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36 西への道中
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ゴトゴト、と馬車が揺れていく。
人生2度目の馬車は、昨日乗った物よりも乗り心地がすこぶる良かった。
こちらは王家の紋入り、王家専用の馬車である。座面の柔らかさは申し分も無く、振動も少なく快適に過ごせている。しかし、当の王家の人間はここには乗ってはいない。
サウラとカリナだけである。
ルーシウスはもう一台の王家の馬車にいる。執務官と彼方での行程についての最終確認と、西の結界領から来る定期報告を受けて、その対応を検討すべく、馬車の中でも執務中である。
窓からの景色も楽しめないとは、王様の仕事は大変そうなのだ。昨日も忙しそうであった為、ちゃんと休めているのかは心配にもなってしまう。
しかし、昨日の今日では、馬車の中に長時間ルーシウスと一緒にいる方が気不味い為、サウラにとってはゆっくりとした時間が持てる分、良かったのかもしれない。
馬車は王都を中央大通りを通り、西へと向かう。
町並みに大きな変化は無いものの、生活の息吹を感じる事が出来るのは嬉しい。王宮の毎日が夢の様なものだから、生活感がある方がサウラには落ち着くのだ。
サウラが外を見ていると、街の人々の顔を多く見ることが出来た。と、言うより、通り過ぎる馬車の方を見て皆頭を下げたり、笑顔で手を振ってくれている。
「何故、皆んな手を振ってくれているのです?」
「この馬車には王家の紋が入っておりますし、王都には全国の情勢が入ってきます。故に、西の結界補強に王家が出る事は、国民ならば誰しもが知っている事ですから、送り出してくれているのでしょう。もし結界が一つでも崩れたら、ここも安全ではありませんから。」
民も重々承知しているのですよ、とカリナが説明してくれる。
人々の顔に暗いものはなく、時には拝み出す様に手を合わせている者もいる。皆期待に溢れている様に見える。
ルーシウスはこの様子を見れているだろうか?自分がどれだけの期待を背負って、頼りにされているか知っているのだろうか?
結界補強は容易く出来るものでは無い様だ。少しでも、彼らの声援や、期待や、感謝がルーシウスの力になれば良いと心から思った。
「姫様はお淋しくありませんか?」
申し訳なさそうな顔をして、カリナが唐突に聞いて来る。
「昨日から陛下とゆっくりお話もできる時間も取れていませんでしょう?」
え?私はそれの方が今は落ち着くのですが?
「申し訳ありませんが、彼方についてからも、儀式の前に準備が整い次第、すぐに結界補強に入らなければなりません。」
更に、申し訳なさ感が強くなる。
「大切な逢瀬の時を、ゆっくりと持って頂きたいとも思うのですが。」
「カリナさん。逢瀬と言われても、まだ伴侶になると言う話も受けていないんです。」
つい、答えるサウラの声がだんだん小さくなる。
「存じています。ですからもっと、ご一緒の時間を持って頂きたいと思っているのです。」
「好きとか、嫌いとか、皆さん何処で判断しているですか?いつ、伴侶だと分かるんでしょうか?」
サウラはポツリと呟くと、窓の外に視線を移してしまう。
馬車は丁度王都を流れる川を渡る橋に差し掛かっていた。大きな川だ。船まで浮かんでいる。水面はきらきらとしていて、もう少し気温が上がれば水中浴も気持ちいいだろうとぼんやりと思う。
「残念ながら、姫様。私はまだ独り身ですので、判断どうかは分かりませんが、嫁いだ姉に言わせると、何をしても倒れなかった所が決めてと言っておりました。」
またも、考えの範疇外の意見が出てきた。倒れないって何?屈強な男性のことでしょうか?
