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26 城下町3
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右手に入った道は、馬車が通って来た道よりも細く、小さな店舗が立ち並ぶ。
小さな立て看板を出している所はパン屋。朝早くからお客さんの出入りが見える。
まだ開店には早いのか、店の窓にはカーテンが閉められている所もあった。
あれは?あれは?あれは?
敬語も忘れ、サウラはルーシウスを質問攻めにしている。
アラファルトがいた日には、サウラは一度お説教を食らうだろうな、と護衛が思う程にはルーシウスの立場を忘れ街を満喫しているのだ。
何よりも王自身が気にもせず、一つ一つ丁寧に説明しており、楽しんでいるのだ。
ならば我らは何も言うまい。護衛は口を閉じるのである。
道を進むに連れ、先ほどよりも良い匂いが近づいて来た。
道なりに進んだ所で右に逸れる道が見えた。
少し、周りにも人が多くなって来た。手に何か持って食べている人も見える。
「良い匂いだな。朝が軽かったから腹が空いたろう?」
サウラは右側に誘導されながら周りをキョロキョロ見ている。
祝い事でもあったのだろうか?村では祝い事があると、
外で肉を焼いたり、大鍋で煮込みを作って皆んなで食べるのだ。
「何かのお祝い?外で食事をしてますね。」
「違う、違う。あれだ。」
ルーシウスが指差す方には道沿いに屋根に帆を張った店が幾つも立ち並んでいる。
煙が出ている店、人が並んでいる店、呼び込みをかけている店、一気に賑わいが大きくなる。
こちらの道は店が立ち並ぶと言うよりは、住宅街などの様に見える。家の窓からは洗濯物が干してあったり、食べ物を買いに子連れがいたり、沢山の料理を一度に運ぼうとしているのは、1人で食べるの?頼まれたのだろうか?
それにしても凄い技。どうやったらできるんだろう。
呆けて見ていると、ルーシウスに手を引かれる。
「こっちだ。」
どうやらお目当ての店がある様だ。
「ここらの店はここに住む住人達が開いているものが多い。料理に対しては研究熱心でな、珍しい物も食べれるんだ。」
引かれるままに連れられていく。
「おや、坊ちゃん?坊ちゃんじゃ無いか?随分と久しぶりじゃ無いかい?
ほぉ!今日は可愛い彼女連れて、いいねー。」
不敬者の物言いである。が、誰もが不問にしている。
「ああ、いいだろう。ここも久しぶりだ。店主は、逃げたかみさん、まだ戻って来ていないのか?」
彼女とは?そんな関係では無いはずだが?
それよりも、大変な話題をさらっと出したルーシウスを思わず見つめる。奥さんに逃げられたの?
「それを言うなよ……実家に戻っちゃってさぁ。子供にもなかなか会えないんだ、これが。」
お子さんにも会えないとは意外と深刻な話の様だ。
「今は真面目にやってるんだろう?ここの評判も良いと聞く。だからまた来たんだ。」
「ああ、ありがとうよ。あんたみたいにこっちを気にしてくれりゃあ、稼いでる事も分かってくれるんだろうけどな。」
近況を話す位にはルーシウスとの面識はあるのだろう。聞くに夫婦仲と言うのは難しいものなのかもしれない。
ルーシウスは数年前まで海辺一帯の住民に、貧富の差があった事を教えてくれた。
漁師であれば漁獲量に応じてかなり稼ぐことができるが、全てが漁師とはいかない。店も構えることも出来ない者もいたし、地方から出稼ぎ目的で来る者もいる。
王都は観光目的でも有名な所だ。食料も豊富で、また海の側という利点もあり、観光客や、周辺地域の住民向けに、魚介類の料理を屋台で安く出し始めたのが切っ掛けで、今では色々な食材の料理が立ち並ぶ屋台街にまで発展したのだ。
舌の肥えた客も多く、料理研究に余念が無いこの地域は客足が絶えず、海を見ながら美味しいものが安く食べられると殊更評判を呼んでいる。
口の周りに豊かな髭を貯えた、熊にも似た店主は、時折店先の鉄板の上で、何やら焼きながら器用に話すのである。
「一度、手紙でも出したらいい。一見に如かず、今の姿を見てもらえるといいな。」
ルーシウスも話しながら、店主が焼いている焼き物を指差している。何やら肉の様だ。
「サウラ、牛はあまり食べた事がないだろう?ここのは特別に熟成させている肉を使っているから、柔らかくて旨いんだ。」
「へぇ。お姉ちゃんはここらの人じゃないのかい?他から出て来たんならサービスしなきゃな!新製品のフルーツ焼きも、串にしておまけしとくよ!」
肉の匂いに既にお腹が鳴りそうなサウラ。フルーツ串とはなんぞ?
店主は肉の串2本に、瑞々しいフルーツを刺した串2本を焼き出す。
店先に"フルーツ串始めました "と書かれた札はこれの事か。
焼き上がった串を器用に紙に包む。計400ガランでいいとの事。串2本分のお代だ。
ルーシウスは皮袋から100ガラン硬貨4つを出し、サウラに店主に渡す様に言って、手に載せてやる。
初めての硬貨での買い物だ。
掌で硬貨を4枚数えサウラは店主にそれを渡す。
串はルーシウスが受け取ってくれた。
物珍しそうに硬貨を見ていたサウラに店主が声をかける。
「なんだい、お姉ちゃん貧しいとこの出かい?うちも昔はひもじくてね。苦労したんだ。坊ちゃん、大事にしてやれよ。またおいでな。」
「今、まさに大事にしている最中だ。店主もな。」
「分かったよ。手紙を書いてみる。2人共、また来てくれよな!」
家庭に不安があるだろうに、随分と優しく接してくれる人もいたものである。
小さな立て看板を出している所はパン屋。朝早くからお客さんの出入りが見える。
まだ開店には早いのか、店の窓にはカーテンが閉められている所もあった。
あれは?あれは?あれは?
