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104 甘痺草2
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「サウラ様!」
静かな庭園に似つかわしくないアレーネの叫びが上がる。
そうだ、あの薬草はサウラが言った通りの甘痺草と言っていた。しかし、それは毒にもなるのだと、扱い方には重々注意する様にと祖父にしっかりと念を押されている。それを…
「その薬は健康な者には毒となるのです!それを口にお含みに成られるなど、直ぐに吐き出してくださいませ!」
アレーネは必至だ。顔色も無くなると言うよりもう白に近い。
「サウスバーゲン国王陛下の番様に害成したとあってはパザンは滅びてしまいます…どうかサウラ様、直ぐにお医師を!」
もう泣きそうに成りながら席を立ちキョロキョロと近くの侍従や侍女に声をかける。
「医師は要らぬ。落ち着きなさい、アレーネ嬢。」
ルーシウスの言葉に訳がわからないと言う顔でアレーネは見つめ返している。
「アレーネ嬢、ここだけの話ですがサウラ様の魔力には毒の類が効かないのです。ですからどうかご安心ください。」
側に来ていたシガレットが柔らかい声で優しく語りかける。アレーネの手を取って、着座を促してくれる。
「驚かせてしまって申し訳ありません、アレーネ様。先にきちんとご説明しなかった私が悪いのです。シガレット様の言う通り私には毒は効かないので、つい、普段の様に行動してしまいました。」
アレーネに謝罪をしてはシュン、と小さくなってしまったサウラに確認の為ルーシウスが尋ねる。
「体に異常は?」
「ありません。」
「それは甘痺草か?」
「はい、間違いありません。」
「サウラ、甘痺草とは?」
「はい。アレーネ様本当にこれを薬として使っているのですか?」
「ええ、その様に聞いています。実際にこの薬草を煮出している所は見ておりませんが、皇太子殿下の飲まれていたお薬湯はこれと同じ匂いがいたしました。」
着座し少し落ち着いたようでアレーネの返答はしっかりとしたものだったが、未だに不安そうな表情をしている。
「これは甘痺草と言いまして、山間部に生息してしている草なのですが、強い痺れの症状を出す毒草なんです。勿論人には使いませんし、大型の猛獣や魔物を捕らえる時矢尻などに塗り込めて動きを止める時に使います。アレーネ様お医師はこれを薬草と言っていたのですか?」
「それが、パザンのお医師は知らないと。全ての薬も治療も効き目がなくて他国に頼るしかなかったのです。」
幾ら他国の物でも今は国交や貿易が盛んだ。小国と言えど、一国の国の中枢にいる者が必死で探して今まで見つからなかったなどと言う事が有るだろうか?
「サタヤではずっと昔から毒草として使ってましたけど、滅多に採れる物でもなくて貴重品の一つでした。」
「サタヤとはどこですの?」
「私の故郷です。キエリヤ山脈の高原に村があるのです。」
「まあ、サウラ様は山の出ですのね?それなのに国王陛下と出逢われたなんて、運命って不思議でやっぱり憧れてしまいます。どんな所かお聞きしても?」
「人里離れた山奥なんですよ。地図にも載っていないでしょうし、村から出る事もままならない位山奥です。」
「どんな所でも故郷は懐かしい物なのでしょうね。サウラ様のお顔が綻んでますもの。先程は取り乱してしまいましたけれど、お話を聞けてなんだかホッとしてきました。」
アレーネはすっかりと落ちつきを取り戻したようだ。サウラも心からホッとしたし思いがけずサタヤ村のことが話題に上がるなんて、恥ずかしいやら嬉しいやら。
けれど懐かしむだけでは今回は終わらない。何故に甘痺草が薬なんかに?
人には使ってはいけないと教えられていたのに…
一時不穏な空気が流れてしまったがルーシウスはその後サウスバーゲンの医師にも確認を取る約束をしたのでアレーネは落ち着いてゆっくりと昼食を取ることが出来たようだ。
サウスバーゲンの医師達に確認をとってみた所、この国にも同じような物は薬として扱っていないと言うことだ。だが、国が認めていないだけで地方には独自の治療法がある事も確かな為、一概にも毒とは言い切れないとの見解であったようだ。
サタヤで使われていた事から勿論シエラにも話が回った。
バン!!