「私達の民族は、その、ちょっと特殊なのです。参考になるかどうか分かりませんが、戦闘に長けている分、相手に強さも求めてしまって。姉は、その、少し変わっていて、強さというより、どんな攻撃や刺激を受けても、意地でも倒れなかった所に惚れ込んだと申しておりました。」
人の好みは多々あれど、非常に言い辛そうに姉の好みの話をするカリナである。
「自分の全てを受け入れてもらっている様な、幸福感があるとの事です。」
更に言い辛そうにしている。
なんだかこちらの方が申し訳ない気分になるのは何故だろう。
そうか、お姉さんは根性がある人が好きなのね…
「ちなみに、カリナさんは?」
ちょっと聞くのが怖いけど、好奇心には勝てません。
「私ですか?」
カリナがビックリと目を開く。
「私は、剣でも拳でも勉学でも、打ち負かす事ができて、打ち負かされる事ができる人です。」
よく、分からなかった、けど、西部の人達は愛情表現が激しいか、独特なのだろうと解釈しておこう。
ゴトゴト、ゴトゴト、橋を渡ると広い麦畑が見えて来る。青々とした麦の苗は、風に戦がれ海の水面の様に見える。
海も広かったけれど、大地も広い。きっと伴侶を判断する解釈も、凄く広いんだろう。
人生2度目の馬車は、昨日乗った物よりも乗り心地がすこぶる良かった。
こちらは王家の紋入り、王家専用の馬車である。座面の柔らかさは申し分も無く、振動も少なく快適に過ごせている。しかし、当の王家の人間はここには乗ってはいない。
サウラとカリナだけである。
ルーシウスはもう一台の王家の馬車にいる。執務官と彼方での行程についての最終確認と、西の結界領から来る定期報告を受けて、その対応を検討すべく、馬車の中でも執務中である。
窓からの景色も楽しめないとは、王様の仕事は大変そうなのだ。昨日も忙しそうであった為、ちゃんと休めているのかは心配にもなってしまう。
しかし、昨日の今日では、馬車の中に長時間ルーシウスと一緒にいる方が気不味い為、サウラにとってはゆっくりとした時間が持てる分、良かったのかもしれない。
馬車は王都を中央大通りを通り、西へと向かう。
町並みに大きな変化は無いものの、生活の息吹を感じる事が出来るのは嬉しい。王宮の毎日が夢の様なものだから、生活感がある方がサウラには落ち着くのだ。
サウラが外を見ていると、街の人々の顔を多く見ることが出来た。と、言うより、通り過ぎる馬車の方を見て皆頭を下げたり、笑顔で手を振ってくれている。
「何故、皆んな手を振ってくれているのです?」
「この馬車には王家の紋が入っておりますし、王都には全国の情勢が入ってきます。故に、西の結界補強に王家が出る事は、国民ならば誰しもが知っている事ですから、送り出してくれているのでしょう。もし結界が一つでも崩れたら、ここも安全ではありませんから。」
民も重々承知しているのですよ、とカリナが説明してくれる。
人々の顔に暗いものはなく、時には拝み出す様に手を合わせている者もいる。皆期待に溢れている様に見える。
ルーシウスはこの様子を見れているだろうか?自分がどれだけの期待を背負って、頼りにされているか知っているのだろうか?
結界補強は容易く出来るものでは無い様だ。少しでも、彼らの声援や、期待や、感謝がルーシウスの力になれば良いと心から思った。
「姫様はお淋しくありませんか?」
申し訳なさそうな顔をして、カリナが唐突に聞いて来る。
「昨日から陛下とゆっくりお話もできる時間も取れていませんでしょう?」
え?私はそれの方が今は落ち着くのですが?
「申し訳ありませんが、彼方についてからも、儀式の前に準備が整い次第、すぐに結界補強に入らなければなりません。」
更に、申し訳なさ感が強くなる。
「大切な逢瀬の時を、ゆっくりと持って頂きたいとも思うのですが。」
「カリナさん。逢瀬と言われても、まだ伴侶になると言う話も受けていないんです。」
つい、答えるサウラの声がだんだん小さくなる。
「存じています。ですからもっと、ご一緒の時間を持って頂きたいと思っているのです。」
「好きとか、嫌いとか、皆さん何処で判断しているですか?いつ、伴侶だと分かるんでしょうか?」
サウラはポツリと呟くと、窓の外に視線を移してしまう。
馬車は丁度王都を流れる川を渡る橋に差し掛かっていた。大きな川だ。船まで浮かんでいる。水面はきらきらとしていて、もう少し気温が上がれば水中浴も気持ちいいだろうとぼんやりと思う。
「残念ながら、姫様。私はまだ独り身ですので、判断どうかは分かりませんが、嫁いだ姉に言わせると、何をしても倒れなかった所が決めてと言っておりました。」
またも、考えの範疇外の意見が出てきた。倒れないって何?屈強な男性のことでしょうか?
「私達の民族は、その、ちょっと特殊なのです。参考になるかどうか分かりませんが、戦闘に長けている分、相手に強さも求めてしまって。姉は、その、少し変わっていて、強さというより、どんな攻撃や刺激を受けても、意地でも倒れなかった所に惚れ込んだと申しておりました。」
人の好みは多々あれど、非常に言い辛そうに姉の好みの話をするカリナである。
「自分の全てを受け入れてもらっている様な、幸福感があるとの事です。」
更に言い辛そうにしている。
なんだかこちらの方が申し訳ない気分になるのは何故だろう。
そうか、お姉さんは根性がある人が好きなのね…
「ちなみに、カリナさんは?」
ちょっと聞くのが怖いけど、好奇心には勝てません。
「私ですか?」
カリナがビックリと目を開く。
「私は、剣でも拳でも勉学でも、打ち負かす事ができて、打ち負かされる事ができる人です。」
よく、分からなかった、けど、西部の人達は愛情表現が激しいか、独特なのだろうと解釈しておこう。
ゴトゴト、ゴトゴト、橋を渡ると広い麦畑が見えて来る。青々とした麦の苗は、風に戦がれ海の水面の様に見える。
海も広かったけれど、大地も広い。きっと伴侶を判断する解釈も、凄く広いんだろう。
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