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44 結界魔法発動
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ブラード、ダッフル、カリナの3名が片膝を突き礼を取る。
[どの様なことがあっても、王の魔法発動中は決して魔力を使用してはいけない]
ルーシウスの邪魔にならない様に、もう一度心の中で復唱するサウラ。
何事も無く終わって欲しいと切に願う。
フウン。風は動いてはいないが、何かが唸る音がする。
ルーシウスは右手を挙げ、結界石に向かって魔力を注入し始めた。フワリとルーシウスの体を雪の様な細かい粒子が覆う。ルーシウスの魔力の色だ。
実際には、ルーシウスのこんなに濃い魔力を見るのは初めてだ。2人の時、いつも魔力を使うのはサウラだったから。
舞い上がった魔力はルーシウスの体の周りでゆっくりグルッと渦を巻き、緩やかに結界石へと吸い込まれていく。
薄く魔力の膜を張っていた結界石が、仄かに明るくなった様に見えてくる。内側から光を放つ様な、じんわりと熱くなるような。
綺麗。
ルーシウスの魔力は強い。目視でこんなにハッキリと他人の魔力を見た事など無かったサウラは、しばし見惚れてしまう。
もし、体調云々が無いならば毎日でも見ていたいくらいだ。
この儀式はどの位でで終わるのだろう?隣のカリナに小声で尋ねてみる。
「いえ、私も初めて陛下に付きましたので、何とも言えませぬ。」
カリナの顔が申し訳無さそうになる。
では、まだまだ見ていられるかも知れないのか。思いもかけず心が躍る。
ルーシウスの周りだけ、吹雪の様に魔力が渦巻き、その量も増えて行く。徐々にスピードが上がっている?本人には何ら変わりはない様だ。
結界石の光は今やハッキリと輝いている様に見える。よく見ると、石中央にクルクルと円形のものが幾つも重なって回っているのが見えた。
魔法陣…魔法陣だ!
幾つもの魔法陣が位置を変え、折り重なって発動し始めている。石の中で行き場がない様に激しく動いているため、いくつ発動しているのか数えられない。クルクルと陣の色を変え、目まぐるしい。
キン、キン…キン…
石の中から時折金属音の様な音が聞こえてくる。音が重なり合い、増えてくると、魔法陣の色がルーシウスの魔力の色へと変わっていったのが、見て分かった。
王家の魔力で無ければこれらは発動しない。ルーシウスの魔力は魔法陣の発動を開始したのだ。
ピーン……
一番高い、弦楽器の弦を弾いた様な音が辺りに響く。
フッ、と一瞬全ての魔力の流れが停止した様に見えた。
直後、ルーシウスの身体から膨大な魔力が流れ出す。白い雪の粒だったルーシウスの魔力は、速度を挙げ暴風の様に巻き上がり、速度が上がれば上がるほど、魔力の粒は雪から炎の色へと変化していく。
まるでその炎は、ルーシウスを覆い尽くし、全てを閉じ込めてしまうかのように、ルーシウスの体に纏わり付くように這い回る。
ルーシウスの表情は険しい。既に両手を突き出し魔力をコントロールしようとしている。
「フッ」
息を吐く、ルーシウスの息使いも、やや荒そうだ。
サウラにはその炎が、一つの物を絡めとっているように見えている。這い上がり、覆い尽くし、飲み尽くそうとしているのはルーシウスの命そのものだ。
魔力が上がる、炎も大きくなる、を何度も繰り返し、
今や、炎はルーシウスの命をいとも容易く弄び、捻り上げ、捻じり切って、燃やし尽くさんばかりに翻弄している。
サウラは恐怖に叫びそうになるのを両手で必死に抑えた。周りの人々にはどうやらあの炎が見えていないらしい。
見惚れていた魔力が、いきなり地獄の業火と化したのだ。
人が亡くなった所は何度か見たことがある。悲しさも、寂しさも、死への恐怖も味わった。
でも、これは違う。死への恐怖どころではない。生きながら魂までも消滅させてしまおうかと言う、死しても尚、安らかさなど得られない邪悪な法そのものにしか見えなかった。
目の前で行われているのは、魂への断罪?処罰?消滅?、安らかな死さえあり得ない程の何か罪深い事を、この人はしたのだろうか?
