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41 消えた王子 3

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 あの騒ぎの後、アーランの街にレギル王子とリレランを見た者はいなくなった。けれども未だに騎士達は駆り出され街の中を虱潰しに探す様に命令も下っている。

「一体何だったんですかね?」

 数人単位で小隊を作り今朝も早くから一軒一軒調査をして行く騎士達にも徐々に疑問が湧き上がる。あの日は確かに猛獣に襲われて死亡した者はいなかった。怪我人はいたが、逃げる為に転んだとか人の下敷きになったとかで、幸にも死亡者はいない。騎士達の誰が見ても、レギル王子は猛獣を止めに剣を抜いて立ちはだかろうとしていたし、市民の安全を一番に考えて行動していた様にしか見えなかった。なのに、司令官の一言で拘束されて領主館に連れて行かれたと思ったら今度は行方不明だ。手足を縛り見張りのいた牢からどうして抜け出すことなど出来たのか……

「実は、未だ捕まっている、とか……?」

「え?何か?」

「もし、まだカシュクールの王族が捕まったままだったらどうなる?」  

 話しかけらた騎士は一瞬キョトンとした顔をする。

「しかし、領主より逃げ出した、と。」

「お前だったらどう逃げる?縛り上げられ、武器もない。鍵が掛かっている牢の外には見張りがわんさかといるんだぞ?そして最後にあの領主館の周囲の壁に門番だ……」

「……無理ですね……」

「そう!無理なんだ…手助けした人間がいても何処かで引っかかるだろう?足取りの一つも落としていないなんて、そっちの方がおかしいんだ。」

「なるほど……言われてみればそう思います。」

「では、まだ領主館の中に拘束されているとしたら…?」

「何故にです?」

「だから、そこが何故かなんだろう?逃げ出すことが不可能なのに逃げたという。このまま行方不明で終わらせて誰が得するか、だ。」

 外に逃げてはいないのならば、いくら虱潰しに探そうにも出てくるはずがないのだ。数週間、数ヶ月経てば行方不明として処理されてしまっても仕方がない。が、本当の捕まったあの王族は、王子はどうなる?いや、どうするつもりで?

「何かに、利用するためでしょうか?」

「利用か?何にだ?表立って身代金でも請うのか?それこそ王族を、それも次期国王を拘束したと言う大義名分でこの国は潰されかねないぞ?」

「わ、我が国が潰されるのですか?」

「……見ていなかったのか?あの王子は魔力持ちだぞ?魔力の廃れたこの世界にあの国ほど恐ろしい所はないと思っている。」

「なるほど。部隊長…理解しました。では、どうしたら良いでしょうか?」

「………俺はこれから王都に行く…!」

「…本隊に……?」

「そうだ……何か起こる前に止めなければ、国の未来はないと思え!」

 表立って王子が動かされることがないならば、後は裏で、だ。何か裏の取引に巻き込まれる前に、王都へ連絡を入れる。そもそも、騎士隊が国の侵略容疑で拘束した者を領主館預りにする方がおかしい。何か裏があると思っても過言ではなかった………






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 人を寄せ付けない未開地は迷い森ばかりでは無い。迷い森の更に西の一画には人の気配も匂いさえも感じることがなかった場所もある。

 ザシュウッ……………

「これで終いか?ラン?」

 そんな森の更に奥深くから、ついぞ見なかった人間の声がした。その人間の周りには無数に転がる緑の物体…………

"あ~~ぁ、全部切っちゃったの?レギル…"

「仕方ないだろう?モール殿にも掛け合ってみたのだが、返事が頂けないならばこうするしか……」

 レギル王子の周りにあるのはこの森一番の大型食虫植物。それも大型の動物さえもペロリと飲み込むほどの大きさで…

"ダメだよ。森の王にも口出しはさせない"

 この森には人間から見たらこの様に恐ろしく見える植物がまだまだいるそうで…リレランが言うには人間の味を覚えてしまうと人間を襲う様になるから、レギル王子は帰った方がいいと言うのだ。アーランの領主館から脱出してリレランは直ぐにここに降り立った。そしてレギル王子に精霊門を開いて自国に帰れと言い出したのだ。リレラン自身はどうするかとレギル王子が聞くと、しばらくこの森に滞在すると言う…人間には末恐ろしい森ではあるが、リレランの場合誰にも邪魔されずに静かに過ごせる絶好の場所である。賑やかしい所が好きでは無いと言うリレランにとっては都合良い場所だが、レギル王子にとってはそれでは困る。リレランに対価が払えない。そして、レギル王子の中では対価云々だけがここにいる理由ではなかった。

 離れたく無い……レギル王子は思う。人型であるリレランに、龍リレランに触れたら余計に、離れ難くなった。リレランは自分を人間のところに行け、とレギル王子から離れたい様なのだが…少しでも自分を求めてくれないかと、レギル王子は限りなく無に等しい望みを抱いてしまう…

「ランが言うには人間をこれに食べさせなければいいのだろう?」

 モール殿に言ってこの植物達を下げることができないなら、こうするしかあるまいと、レギル王子は愛刀を振っていった。人間が恐ろしい者として認識さられば人を襲う事もあるまい………
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