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27 城下町4
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店主から受け取った串焼きを、これまた器用に開くとルーシウスが1本サウラに差し出す。
「護衛の人の分が足りなくないですか?」
串を受け取ってから、護衛は4人、串焼きは4本、自分達も入れたら足りないことに気づく。
「あれらは仕事だからな、食べるとしたら交代で食事を取るだろう。彼方の分は気にしなくていい。」
護衛を振り返れば、一様にコクコクと皆肯き返してくる。
ならば少し気は引けるが頂こうとすると、護衛がすっと側によりルーシウスに耳打ちする。
「陛下、毒味をさせてくださいませ。」
成る程、毒が入っていては大変である。
しかしサウラは、いただきます!と言うと"パク"と串焼きにかぶり付いていた。
「姫様!」
驚いた護衛の声を、サウラは気にも留めずにモグモグと食べ、飲み込んでからびっくりした様な顔で告げる。
「柔らかくて、すごく美味しい…。」
ほんのり塩と何かのスパイスの香り、噛めば歯応えというより、肉の旨味が溢れ出してくる。
牛肉の味は覚えていないけど、こんなに美味しかったかしら?こんなに美味しかったら覚えていそうなものなのに。
呆気にとられる護衛を他所に、ルーシウスは甚く満足げである。深いエメラルドグリーンの瞳が嬉しそうに細められ、ニコニコしながらサウラを見ている。
「毒が入っていても、私には多分効きませんので。」
サウラは申し訳なさそうに護衛に告げる。
この世最強の猛毒なる物は試した事がないのだが、1本でも大型猛獣を死なせてしまう、猛毒キノコ"スグコロリ"を昔食べたことがある。
けれど今も問題なく過ごせているのだから、大抵のものは大丈夫だろうと思う。
「そうだろう。ここのは絶品でな。」
ルーシウスも串を取ってはかぶり付く。流石に、男性の方が食べるのが早い様だ。
あっという間に1本平らげてしまった。
さて、フルーツ串なる物はいかがか?
フルーツが温かいままに出てくるとは思わなんだ。焼いてあり、何か振りかけられてはいるが、何味なのか想像も付かない。
食べるのに一時逡巡していると、牛串を食べ終わったサウラが、毒味しましょうか?と聞いてくる。
「味の想像がつかん。」
毒味を待っていた訳ではないと、サウラにフルーツ串を1本渡す。
サウラはなんの躊躇もなくパクリ、と食べ出す。
しっかりとした歯応えと中から溢れる甘みはフルーツそのもの。
けれど、周りに塩?先程の肉に使っていたスパイスだろうか?
甘さと塩っぱさが意外にマッチしていて、甘い果物が苦手な人でも、スパイスの風味でサッパリと食べられそうだ。
意外に食べやすい。
ルーシウスは、何も言わずに黙々と食べているサウラを、繁々と見つめたまま、手を付けない。
初めて食べる物には警戒する人かしら?
それともフルーツが苦手?でも朝食に出る物は食べていたし。
食べながらサウラは小首を傾げてルーシウスを見つめる。
「食べないんですか?」
ただ見つめ続けるルーシウスに、声をかける。
「いや、昔城下で、兄が何でもかんでも手を付けて食べる物だから、腹を壊してな。それでも、屋台の食べ物全部制覇すると言っていたのを思い出していた。そう言えば、まだ行っていない店も沢山あるな。」
自分の体調も悪かった為、兄を忍んで城下に降りることも無くなっていた。
また、来ることが出来るな、とポツリと呟く。
「サウラ、また一緒に来てくれるか?」
フルーツ串を取りつつ、ルーシウスが聞く。
流石に今日だけでは、城下町等周りきれない。サウラは、ただただお城で篭っているより、人が生活している雰囲気の方が落ち着くし、好きだ。
サウラもまたここに来たいと思う。
「また、来てもいいんですか?」
「1人でと言うわけにはいかんが、出来れば一緒に来たいものだ。其方と一緒だと、俺が楽しい。」
どうして1人で来てはいけないのか分からないが、また来てもいいと言ってくれた。それはとても嬉しいことだし、ルーシウスと一緒も嫌ではない。
嫌いではない相手に一緒にいて楽しいと言われれば、嫌な気持ちなどしないものだ。
「では、また連れて来て下さいね。今度はちゃんとお金の勉強をして来ます。」
「そうか、では、今度は其方に買い物をしてもらおう。」
ルーシウスは優しく微笑むと、意外と美味いな、と言いつつフルーツ串を食べ切った。
屋台街がある道は緩やかな下り坂になっている。
道の両側にポツポツと店が作られて、近所の住民や観光客が、あちこち覗きながら銘銘好きな物を買い、食べて楽しんでいる。
観光で来ている人々の服装も様々で、国中、若しくは国外から、多様な民族が来ていることが分かり、道行く人々を見ているだけでも楽しいものがある。
サウラは暫く、周りを見ながら、ゆっくりとルーシウスに連れられて行く。
ルーシウスは馴染みのある店や、新しく出来た店を、ちょこちょこ覗いては飲み物を買ったり、冷やかしたりしている。
一国の王であろうに、その風格は今はない。
