上 下
55 / 143

55 暗部に入って

しおりを挟む
 カタン。

 早朝の部屋の中に小さな音が響く。
静かに入ったつもりが、少しの力加減で音が出る。
まだ、細かい所の力加減が上手くいかないような気がする。体を動かす事自体は全く違和感が無いのだが、力は以前よりも入るようだ。シエラからの注意でしばらくはこの姿から戻れない。

 ルーシウスには此度こたびの決意を伝えていない為、事後報告になってしまう。今伝えたとしても、このままの姿で会ったら気まずさだけが残るんだろうけど。
 
 ルーシウスに会えないと思っても、日々の仕事はしなくてはいけない。だからルーシウスが起きてくる前に部屋に忍んできているんだ。

 倒れた後のあの日の様にルーシウスの寝息は静かだ。
そっと手を伸ばせば、ルーシウスが触れた感覚も戻ってくる様で恥ずかしさがこみ上げてくる。

 ポァ、手早く回復魔法を掛けて側を離れる。
深いエメラルドグリーンの瞳が見れないのは少し寂しいが長居は無用だろう。
 


 この所、王の部屋へ朝も早くから訪問者がいる事に対し近衛の中では噂が立っていた。暗部の密使との事だが、いつも必ず夜明け前。
 王からも厳命されており、左腕のブレスレットを確認の上毎朝通してはいるが、なぜ王が目覚める前なのだ?
 密使ならば直接伝えることがあるのでは無いだろうか?

 そして番であるサウラ様の姿が見えない。体調不良との事で、侍女殿も心を砕いている様だが如何いかがしたのであろうか?
 密使殿もサウラ様と同じく黒髪、黒瞳、雰囲気も似ていると言えば似ている様な…まさか、番様が相手にしてくれ無いが為に王は…との誠しやかな話が外に行く前に、騎士団長からそれは厳しく箝口令かんこうれいが出された事は言うまでも無い。



 朝も早くから鍛錬場で鍛錬に励んでいる。身体に慣れるにはまずは動いてみる事だとシエラに言われ、まだ騎士団のメンバーが来るよりも前に来る様になった。
 時には夜勤明けの暗部やら、騎士やらに捕まり手合わせ相手にもさせられている。

 初日の暗部との手合わせ後、このようにシエラより通達があった。

 この度暗部に入る若者は、シエラ、サウラと同じ村の出でシエラの血筋に当たる事。曽祖父の代に村を出て各国を廻っていた所をシエラが引き抜いたと。
 名前は“ソウ“、歳はサウラと同じく15歳。対戦能力に優れ回復も使えるという理由で暗部入りさせた。
 シエラの血縁と言えば、似ているかもしれない?
 
 いささか苦し紛れではあると思ったが、致し方無い。各国を知っているかと聞かれれば全く知らない方なのだが…
 それでもシエラからの通達という事でこれで納得させてしまう所がシエラだからなせる技なのだろう。



 ポンポン、と何故かバートに頭を撫でられ、バン、とガイには背をたたかれる。

 暗部は基本3人1組で行動する。ソウが入った為人員の再編成を行い、バート、ガイ、ソウのチームとなった。
 そして、ダッフル騎士団長から告げられた後の反応が上記だ。
 
「お願いします。」
 荒い歓迎?が終われば彼らは先輩であり、同僚であり、命を預ける仲間だ。目的は多分一緒だろう。心から力を借りたいと思うし、力になりたいと思う。

「はぁ、言いたい事は色々あるが、自分で決めてここにいるんだな?」

バートの問いに真っ直ぐに目を見て答える。

「そうです。自分の意思です。」

「なら、何も言うまいよ。色々皆んな背負ってここにいるからな。なぁガイ?」

「何のことか分からんな。だが、お前は使えそうだ。力み過ぎて頼むから突っ走るなよ?」

「分かっています。頑張りますのでよろしくお願いします。」

「だーから、力みすぎるな。」
 またもやバン、とガイは背を叩き鍛錬場を後にした。

「まだ若いんだ。根が真面目なんだろうよ。」
 その後をバートも追う。

 これからは彼らと共に行動する。ただ城で守られている者ではなくて、自分も守る側になるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...