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124 夢の続き
しおりを挟む…不思議な夢を見る……
…幼い時から見ていた様な、おぼろげな夢…
はっきりと、それが神託の夢だと認識できる様になったのはいつからだろうか?
夢が言うまま、天が言うままに泉を探しにゴアラの地を踏めば、夢の様相が以前よりももっと鮮明に、もっと切実に見えてきた…
「嘘でしょう……?……なぜ?」
清められたシーツの香りに包まれながら目を覚ましたサザーニャは、清々しい朝日に反して青い顔。
「サザーニャ様?」
案内をしてくれた男が言った通り、この屋敷には侍女などおらず騎士達が身の回りのことに気を配ってくれていた。
「どうかされました?」
良く休めていた様なサザーニャが青い顔をしているのだ。一体何があったかと心配して手を止め側に寄り添ってくれる。
「泉を………壊せと…夢でお言いなの…」
呆然としているサザーニャよりも、もっと情況が理解できない騎士達の顔も不安そうだ。
ギュウッとサザーニャは自分の身体をしっかりと抱いた。恐怖に体が震えてしまわない様に…
「昨夜は満月でしょう?神託の夢よ。
探し出した神託の泉を砕き壊せ、と………」
朧げながらゴアラに入ってから見ていた夢が、昨夜ははっきりと言葉になってサザーニャに望んだ。
やはり、ゴアラに神託の泉はあった。それも思っていた所に!
しかしその喜びを噛み締める事よりも更に夢で告げられた事に愕然とする…
先日仰ぎ見た神殿はそれは大きく立派だったのだ。中に入れたとしても、どれほど大きいかも分からない泉を完膚無きまでに打ち壊すことなど出来るのか?
どの様にして?
そもそもあそこは王の神殿、あの方の物を壊すの?
いや、ゴアラ王に説明してみたら分かってくれる?
いいえ!いくら分かってもらったとしても、大きな泉であれば壊した直後に下に住む人々に大きな被害が出る。規模によってはたくさんの人々が、亡くなるかもしれない…
それはあの方を裏切り、あの方が守ろうとする大切な物を奪い取ってしまうことになる。
サザーニャは無意識に枕元に置いてあった、男から預かったペンダントを握り締めていた。
なぜ?なぜ壊すの?
いつも、いつも、神託の夢は真実のみしか語らない。神託の巫女姫は理屈ではなく肌でそれを熟知してきている。
しかし、理由をつけてくれたならこの心はこんなにも震えることはないのに。
「姫様?」
騎士の一人がギュッと手を握り締めていてくれる。皆の心配そうな顔を受けて、サザーニャはもう一度心の底に力を入れた。
私が此処で崩れる訳には行かない……!
どんな事があろうとも、やり遂げてみせる!
大きく深呼吸をしたサザーニャは全員を集める様に伝えた。
……なにか、おかしい………
この一言で、ちょっと見てくる、とソウは道無き道をズンズン進んで登って行ってしまった。
「あいつ、意外と行動力があるよな…」
「野生児なんじゃね?」
この夜の暗闇を臆せず、山奥に一人進んでいくなんて…
野生動物ならまだしも、魔物が出てきたら如何するんだか?
「いいのか?放っておいて?」
"何としても守れ"
ガイの中ではこれは大きく響いている。あいつは何者?シエラの親戚筋で身元はシエラが保証している。怪しいやつでは勿論ないが、何処かの身分持ちなのか?
「なあ、あいつは一体…?」
ガイの何度目かの質問にバートが望む答えをすんなりくれるわけが無い。任務のためならば殺しても口を割らない、気概がある男だ。
今回も多分はぐらかされる。
「あの人は…余り知られるのを望んでないと思うんだよなぁ…」
バートらしくない非常に気まずい顔をする。
ん~~~とか言いながら頭をボリボリ掻く、困ってる時のバートの癖だな、これ。
「わぁ~ったよ。非常に気になるが、知らんふりをしておいてやる。必要になったら自分から言うだろ?」
「あ~~~、多分な?」
「了解。」
「何の話?」
ガザ、ガサガサと藪からソウが現れる。
「おう、早いな。」
「何かわかったのか?」
「更に、おかしい事が分かったよ。」
「は?どうした?」
パンパンと体に付いた小枝や葉を払い落としながらソウの表情は厳しいものだ。
「この山、動物がいないんだ。鳥もね。山の木々は豊かなのに小動物も、大型獣の気配もない。それに……おかしい事にこんな山奥なのに魔物もいない…」
「どういう事だ?魔物はとにかく、夜行性の動物なんかは動きだしているだろ?」
「いないよ。気配がない。息付いている物の気配が無いんだ。」
ソウの表情は真剣そのものだ。
「ガイ、他の組みに連絡取れる?何かあるかもしれないから気を付けろって。」
ソウは山や森の気配を読むのに長けている。狩りをするのも狩人並みだ。此処は気をつけて行くに越したことはない。
「了解。どこかで一度落ち合うか?」
今後の動きの確認もしておきたい。周囲の気配を確認し、ガイが風魔法を起こす。
「山の木々が切れる付近までは登ってみたほうがいいな。」
何故か頂上付近には木々は無く、岩場ばかりで景色の差が激しい。
「何もなければいいがな…」
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