午後の政務が一息ついた頃、執務室の扉が乱暴に押し開けられた。開けられたと言うよりは体当たりの様に身体ごと扉に突撃し押し入ってきた様だった。
執務室にはルーシウスは勿論のこと、シガレットと侍従数名がまた部屋の外には騎士や控えていた侍女も居たのである。まして大国の中枢の中枢で真昼間からこの様な狼藉を働く者も、また許す者もいないと思っても過言では無かったはずだ。
一瞬の出来事にその場に居た全員が固まっただろう。扉外で控えていた騎士もあっという間の出来事で対応に遅れたと後から言っていた程だ。
普段と違うシチュエーションには注意力も思考力も意味をなさなくなるようだ。
思い切り扉を叩き開けて執務室に入ってきたのがシエラだと気がつくのに優に数秒は掛かったのである。
静かな庭園に似つかわしくないアレーネの叫びが上がる。
そうだ、あの薬草はサウラが言った通りの甘痺草と言っていた。しかし、それは毒にもなるのだと、扱い方には重々注意する様にと祖父にしっかりと念を押されている。それを…
「その薬は健康な者には毒となるのです!それを口にお含みに成られるなど、直ぐに吐き出してくださいませ!」
アレーネは必至だ。顔色も無くなると言うよりもう白に近い。
「サウスバーゲン国王陛下の番様に害成したとあってはパザンは滅びてしまいます…どうかサウラ様、直ぐにお医師を!」
もう泣きそうに成りながら席を立ちキョロキョロと近くの侍従や侍女に声をかける。
「医師は要らぬ。落ち着きなさい、アレーネ嬢。」
ルーシウスの言葉に訳がわからないと言う顔でアレーネは見つめ返している。
「アレーネ嬢、ここだけの話ですがサウラ様の魔力には毒の類が効かないのです。ですからどうかご安心ください。」
側に来ていたシガレットが柔らかい声で優しく語りかける。アレーネの手を取って、着座を促してくれる。
「驚かせてしまって申し訳ありません、アレーネ様。先にきちんとご説明しなかった私が悪いのです。シガレット様の言う通り私には毒は効かないので、つい、普段の様に行動してしまいました。」
アレーネに謝罪をしてはシュン、と小さくなってしまったサウラに確認の為ルーシウスが尋ねる。
「体に異常は?」
「ありません。」
「それは甘痺草か?」
「はい、間違いありません。」
「サウラ、甘痺草とは?」
「はい。アレーネ様本当にこれを薬として使っているのですか?」
「ええ、その様に聞いています。実際にこの薬草を煮出している所は見ておりませんが、皇太子殿下の飲まれていたお薬湯はこれと同じ匂いがいたしました。」
着座し少し落ち着いたようでアレーネの返答はしっかりとしたものだったが、未だに不安そうな表情をしている。
「これは甘痺草と言いまして、山間部に生息してしている草なのですが、強い痺れの症状を出す毒草なんです。勿論人には使いませんし、大型の猛獣や魔物を捕らえる時矢尻などに塗り込めて動きを止める時に使います。アレーネ様お医師はこれを薬草と言っていたのですか?」
「それが、パザンのお医師は知らないと。全ての薬も治療も効き目がなくて他国に頼るしかなかったのです。」
幾ら他国の物でも今は国交や貿易が盛んだ。小国と言えど、一国の国の中枢にいる者が必死で探して今まで見つからなかったなどと言う事が有るだろうか?
「サタヤではずっと昔から毒草として使ってましたけど、滅多に採れる物でもなくて貴重品の一つでした。」
「サタヤとはどこですの?」
「私の故郷です。キエリヤ山脈の高原に村があるのです。」
「まあ、サウラ様は山の出ですのね?それなのに国王陛下と出逢われたなんて、運命って不思議でやっぱり憧れてしまいます。どんな所かお聞きしても?」
「人里離れた山奥なんですよ。地図にも載っていないでしょうし、村から出る事もままならない位山奥です。」
「どんな所でも故郷は懐かしい物なのでしょうね。サウラ様のお顔が綻んでますもの。先程は取り乱してしまいましたけれど、お話を聞けてなんだかホッとしてきました。」
アレーネはすっかりと落ちつきを取り戻したようだ。サウラも心からホッとしたし思いがけずサタヤ村のことが話題に上がるなんて、恥ずかしいやら嬉しいやら。
けれど懐かしむだけでは今回は終わらない。何故に甘痺草が薬なんかに?
人には使ってはいけないと教えられていたのに…
一時不穏な空気が流れてしまったがルーシウスはその後サウスバーゲンの医師にも確認を取る約束をしたのでアレーネは落ち着いてゆっくりと昼食を取ることが出来たようだ。
サウスバーゲンの医師達に確認をとってみた所、この国にも同じような物は薬として扱っていないと言うことだ。だが、国が認めていないだけで地方には独自の治療法がある事も確かな為、一概にも毒とは言い切れないとの見解であったようだ。
サタヤで使われていた事から勿論シエラにも話が回った。
バン!!
午後の政務が一息ついた頃、執務室の扉が乱暴に押し開けられた。開けられたと言うよりは体当たりの様に身体ごと扉に突撃し押し入ってきた様だった。
執務室にはルーシウスは勿論のこと、シガレットと侍従数名がまた部屋の外には騎士や控えていた侍女も居たのである。まして大国の中枢の中枢で真昼間からこの様な狼藉を働く者も、また許す者もいないと思っても過言では無かったはずだ。
一瞬の出来事にその場に居た全員が固まっただろう。扉外で控えていた騎士もあっという間の出来事で対応に遅れたと後から言っていた程だ。
普段と違うシチュエーションには注意力も思考力も意味をなさなくなるようだ。
思い切り扉を叩き開けて執務室に入ってきたのがシエラだと気がつくのに優に数秒は掛かったのである。
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