魂自体の消滅、底知れぬ恐怖。
歯が、カチカチと鳴るのを止められない。全身が震えてくる。ゾクゾクと寒気がし、自分が立っているのか座っているのか、どうやって息をしているのかさえ分からなくなる。
ルーシウスは唇を噛み締めて、眉間の皺も濃く、苦痛に耐えているようにも見える。顔色は既に白に近い。
吐き気がして来た。魔力が魂を千々に引き裂いていく。あそこにいるのがルーシウスで無くとも、見ていて決して、納得も、静観も出来ない程に嫌悪感に苛まされる。
圧倒的な魔力によって、一人の人の魂が目の前で、引き裂かれて行く。
魔力とは何?
何も考える事もなくただ生活の一部だった。便利だった?
幸せに生活する為に必要?
使える事に鼻が高かった?
使えない人を見下していた?
この力で人々を守れると、英雄気取り?
これがいつまでも見ていたいほど綺麗?
何が魔力だ、何が、魔力だ。何が!魔力だ!
魔力に対する嫌悪に支配されて行く。サウラは自分自身が気持ち悪くて、人の魂をああも易々と捻り潰してしまえる魔力を持っていることが、気持ち悪くて。
たった1人の人に犠牲を押し付けてのうのうと生きている人達が気持ち悪くて、今魔力を使ってルーシウスを助けては行けないと、その言葉を実行している自分が気持ち悪くて、自分や他の誰もが悪いのではないのに、心が拒否してしまう。
何が番、何が婚約者?自分の浮かれていた気持ちも何もかもを全てを否定する様に叫び出したいのを必死に我慢する事しか出来なかった。
[どの様なことがあっても、王の魔法発動中は決して魔力を使用してはいけない]
ルーシウスの邪魔にならない様に、もう一度心の中で復唱するサウラ。
何事も無く終わって欲しいと切に願う。
フウン。風は動いてはいないが、何かが唸る音がする。
ルーシウスは右手を挙げ、結界石に向かって魔力を注入し始めた。フワリとルーシウスの体を雪の様な細かい粒子が覆う。ルーシウスの魔力の色だ。
実際には、ルーシウスのこんなに濃い魔力を見るのは初めてだ。2人の時、いつも魔力を使うのはサウラだったから。
舞い上がった魔力はルーシウスの体の周りでゆっくりグルッと渦を巻き、緩やかに結界石へと吸い込まれていく。
薄く魔力の膜を張っていた結界石が、仄かに明るくなった様に見えてくる。内側から光を放つ様な、じんわりと熱くなるような。
綺麗。
ルーシウスの魔力は強い。目視でこんなにハッキリと他人の魔力を見た事など無かったサウラは、しばし見惚れてしまう。
もし、体調云々が無いならば毎日でも見ていたいくらいだ。
この儀式はどの位でで終わるのだろう?隣のカリナに小声で尋ねてみる。
「いえ、私も初めて陛下に付きましたので、何とも言えませぬ。」
カリナの顔が申し訳無さそうになる。
では、まだまだ見ていられるかも知れないのか。思いもかけず心が躍る。
ルーシウスの周りだけ、吹雪の様に魔力が渦巻き、その量も増えて行く。徐々にスピードが上がっている?本人には何ら変わりはない様だ。
結界石の光は今やハッキリと輝いている様に見える。よく見ると、石中央にクルクルと円形のものが幾つも重なって回っているのが見えた。
魔法陣…魔法陣だ!
