[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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120 ゴアラの王3

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 町全体が色めき立っている、とでも言えば良いのか、ザワザワと落ち着かない?
 昨日の刑罰の件かと思いきや噂をしている者たちの表情はどこまでも浮き足立っている。

「あぁ、昨夜のうちに触れが出たんだよ。」

 情報収集の為、朝早いパン屋に入ると店主が話してくれる。

「お連れさんに女性はいないね?じゃあ安心だ。どこぞのお偉いさんが王の妃を巡って見め良い娘をさらうかも知れんとか何とか…」

 昨夜の森の中の一幕はこれが原因だったのか?この街からも我こそはと思う娘を引き連れて王城へ随時向かって行く一団を見ることができる。

「まあ、そんな好機に恵まれるのも懐に余裕が無いと行けないがね。それぞれ神殿に参って祝福を受けてから王都へ入るらしいよ。一般の者じゃあ、まずは祝福を受ける事からが難しいんだ。」



「神殿ね、あの父親も言ってたな。あったかい水が流れているんだっけか?」
 胡散臭そうなバートの言葉。
 
「そう、山の上なのに…」

「山の上、な。」
 3人共に同意見の様だ。

「上から調べて降りてくるってのも手だな?」

「あぁ、そっちの方が早いかもな。」

 ちょうど良い所にその神殿に向かう人々には事欠かず、今から街を出ても後から同じ目的の人々で溢れかえる程に増えるんだろう。身を隠しながら怪しまれず最短で神殿に近づく事も可能だ。
 そうと決まれば軽く身を翻し、街を出る団体に紛れて行った。
 





邂逅かいこうの神殿?」
 
 途中道を外れたが、無事にゴアラへ入国できたサザーニャ一行が、西へ目指すその道すがら何組もの令嬢を連れた一団と遭遇した。
 王都で何ぞ催しでも開かれるのかと思っていたが、どうやらそれぞれの馬車に付く従僕達は他家の令嬢の様子を頻繁に伺おうとしている不作法さが目立ち、目に余ってつい騎士に呼び止めさせた。

 サザーニャ自身はフードをしっかりと被り、馬車の窓にも布を垂らして完全に外から見えない様にしていた為、他の馬車の者からしては異様に見えたのかもしれない。

「姫様、お聞きになった事は有りませんか?ゴアラ城の北西に位置する山の上に有るとか。」

 国々に特色ある神殿は何処にもあろう。ゴアラも然りと思っていたが、シュトラインからは特別聞いたことのない神殿名だった。国家行事を司る神殿に関する事であれば覚えていたかもしれないが…

「いいえ、初耳ですわね。そもそもこれから向かおうとしている所に有るのでは?」

「その様です。姫様がお調べになりたい場所で間違えがないかと。」

「そこに何があるのでしょうか?」

「わかりませぬ。あの物達は祝福を受けに行くと言っておりましたが?」

「祝福……?」
 詳しく聞いておいた方が良いかもしれないが、周りの人々はサザーニャも神殿へ赴く者の一人として捉えきっと警戒している。

「メリッサ、私は他国から来た観光客です、と。神殿とは関わらない者ですが、皆様は何故そう急がれるのか聞いてもらって?」
 メリッサと呼ばれた騎士が欲しい答えを持ってきてくれる。

 道中に会った男の事を知らないか聞いてみたかったが、どう見ても周りのものは裕福そうだが地方の娘達という印象が拭えない。中央、シュトラインの側にいるだろう者の事を知っているとも思えなかった。



「姫様、この神殿詣の方々は如何やらゴアラ王の妃候補の者達だと言うのです。」

 妃?王妃の?こんな街中の娘達をも候補として?

「貴族のご令嬢達は如何なさったの?ゴアラ程の大国ならばお相手に困ることなど無いでしょうに…」

「それが、昨夜触れが出たそうなのです。王の正妃、側妃候補を決める為、当てはまる令嬢を城へ来させる様にと。」

「王命なのですか?」
 信じられない。シュトラインが正妃を求める事は分かるが、正規の手順を踏まずに手当たり次第娘を集めていることになる?まるでハーレムでも築こうとしているのか…

「命が何処から出たかは解りかねますが…王城へ集めるということなのでそう捉えても良いのでは無いかと…」

「そう…ですの……」
 幼き日のシュトラインの思い出が強くて、現ゴアラ王の考えに頭がついて行かなくなっている。王として妃を迎えなければならないシュトラインの立ち場からしたら、どんな形であってもこの国の有り様だ。しかし、サザーニャが知るかつての純粋な少年の思い出が崩れていく様で少し寂しかった。

 思いもかけず、心乱されたことにサザーニャ自身が驚く。
 (私の中にもこんな心があったのですね…)

 幼い頃の懐かしい景色に昔の記憶が呼び起こされるためか、少し感情的になっている様だ。

 ここに来た目的は、思い出探しでも、幼なじみに会うためでも無い。キュッと唇を噛み締めて馬車からそっと外を垣間見る。
 広い道にはゆっくりだが確実に王都へ、邂逅の神殿へと向かう馬車が数輌見て取れる。そして自分を守る護衛騎士達。自分もこの者達も、もしや帰れまいと覚悟してここに来た。手に取り見える命の重さを唇の痛みと共に噛み締めた。
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