[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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108 快癒   

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「加減はどうか?」

「サウスバーゲン国王陛下。その姿はお忍びですか?」
 ルーシウスはマントを脱ぎレギットの元へサウラを伴う。マントの下は暗部隊員の黒の制服だ。

「そうだな。大掛かりになっては時間ばかり取られる。たまにはこう言うのも良いだろう。」

「私からしたら羨ましい限りです。」
 元々痩せ型なのか、それとも病床に着いてから肉が落ちてしまったのか。男性にしては細い手首が袖から覗いていた。顔色も良くは無いが、笑顔で迎えてくれるレギットにはまだ生きる力がある。

「何を言う。其方とてまだまだ若い。城下に忍んで周りを心配させる位には体力は戻るぞ。」
 だが、今以上に心配をかけてはいかんがな、軽口を叩きながらサウラの背をそっと押す。

「その方が?」

「紹介しよう。我が番のサウラだ。」
 まだ了承して無いんですけどね。

「やはりお噂は本当だったのですね。サウスバーゲン国王陛下も御快癒なされたと聞いていたのだから噂でさえも無かったわけですが。」


 生きる力がその人の中に無ければ駄目なのだ。癒しても直ぐに元の様に体調を崩してしまう。人には決められた寿命があるのだから。
 けれど皇太子の中には生きる事への渇望が有る。まだまだ諦めていない強い意志が。


 もう一度丁寧に騎士の礼をしてサウラが近づく。寝台の両脇に控えている王妃、皇太子妃が、下がろうとするのをサウラは止めた。

「どうぞ、そのままで。何方どなたにも害のない魔法ですから離れなくても大丈夫です。」
 ニコ、と笑顔を向けて手をかざすと白金の粒子が皇太子の身体を舞い巡る。




 


「何と言う事だ。大叔父上が…」

 サウラの魔法後すっかり身体が軽くなった皇太子は、寝台では無く皇太子夫妻の応接室のソファーの上だ。

 体が軽くなったと聞いた瞬間、王妃は泣き崩れてしまい、皇太子妃も目にいっぱい涙をためながら皇太子の手を握り締めていた。

 カント・アッパンダー元公爵は貴族牢にて身柄を拘束、現在は娘婿が公爵の任を受けている。いくら皇太子の御為とは言えど他国の国民に犠牲が出てしまっており、勧めていた薬が実は毒薬の類となれば皇太子暗殺未遂の疑惑も被る。また皇太子の健康が回復しなかった場合、皇太子暗殺の責をも問われる事になったのだ。
 公式訪問でサウラが入国すれば甘痺草が毒薬の類の痺れ薬であった事が公になる。
 今回非公式での訪問は暗殺未遂と言う点を秘匿させる為にもなった。皇太子健康回復の為には国中のどの貴族達よりも心を砕き、熱心に立ち動いていてくれたのがカント・アッパンダーであったからだ。


「何処の手の者と繋がっていたと?」
 国王にも良く似た皇太子の濃茶の瞳は真っ直ぐに国王を捕らえる。

「……ゴアラの王室に連なる方だそうだ。外交官によると庶子にあたる方とは言っていたが…」
 
「ユーリンの輿入れを条件に、ですか?サウスバーゲンに切り込む糸口にされたのでしょうね。」
 庶子ならば王族を責めても、知らぬと言われればそれまでだ。パザンにはゴアラを締め上げるほどの国力も無いため、今回のことが公になったとしてもパザンは泣き寝入りになる。ゴアラには何の損失もない。

「目先のことに焦った我らが負けか…」

「悔しいですが…ここで留められて良かったと思うより他ありませんね。」
 ゴアラの思惑通りだったら被害はもっと甚大だっただろう。

「改めて、心から御礼申し上げます。サウスバーゲン国王陛下。身なりも整えず見苦しいままではございますが、番様のサウラ様にも何と言って御礼を述べれば良いか妃と共に先ずは礼をば。」
 病床に就いていたのが嘘の様にスッと立ち上がり皇太子妃に手を差し出す。
 皇太子妃も立ち上がり、ルーシウスとサウラの前でそれは優雅に礼を取った。

「我が国パザンはサウスバーゲンの為に微力では有りますが、これからも力添え致しますことをここに誓いましょう。」
 
 パザン国王夫妻も立ち上がり同じく礼を取る。

「その礼を受け取ろう。皇太子殿も病み上がりだ、ゆっくりと養生されよ。」

「その様に思うのですが、何故だか以前よりもずっと調子が良い様に感じます。」
 ルーシウスも感じた事がある。サウラの癒しの魔法は掛けて貰えば一番調子の良い時に戻る様なのだ。

「それは良くわかるが、先ずは養生する事に越した事はないだろう。失った分の体力を戻さなければ。」

「そうですわ。お倒れになっても直ぐに良くなると思ってましたのに、暫くして起き上がる事も出来なくなってしまうんですもの。もう、あんなに心配するのは嫌ですわ。」

 パザン皇太子夫妻はまだ新婚だったのだ。ルーシウスは病で倒れ結婚式には出席出来はしなかったが、手を握り締めて仲睦まじ気にしている様は微笑ましいやら、羨ましいやら。いくら大国の王とてままならない事もあるものだ。


「サウスバーゲン国王、件の甘痺草は人体への使用を厳禁とし、カント・アッパンダー元公爵については公爵位を剥奪の上、王族所有の地方に永蟄居ちっきょを命ずる手筈だが、サウスバーゲン側からは要望はあろうか?」

 永蟄居、死ぬまでそこからは出られない…アレーネが知ったら…

「サウラ心配するな。アレーネ嬢には追い追いゆっくりと伝えて行こう。パザン国王のご決断に感謝する。」
 アレーネに全てを隠しておく事はできないだろう。いずれ市井にもうわさは流れる。自分の身内がと思うとショックも大きかろうが…

「では、時折休暇目的で私たちが大叔父上を訪ねましょう。さすれば我らの中に禍根は無いと周りの人々に見せていく事ができますからね。」

「それは宜しゅうございますわ。アレーネ様は幾度もお見舞いに足を運んで下さいましたのよ。とても優しい方ですわ。」
 皇太子夫妻も今後のアレーネが受ける周りからの噂や圧や良からぬ干渉を心配して行動を起こしてくれる様だ。

 良かった。無理を押してルーシウスまでパザンに来てしまったけれど、早く癒さなければとルーシウスに訴えて良かったとサウラは心から思ったのだ。

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