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34 出立準備2

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 パン、パン、騒然とし出した部屋の中で、乾いた音が響き渡る。

「下がりなさい、スザンナ!シエラ様もお行儀が悪うございますよ。」

 落ち着いた声で、けれども、はっきり、しっかり釘を刺してきたのはアミラだ。 
 躾けに厳しかっただけはある。サウラに対しては王命でもあるので寛容だが、侍女であるスザンナに対し、容赦はない。

 主人に掴みかかるなど言語道断。はっきり言って目が笑ってはいない。事と次第によっては罰則もので、その権限をアミラは持っている。

 一瞬にしてスザンナは我に帰り、サウラの側を離れ礼を取る。後は、アミラと主人であるサウラの裁量を待つばかりである。

「ごめんなさい。アミラ。ついつい嬉しくて。」
今にも泣きそうなシエラである。

 訃報続きの王室は、喪が明ければまた喪に服す、をここ数年繰り返してきたのだ。それを思えばこんなに嬉しい事はない。

「あの、ちょっと、ちょっと待って下さいね、私、まだ何も答えたわけではないんです。」
 
 騒動の中一人取り残されているサウラは困惑している。

 アミラは鬼の形相でスザンナを見てるし、スザンナは伏したまま動かないし、シエラはニコニコしながら泣いているし、収拾がつかない。

 コンコン、コンコン
「姫様、どうかされましたか?何やら騒がしい様ですが?」
 
 部屋の中の騒ぎを聞きつけ、部屋の外の護衛騎士が声をかけてくる。

「何かありましたか?失礼します!」
部屋の外から見知らぬ女性の声がすると思ったら、ガチャリと扉が開かれる。 

 扉を開けたのはカリナであった。
明日からの遠征に同行する為に、サウラに挨拶にきたのだが、中から騒がしい気配がする為、扉の前の護衛の近衛と共に声を掛けた後、中に入ってきたのである。

 カリナが中に入って来た時には、アミラ、スザンナはすぐに体勢を正し、礼を取るも、サウラはシエラに抱きしめられたまま、困った様にこちらを見ていた。

 一瞬呆然とはするものの、カリナも直ぐに我に帰り、騎士の礼を取る。

「姫君、お初にお目にかかります。私目は西の辺境伯、ブルック・レン・タンチラード辺境伯が4女、カリナ・レン・タンチラードと申します。お寛ぎの所、許可もなく入室しました事大変申し訳ありませんでした。お叱りは如何様いかようにもお受けいたします。」

「カリナさん、こんにちは。出来ましたら、助けてください。」
 サウラはシエラの胸に抱きこまれ、ほとほと困り果てた顔でカリナを見ている。

「あの、シエラ様、その、姫様に出発前のご挨拶をばさせて頂きたいのですが?」
 まさか、姫君の部屋でこんな事が起きているとは梅雨と思わず、カリナも困惑気味だ。

「ああ!聞いて頂戴カリナ!ルーシュにお嫁さんが出来るのよ。サウラちゃんはうちの娘だからね。」
 シエラの問題発言にまたもサウラが慌て出す。

「ええ!違いますって!シエラさんお願い聞いてください。私まだ答えていないんですって!なんて答えていいか分からなかったんですって!」
 もう、少し泣きそうなサウラである。

 なんでこんな事、見ず知らずの人の前で、言わなくてはいけないのか、どうして口走ってしまったのか、恥ずかしくて居たたまれない。


「自分の気持ちがまだ、分からないんです。」

 どうにか、皆落ち着いて、ソファーに着いたところで、アミラ、スザンナは来訪者のために新しいお茶を入れ始める。
 スザンナは他言無用、とアミラから厳しく言い渡された上で罰は免れたらしい。

 お茶を飲みつつ、サウラが外出時の経緯を簡単に話す。

 よくよく話を聞いていけば、サウラの心の問題で、周りが兎や角言えるものではなく、本人の心の成熟と共に答えを見つけていくしか無いものの様だ。

「ごめんなさいね。早とちりしちゃって、嬉しくて、つい。」
 誤ってはくれているものの、シエラの顔はニコニコだ。
 ルーシウスが何らかの行動に出た事が殊の外、嬉しかったらしい。

 シエラの顔を見ているのも、恥ずかしくなってしまう。なんで話しちゃったのかな…

「いえ。」

「あの、立て込んでいる所に訪室してしまい、申し訳ありませんでした。」

 いえ、もう謝らないでください。
 フルフル首を振ってカリナを見つめる。

 カリナは長身でスラッとしている。赤い髪に、褐色の肌がとても健康そうで、男性の様な服装はしていても、素敵な女性だとわかる。今は長身の背が、縮こまって見えるのはなぜだろう?薄茶の瞳も罪悪感でいっぱいの様です。

「あの、明日はご一緒してくださると?」
 先程の話題から逃げたい一心で、話題を逸らす。

「はい。明日から数日間、タンチラード領に着くまでは私が共に行動いたします。兵ばかりの男所帯となりましょうから、何かご不便ありましたら私の方になんなりと仰って下さいませ。」

 どうやらサウラの世話役も兼ねているらしい。
有難いことに、よろしくお願いします、とサウラは頭を下げる。
 
 姫君がそんな事をなさっては行けません、と慌ててカリナに止められてしまったのだが。


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