幾つもの魔法陣が位置を変え、折り重なって発動し始めている。石の中で行き場がない様に激しく動いているため、いくつ発動しているのか数えられない。クルクルと陣の色を変え、目まぐるしい。
キン、キン…キン…
石の中から時折金属音の様な音が聞こえてくる。音が重なり合い、増えてくると、魔法陣の色がルーシウスの魔力の色へと変わっていったのが、見て分かった。
王家の魔力で無ければこれらは発動しない。ルーシウスの魔力は魔法陣の発動を開始したのだ。
ピーン……
一番高い、弦楽器の弦を弾いた様な音が辺りに響く。
フッ、と一瞬全ての魔力の流れが停止した様に見えた。
直後、ルーシウスの身体から膨大な魔力が流れ出す。白い雪の粒だったルーシウスの魔力は、速度を挙げ暴風の様に巻き上がり、速度が上がれば上がるほど、魔力の粒は雪から炎の色へと変化していく。
まるでその炎は、ルーシウスを覆い尽くし、全てを閉じ込めてしまうかのように、ルーシウスの体に纏わり付くように這い回る。
ルーシウスの表情は険しい。既に両手を突き出し魔力をコントロールしようとしている。
「フッ」
息を吐く、ルーシウスの息使いも、やや荒そうだ。
サウラにはその炎が、一つの物を絡めとっているように見えている。這い上がり、覆い尽くし、飲み尽くそうとしているのはルーシウスの命そのものだ。
魔力が上がる、炎も大きくなる、を何度も繰り返し、
今や、炎はルーシウスの命をいとも容易く弄び、捻り上げ、捻じり切って、燃やし尽くさんばかりに翻弄している。
サウラは恐怖に叫びそうになるのを両手で必死に抑えた。周りの人々にはどうやらあの炎が見えていないらしい。
見惚れていた魔力が、いきなり地獄の業火と化したのだ。
人が亡くなった所は何度か見たことがある。悲しさも、寂しさも、死への恐怖も味わった。
でも、これは違う。死への恐怖どころではない。生きながら魂までも消滅させてしまおうかと言う、死しても尚、安らかさなど得られない邪悪な法そのものにしか見えなかった。
目の前で行われているのは、魂への断罪?処罰?消滅?、安らかな死さえあり得ない程の何か罪深い事を、この人はしたのだろうか?
魂自体の消滅、底知れぬ恐怖。
歯が、カチカチと鳴るのを止められない。全身が震えてくる。ゾクゾクと寒気がし、自分が立っているのか座っているのか、どうやって息をしているのかさえ分からなくなる。
ルーシウスは唇を噛み締めて、眉間の皺も濃く、苦痛に耐えているようにも見える。顔色は既に白に近い。
吐き気がして来た。魔力が魂を千々に引き裂いていく。あそこにいるのがルーシウスで無くとも、見ていて決して、納得も、静観も出来ない程に嫌悪感に苛まされる。
圧倒的な魔力によって、一人の人の魂が目の前で、引き裂かれて行く。
魔力とは何?
何も考える事もなくただ生活の一部だった。便利だった?
幸せに生活する為に必要?
使える事に鼻が高かった?
使えない人を見下していた?
この力で人々を守れると、英雄気取り?
これがいつまでも見ていたいほど綺麗?
何が魔力だ、何が、魔力だ。何が!魔力だ!
魔力に対する嫌悪に支配されて行く。サウラは自分自身が気持ち悪くて、人の魂をああも易々と捻り潰してしまえる魔力を持っていることが、気持ち悪くて。
たった1人の人に犠牲を押し付けてのうのうと生きている人達が気持ち悪くて、今魔力を使ってルーシウスを助けては行けないと、その言葉を実行している自分が気持ち悪くて、自分や他の誰もが悪いのではないのに、心が拒否してしまう。
何が番、何が婚約者?自分の浮かれていた気持ちも何もかもを全てを否定する様に叫び出したいのを必死に我慢する事しか出来なかった。
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