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88 再会3

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「失礼致します。タンチラード辺境伯領のカリナです。」

 入浴が済み粗方準備が整ったサウラの部屋へ訪問者があった。

「カリナさん。」

 カリナが入室と同時にアミラとスザンナは礼を取る。

「姫様。お久しぶりに御座います。」
 
 かしこまったドレスではなく、緩やかな室内着に近いワンピースを身につけて、洗い流した髪を緩やかにまとめ上げてもらっているサウラの表情をカリナは無遠慮にもマジマジと見つめる。その目には心からの安堵の色が宿っていた。

「よろしゅう御座いました。お元気そうで。」
 カリナは、サウラの足元でひざまき礼を取る。顔色も良く、別れた時の何かに追い詰められた様な様子は見て取れない。

「お久しぶりです、カリナさん。あの心配して来てくれたのですか?」

 わざわざ?

「いえ、国から召集が掛かりまして、姫様の顔見たさに志願して参りました。姫様、どうぞカリナとお呼びくださいませね。」

「召集?まさか、戦か何か?」
 そんな情報は無かったはずだが?

「違います。小さなものを担当するので大したものではありません。ご挨拶が出来て良かったですわ。」

「カリナ嬢やはり来ていたか。」

 カリナがニッコリと笑ってその場を辞する挨拶をすれば扉からルーシウスの声がする。

「陛下お邪魔しておりました。もう退室しますので。」

「道中疲れたであろう?今日は緩りと休んでくれ。」

「はい。後程騎士団の元に出向きましてから下がらせて貰います。」

「よろしく頼む。」

 2人の会話を聞きながら、特にルーシウスの声を聞いたら、帰ってきて良かったと心から安堵している自分に気付く。前にあった時はルーシウスに異変が無いことで安心したものだが、今回は自分が会いたいと思ってルーシウスの存在を求めていたのに気付かされた。

 心の中に降り積もった会いたい気持ちが脈打っているのが分かる。

 カリナが部屋を出るのと同じく、サウラも立ち上がってルーシウスに礼を取る。真面に顔を見れなさそうなのでそれで良しとしよう。

「お帰りサウラ。」
 優しく低い声を聞けば、ここにもまた自分の帰りを待っていてくれた者がいたと、と教えてくれている。

「ご挨拶が遅くなり申し訳ありませんでした。」

「いや、良い。シエラの所には行ったか?」

「はい、先程。一番最初にここに来るな、と怒られてしまいました。」

「フッそれは良い、サウラの好きなように。こうしてまた顔を見る事が出来たのだから。俺は満足だ。」
 言い終わる間も無くサウラの手を取りソファーへ導く。

 応接室には侍女たちが昼食の準備をし始めている。その間ソファーで待つつもりらしい。

「カリナさんが呼ばれたのは暗部にも関係ありますか?」
 泉の探索を急がせていたにも関わらず一組を残し帰国させたのには訳があろう。サウラはルーシウスとの昼食を取る為に騎士団には出向いていないが、本来ならば召集が掛かっているはずである。 

「ん?まあな。小事だ、サウラは気にするな。」
 飄々ひょうひょうとした態度を崩さないルーシウスから今回のことは大事か、小事か分からない。
 
 けれどずっとニコニコしているし、本当にそんな事何とも無いように優しい笑みは変わらない。
 深いエメラルドグリーンの瞳を見つめれば喜びと共にまた懐かしい気持ちになる。

「キエリヤ山岳を超えました。山の空気が懐かしくて、私の村はもう少し上の方だと思いました。」

「景色を見るだけで分かるのか?」

「はい、でも風の冷たさとか空気の匂いでしょうか?」

「匂いか、やはり違いがあるのだな?」

「ええ、違うと思います。」

「そうか、いつか山の空気も味わってみたいものだな。」
 山の田舎も嫌がらず話に付き合ってくれるルーシウス。何度も行ってみたいと言ってくれるのがこんなに嬉しいとは。

「あの、山の空気は無理ですけど、お茶は飲んでみますか?」

「お茶とは?」

「今日受け取ってきたんです。サタヤ村の魔草茶なんですけど…」

 そう言えばサウラが何やら手に持っていた包みがある。片手で握れる程の小さなものだが?
 
 これですよ、と手に持っていた包みを見せてくれる。
サタヤ村で採れる魔草から作った茶葉だ。凶暴化せず魔物化した薬草の種を取り育て上げてきたものだ。
 
 冬が長く寒さが厳しいサタヤ村では冬を越すのが一苦労である。川まで凍る寒さの中で過ごさなければならないのだ。

 霜に弱い野菜は凍らないように地温を上げ且つ寒風から守り、家畜が凍死しない様に家畜小屋の気温を保つ。皆協力し、それぞれの得意の魔力を用いて環境を保つ為、個々にも魔力を大きく使う時期になる。特に家畜番や畑番になるとその消耗も激しくなる。
 そこでこの魔草茶が必要となる。これは枯渇した魔力の回復を高めてくれるもので限界まで消耗しても飲んで一晩眠れば朝には回復している程回復を早めてくれる。サタヤ村では冬になると大鍋でこのお茶が炊き出され、畑や家畜の当番になった者はほぼ一日中この茶を飲みながら作業するのが習わしとなっているのである。
 魔力の枯渇は命の危機にも繋がるサタヤでは冬の生命線にもなっているのだ。

 その魔草茶を村の皆んなは送ってくれた。これだけでもとても大切に飲む物なのに…

「どの様にして飲むのだ?」
 興味深々のルーシウスである。

「お湯で煮出してから好きな薄さにして飲むのです。」

 ルーシウスは直ぐに侍女に湯の準備をさせる。食後に飲める様に煮出しておく様に告げると彩り良い料理が並ぶ昼食の席へとサウラをいざなった。



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