ここにいる間のルーシウスは、この街に住む1人の男性に見える。
王も民も同じ1人の人間なんだと思うと、不思議な感じすらするものだ。
「護衛の人の分が足りなくないですか?」
串を受け取ってから、護衛は4人、串焼きは4本、自分達も入れたら足りないことに気づく。
「あれらは仕事だからな、食べるとしたら交代で食事を取るだろう。彼方の分は気にしなくていい。」
護衛を振り返れば、一様にコクコクと皆肯き返してくる。
ならば少し気は引けるが頂こうとすると、護衛がすっと側によりルーシウスに耳打ちする。
「陛下、毒味をさせてくださいませ。」
成る程、毒が入っていては大変である。
しかしサウラは、いただきます!と言うと"パク"と串焼きにかぶり付いていた。
「姫様!」
驚いた護衛の声を、サウラは気にも留めずにモグモグと食べ、飲み込んでからびっくりした様な顔で告げる。
「柔らかくて、すごく美味しい…。」
ほんのり塩と何かのスパイスの香り、噛めば歯応えというより、肉の旨味が溢れ出してくる。
牛肉の味は覚えていないけど、こんなに美味しかったかしら?こんなに美味しかったら覚えていそうなものなのに。
呆気にとられる護衛を他所に、ルーシウスは甚く満足げである。深いエメラルドグリーンの瞳が嬉しそうに細められ、ニコニコしながらサウラを見ている。
「毒が入っていても、私には多分効きませんので。」
サウラは申し訳なさそうに護衛に告げる。
この世最強の猛毒なる物は試した事がないのだが、1本でも大型猛獣を死なせてしまう、猛毒キノコ"スグコロリ"を昔食べたことがある。
けれど今も問題なく過ごせているのだから、大抵のものは大丈夫だろうと思う。
「そうだろう。ここのは絶品でな。」
ルーシウスも串を取ってはかぶり付く。流石に、男性の方が食べるのが早い様だ。
あっという間に1本平らげてしまった。
さて、フルーツ串なる物はいかがか?
フルーツが温かいままに出てくるとは思わなんだ。焼いてあり、何か振りかけられてはいるが、何味なのか想像も付かない。
食べるのに一時逡巡していると、牛串を食べ終わったサウラが、毒味しましょうか?と聞いてくる。
「味の想像がつかん。」
毒味を待っていた訳ではないと、サウラにフルーツ串を1本渡す。
サウラはなんの躊躇もなくパクリ、と食べ出す。
しっかりとした歯応えと中から溢れる甘みはフルーツそのもの。
けれど、周りに塩?先程の肉に使っていたスパイスだろうか?
甘さと塩っぱさが意外にマッチしていて、甘い果物が苦手な人でも、スパイスの風味でサッパリと食べられそうだ。
意外に食べやすい。
ルーシウスは、何も言わずに黙々と食べているサウラを、繁々と見つめたまま、手を付けない。
初めて食べる物には警戒する人かしら?
それともフルーツが苦手?でも朝食に出る物は食べていたし。
食べながらサウラは小首を傾げてルーシウスを見つめる。
「食べないんですか?」
ただ見つめ続けるルーシウスに、声をかける。
「いや、昔城下で、兄が何でもかんでも手を付けて食べる物だから、腹を壊してな。それでも、屋台の食べ物全部制覇すると言っていたのを思い出していた。そう言えば、まだ行っていない店も沢山あるな。」
自分の体調も悪かった為、兄を忍んで城下に降りることも無くなっていた。
また、来ることが出来るな、とポツリと呟く。
「サウラ、また一緒に来てくれるか?」
フルーツ串を取りつつ、ルーシウスが聞く。
流石に今日だけでは、城下町等周りきれない。サウラは、ただただお城で篭っているより、人が生活している雰囲気の方が落ち着くし、好きだ。
サウラもまたここに来たいと思う。
「また、来てもいいんですか?」
「1人でと言うわけにはいかんが、出来れば一緒に来たいものだ。其方と一緒だと、俺が楽しい。」
どうして1人で来てはいけないのか分からないが、また来てもいいと言ってくれた。それはとても嬉しいことだし、ルーシウスと一緒も嫌ではない。
嫌いではない相手に一緒にいて楽しいと言われれば、嫌な気持ちなどしないものだ。
「では、また連れて来て下さいね。今度はちゃんとお金の勉強をして来ます。」
「そうか、では、今度は其方に買い物をしてもらおう。」
ルーシウスは優しく微笑むと、意外と美味いな、と言いつつフルーツ串を食べ切った。
屋台街がある道は緩やかな下り坂になっている。
道の両側にポツポツと店が作られて、近所の住民や観光客が、あちこち覗きながら銘銘好きな物を買い、食べて楽しんでいる。
観光で来ている人々の服装も様々で、国中、若しくは国外から、多様な民族が来ていることが分かり、道行く人々を見ているだけでも楽しいものがある。
サウラは暫く、周りを見ながら、ゆっくりとルーシウスに連れられて行く。
ルーシウスは馴染みのある店や、新しく出来た店を、ちょこちょこ覗いては飲み物を買ったり、冷やかしたりしている。
一国の王であろうに、その風格は今はない。
ここにいる間のルーシウスは、この街に住む1人の男性に見える。
王も民も同じ1人の人間なんだと思うと、不思議な感じすらするものだ。
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