敬語も忘れ、サウラはルーシウスを質問攻めにしている。
アラファルトがいた日には、サウラは一度お説教を食らうだろうな、と護衛が思う程にはルーシウスの立場を忘れ街を満喫しているのだ。
何よりも王自身が気にもせず、一つ一つ丁寧に説明しており、楽しんでいるのだ。
ならば我らは何も言うまい。護衛は口を閉じるのである。
道を進むに連れ、先ほどよりも良い匂いが近づいて来た。
道なりに進んだ所で右に逸れる道が見えた。
少し、周りにも人が多くなって来た。手に何か持って食べている人も見える。
「良い匂いだな。朝が軽かったから腹が空いたろう?」
サウラは右側に誘導されながら周りをキョロキョロ見ている。
祝い事でもあったのだろうか?村では祝い事があると、
外で肉を焼いたり、大鍋で煮込みを作って皆んなで食べるのだ。
「何かのお祝い?外で食事をしてますね。」
「違う、違う。あれだ。」
ルーシウスが指差す方には道沿いに屋根に帆を張った店が幾つも立ち並んでいる。
煙が出ている店、人が並んでいる店、呼び込みをかけている店、一気に賑わいが大きくなる。
こちらの道は店が立ち並ぶと言うよりは、住宅街などの様に見える。家の窓からは洗濯物が干してあったり、食べ物を買いに子連れがいたり、沢山の料理を一度に運ぼうとしているのは、1人で食べるの?頼まれたのだろうか?
それにしても凄い技。どうやったらできるんだろう。
呆けて見ていると、ルーシウスに手を引かれる。
「こっちだ。」
どうやらお目当ての店がある様だ。
「ここらの店はここに住む住人達が開いているものが多い。料理に対しては研究熱心でな、珍しい物も食べれるんだ。」
引かれるままに連れられていく。
「おや、坊ちゃん?坊ちゃんじゃ無いか?随分と久しぶりじゃ無いかい?
ほぉ!今日は可愛い彼女連れて、いいねー。」
不敬者の物言いである。が、誰もが不問にしている。
「ああ、いいだろう。ここも久しぶりだ。店主は、逃げたかみさん、まだ戻って来ていないのか?」
彼女とは?そんな関係では無いはずだが?
それよりも、大変な話題をさらっと出したルーシウスを思わず見つめる。奥さんに逃げられたの?
「それを言うなよ……実家に戻っちゃってさぁ。子供にもなかなか会えないんだ、これが。」
お子さんにも会えないとは意外と深刻な話の様だ。
「今は真面目にやってるんだろう?ここの評判も良いと聞く。だからまた来たんだ。」
「ああ、ありがとうよ。あんたみたいにこっちを気にしてくれりゃあ、稼いでる事も分かってくれるんだろうけどな。」
近況を話す位にはルーシウスとの面識はあるのだろう。聞くに夫婦仲と言うのは難しいものなのかもしれない。
ルーシウスは数年前まで海辺一帯の住民に、貧富の差があった事を教えてくれた。
漁師であれば漁獲量に応じてかなり稼ぐことができるが、全てが漁師とはいかない。店も構えることも出来ない者もいたし、地方から出稼ぎ目的で来る者もいる。
王都は観光目的でも有名な所だ。食料も豊富で、また海の側という利点もあり、観光客や、周辺地域の住民向けに、魚介類の料理を屋台で安く出し始めたのが切っ掛けで、今では色々な食材の料理が立ち並ぶ屋台街にまで発展したのだ。
舌の肥えた客も多く、料理研究に余念が無いこの地域は客足が絶えず、海を見ながら美味しいものが安く食べられると殊更評判を呼んでいる。
口の周りに豊かな髭を貯えた、熊にも似た店主は、時折店先の鉄板の上で、何やら焼きながら器用に話すのである。
「一度、手紙でも出したらいい。一見に如かず、今の姿を見てもらえるといいな。」
ルーシウスも話しながら、店主が焼いている焼き物を指差している。何やら肉の様だ。
「サウラ、牛はあまり食べた事がないだろう?ここのは特別に熟成させている肉を使っているから、柔らかくて旨いんだ。」
「へぇ。お姉ちゃんはここらの人じゃないのかい?他から出て来たんならサービスしなきゃな!新製品のフルーツ焼きも、串にしておまけしとくよ!」
肉の匂いに既にお腹が鳴りそうなサウラ。フルーツ串とはなんぞ?
店主は肉の串2本に、瑞々しいフルーツを刺した串2本を焼き出す。
店先に"フルーツ串始めました "と書かれた札はこれの事か。
焼き上がった串を器用に紙に包む。計400ガランでいいとの事。串2本分のお代だ。
ルーシウスは皮袋から100ガラン硬貨4つを出し、サウラに店主に渡す様に言って、手に載せてやる。
初めての硬貨での買い物だ。
掌で硬貨を4枚数えサウラは店主にそれを渡す。
串はルーシウスが受け取ってくれた。
物珍しそうに硬貨を見ていたサウラに店主が声をかける。
「なんだい、お姉ちゃん貧しいとこの出かい?うちも昔はひもじくてね。苦労したんだ。坊ちゃん、大事にしてやれよ。またおいでな。」
「今、まさに大事にしている最中だ。店主もな。」
「分かったよ。手紙を書いてみる。2人共、また来てくれよな!」
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