異世界転生者はもうおなかいっぱいです!

無月

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後章

17

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 この愕然と茫然自失とした感情。いつ振りだろうか。

 そう、あれは忘れもしないあの日。村の収穫が明日に控えた所で、転生勇者(テンではない)が現れたんだ。野良魔王を投げ入れて。そのまま野菜ちゃん達の上その場で激闘を繰り広げ、いけしゃあしゃあと

 「俺のお陰で命拾いしたなモブ共。感謝して酒と女を寄越せ」

 とか言ったあの日。
 微塵もその姿の面影を残していない野菜ちゃん達の成れの果てを背景に、転生勇者がふざけた事を言ったあの日以来だ。

 「テン……?」

 お陰で久し振りに会った知人に挨拶もせず呼び掛ける羽目になっている。

 「っひ!」

 視線も寄越さず畑を凝視する俺に、テンが分かり易く悲鳴を上げた。

 「ちょっと、何で帰って来てるのさ。邪魔なんだけど」

 悪びれもせず言うヴェイズはいつも通りだし、下手に突いてヤンデレ発動されても怖いからスルーするとして。

 「これは、どういうことかな?」

 思ったより低い声が出た。俺を姫抱きしたままのアクセルの手から緊張が伝わる。
 背後でテンが後退りする音が聞こえた。

 「疚しい理由が無ければ言えるよね?」

 俺の中から静かに燻る何かが這い出ている気がする。現にアクセルは微動だにしないし、テンは声も無く逃げようとしてるし、何故か絶対に味方にならないと思ってたヴェイズでさえテンを捕らえてくれた気配がする。

 「くはっ……。何……?この気迫……。この僕がたかが人間如きに気圧されるなんて」
 「くっそー!離せ!離しやがれヴィー!!俺を愛してるんだろ!?なら見逃せ―――!!」
 「くふふ、あれは駄目だね。僕も甘んじて雷を受けるから、早めに謝ってしまった方がいい」

 背後が喧しい。
 でもやっぱりヴェイズは根は常識人っぽい。テンが絡むとアレなだけで。
 俺はヴェイズの言葉に甘える事にした。だってこの惨状、ヴェイズも絡んでる筈だしな。

 「「っひ……!!」」

 ちょっと。今振り向いただけ。何でそんなに引き攣った顔してるの。
 ヴェイズはテンをがっちりホールドしてるし、テンもヴェイズにしがみ付いてるし。

 「そこまで怖がる程のナニかをしたって、こと?」

 目が据わる。

 「ご、ごめんなさい!ママン!!おおおおお、お世話頑張ったんだけどっ!上手くいかなくて!」
 「え?何?ちゃんと頑張ってくれてたんだ。それなら怒らないよ。テンは農民じゃないんだから上手く出来なくて当たり前だし」

 半べそ掻いて謝るテン。けど俺だって頑張った相手に無慈悲に怒ったりしない。犠牲になった野菜ちゃん達には本当に申し訳ないけど、それ言ったら急にいなくなった俺が悪いしね。

 「ほ、本当か!?」

 途端にパアッと笑顔が咲くテン。頼むから刺し殺す様な嫉妬の目を向けないでくれヴェイズ。怖いっ。

 「なあ~んだ!心配することなかったんじゃねーか!脅かしやがって!」

 手の平返していけ高々と鼻を鳴らすテンよ、そこまで威張れるお前は凄いよ。
 調子に乗ったテンは自慢げにどうお世話をしてきたかを俺に語った。
 曰く、

 「お前が急にいなくなるから仕方なく俺が手塩に掛けて水を降らせ、虫を焼き払い、害獣を焼いて食ってやったんだぞ」

 と身振り手振り魔法実演有りで伝える様は、親に褒めて貰いたい子供の姿が重なった。
 けど俺は別の所で新たに青筋が立った。
 何故なら、その魔法実演でやった水やりは滝そのもので、虫を焼いたのは広範囲大火災で、焼いて食われた害獣は雑草を食べてくれる島の動物友達だった。

 「いや~俺めいっぱい働いたな~これはもう家ご飯のフルコース食べても罰は当たらないぜ!」

 まだ、何かをほざいてる。

 「テン、その辺で止めておこう」

 ヴェイズがテンの口を塞いだ。
 けど、もう遅い。
 聞いてしまったからには……、

 「テン!!ご飯抜き!!」

 俺の放った一言は、テンに雷を落とし、魂を抜けさせるのに十分だった。



 真っ白になったテンを部屋に閉じ込めて、俺達はボロボロになった畑を整備し直してる。
 折角綺麗に畑一面が焼き畑化したから改めて植える野菜ちゃんを考えよう。

 「ごめんヴェイズ。君がテンを愛してるのはわかるけど、甘やかすことは決して愛しているとは言わないから」
 「くふ、いいさ。哀しみにくれるテンを僕が癒してあげられるのだからね」

 心なしか距離を開けて話すヴェイズ。視線が合わないけど、どうかしたんだろうか。

 「それじゃあ俺がいられるのも7日間だけだから、その後のお世話は2人で頑張ってよ。でないとご飯の材料に困るでしょ」
 「ああ、わかっているとも。出来れば庶民料理も手解き願いたい母さ……ユタ」

 今母様って言おうとした。なんでどいつもこいつも俺を母親にしたがるのか。

 「7日しかないからスパルタでいくけど、付いて来れるか?」
 「くふふ、僕を何だと心得るんだい。この神ヴェイズに不可能はないのさ」
 「ははっ、わかってる。頼りにしてるよ。テンのことを監視てられるのはヴェイズしかいないから」
 「人間の癖にわかってるじゃないか」

 という訳で7日間はみっちりヴェイズに手解きを行っていたから、昼間にアクセルと旅行を楽しむ余裕なんてなかった。代わりに夜には嫉妬したアクセルに性的に攻め立てられたけど。

 気持ちはわかるから甘んじて受けよう。

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