚悟で地方から出てきた令嬢の中には馬車の中で寝泊りする者も出てきた程だ。神殿ができてから一度にこれ程の人が集まったことが無いというくらいに多くの人で溢れかえったのである。
常であれば国賓として迎えられる様な身分であるサザーニャであり、勿論ゴアラに来た時は王城にて留まるのが常であった。
ゴアラの宿屋での宿泊も、野宿なども勿論した事がなく女騎士達は主人を休めることができる場所を確保する事に全力を注ぐ事になった。
サザーニャの一行は女性のみの一団だ。他の参拝者達は屈強な騎士や護衛兵が付いており、周りの人々からもやや浮いて見えてしまう一団だ。
余りにも多くの馬車が一度に止めておける場所もなく、街の周囲を囲む様に停車させそれぞれ休む様にと触れが出された。
サザーニャの一行も町中に程近く明るさも十分望めるところに落ち着く事になった。
「姫様、ここで申し訳ありませんが、こちらが本日の夕食になります。評判の良い宿屋が出している夕食でして、味は保証いたします。毒味も終わって居ますのでゆっくりとお召し上がりください。」
「ここに留まる方々が多いのですね。」
食事を受け取りながら狭い車内で何とか溢さぬ様にゆっくりと食べ始めた。
「美味しい…。ゴアラでは王城の外にも出た事などなかったのですもの。こんな時ですが、良い機会に恵まれたと思いたいですわね。」
「お宿が取れずに申し訳ありません…。姫様が前向きでいらっしゃるので私達も力付けられます。」
「貴方達もゆっくりと休んで頂戴ね。疲れているでしょう?」
野宿するしかないのだ、それでも体を休めて欲しかった。
「夜分に失礼いたします…」
突然に声が掛けられる。騎士に気取られぬほど、気配がなかった。夜間であり、日中よりも注意していたのに…
「何者?」
馬車から離れた茂みの方からフードを被った一人の男が姿を現した。
「お前は、あの時の?」
エベル国境付近であった不思議な魔術士…
「言付けを主人より預かっております。お嬢様方、主人の館にご案内いたします。其方で数日お過ごし下さい。」
物腰はごく丁寧だが、声質からは感情は読み取れない。
「貴方達少し下がっていて?」
サザーニャが護衛騎士に声をかける。
「姫様?」
「大丈夫、その者と話がしたいのです。ですがどうかこのままでご無礼をお許しください。」
「構いませんよ。此方の用は済みましたから。其方の御用は何でしょう?」
「先ずは先日の礼を申し上げます。
そして貴方様のご主人様のお申し出有り難いとは思いますが、此度の旅は人となるべく関わらぬ様にと参ってきた者です。ご主人様のお世話になっては関わらぬ、では通りませぬでしょう。ご主人様のお気が悪くなりませぬ様に謝っていただくことは出来ますでしょうか?」
「ああ、それならば問題はありませんよ。その屋敷は今は使われていない物ですから。勿論掃除はしてありますが、使用人はおりませんし、諸々のことはあなた方でして頂かなくてはいけませんが、自由に使って良いとのことでした。」
「重ねて失礼な事をお聞き致します。貴方様の話の何をもって信頼すればよろしいかしら?」
「成る程。用心される事は良い事ですね。お待ちください。」
フードの男がフードを取った。
漆黒の黒髪に深い深い緑の瞳。優しげな表情からは敵意は感じない。
ホァと男の手の周りに霧が立ち込める。
手の上に何か載っている?
「此方をお確かめ下さい。」
男が出してきた物は一つのメダルの様に見えた。
メダルの様に見えたのはペンダントだ。
台座の上に刺繍された布が貼ってある?
「それを此方へ!早く!」
失礼かもと思ったが、男の手に持っているものに見覚えがある様に思ったのだ。
女騎士が受け取り、サザーニニャの元へ運んできた。
「間違えありません。持ち主の方を存じています……
けれど、どうして?」
サザーニヤはペンダントを見つめたままポツリと呟いた。
「それの持ち主からの依頼なのです。今は捨て置かれている屋敷へと貴方様を招くようにと。ご安心下さい。神殿までは私が案内を致します。勿論ご滞在中は訪問者などが無いように配慮致しましょう。」
「姫様……如何なさいますか?」
「そんなに気遣って下さって…もう、あの方には全てお見通しでしたのね?では、もう何も隠し倒せるものなどありませんわね…。」
サザーニャは顔を上げて男を見返す。
「貴方様のご主人様の申し出に従いましょう。案内を頼めますか?」
「此方の申し出を受けてくださり、賢明なご判断ですね。では道すがら貴方様の疑問にもいくつかお答えいたしましょう。」
「不思議な魔術士様。理を外れていますのに何故だか貴方様からは危機感を感じませんの。」
「貴方に何かありましたら、私が本気でゴアラの王に命を狙われることになりそうですよ?」
クスクスと笑いながら、恐ろしい事をさらりと言う。
「全てにおいて、貴方様の邪魔は一切致しませんのでご安心を。」
今までの道中が嘘の様に屋敷までの道のりは何とも和やかなものだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる