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後章
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大きく広げる枝がサワサワと揺れて、優しい葉鳴りを奏でている。
「世界樹……。久し振りって……根をかえしては挨拶してたけど届いてるかな?」
大きな幹に両手をいっぱいまで広げて抱き着く。根から巡った水がサワサワと幹を伝う音がする。
『ちゃんと聞こえてたって言ってるわ』
目を閉じて世界樹の気配に集中していた俺の鼻先に止まったガジュマが通訳してくれた。流石植物の精。世界樹の言葉がわかるのか。それとも精霊は皆わかるのかな。
目を開けてガジュマにお礼を言って顔を上げた。
「ねえ、もしかして溺れてた俺を助けてくれた?」
さわわと葉が揺れる音がして、
『ユタは植物を愛してくれているから助けたんですって』
ガジュマが答えてくれる。
そっか。世界樹は植物界の頂点だもんな。野菜ちゃんや果物ちゃん達は家族。家族を大切にしてくれたら嬉しいよな。へへっ、俺も優しくして貰って嬉しい。
「ありがとう。ありがとう俺を助けてくれて。ありがとうアクセルと会わせてくれて。ありがとうアクセルとアクセルの地に連れて行ってくれて」
「我からも礼を言う。我にユタを引き合わせてくれた事、感謝する」
頬をぺったり幹に付けた俺の横に大きな手の平を付けたアクセルが、俺に覆い被さって頭にキスをした。
『あら?あらら?んふふふふ~♪そうだったのねぇ。
あのねぇ、世界樹は頑張るユタに喜んで貰って本当に嬉しいみたい。中々進展しない2人にヤキモキしてつい拾っちゃった転生勇者が悪い事した時は本当にごめんなさいですって。何をされたのかしらぁ』
それは忘れたい過去だから放っておいてくれ。
そんでアクセルが落ちて来た理由は俺の為で、テンが落ちて来た理由も俺の為とか。もしかして俺って世界樹に野菜ちゃん好き好き仲間として滅茶苦茶気に入られてないか?嬉しいけど恐れ多いな。でもそっか、
「ありがとう世界樹」
もう一度しっかり幹に抱き着きお礼をした俺は、世界樹が鳴らす葉鳴りが止むまでそっと耳を澄ましていた。
「さて、畑の様子も気になるし、今日はここで失礼するね」
いつの間にか高くなっていた陽の光を片手で遮る。
『帰りもここからだからねー』
「うん、わかった。ありがとうガジュマ」
『いいのよぅあたしも世界樹に帰って来れたんだものー』
パタパタと小さな手を横に振るガジュマとも一旦お別れ。ガジュマは世界樹と、他の精霊達と積もる話が盛沢山らしい。
という訳で此処からは久し振りのアクセルと二人っきりの旅路だ。って言っても下に行けばテンとヴェイズと合流するんだけどね。あの二人野菜ちゃん達のお世話してくれてるかな。いやしてないかな。テンだし。っていうかテンが生半可に手を出したら大惨事になってそうだ。いつかのハウス栽培の惨状みたいに。な~んてなっ、一緒に畑仕事したんだから今更枯らさないよな。うん、大丈夫大丈夫。
「ねえ、アクセル」
「何かなユタよ」
「うん、あのさ、野菜ちゃん達が気になるから、早めに降りて良い?」
大丈夫大丈夫。嫌な予感なんて気の所為。だからこれはただ早く野菜ちゃん達に会いたいだけ、会いたいだけなんだからなっ。
「構わぬ。あの羽虫風情に任せていては不安しかないからな」
うわああん!やっぱりアクセルもそう思ってた!
という訳で、俺はアクセルのお姫様抱っこという恥ずかしい恰好を甘んじて受けて、駆け足で下に降りて貰ったのだった。
「世界樹……。久し振りって……根をかえしては挨拶してたけど届いてるかな?」
大きな幹に両手をいっぱいまで広げて抱き着く。根から巡った水がサワサワと幹を伝う音がする。
『ちゃんと聞こえてたって言ってるわ』
目を閉じて世界樹の気配に集中していた俺の鼻先に止まったガジュマが通訳してくれた。流石植物の精。世界樹の言葉がわかるのか。それとも精霊は皆わかるのかな。
目を開けてガジュマにお礼を言って顔を上げた。
「ねえ、もしかして溺れてた俺を助けてくれた?」
さわわと葉が揺れる音がして、
『ユタは植物を愛してくれているから助けたんですって』
ガジュマが答えてくれる。
そっか。世界樹は植物界の頂点だもんな。野菜ちゃんや果物ちゃん達は家族。家族を大切にしてくれたら嬉しいよな。へへっ、俺も優しくして貰って嬉しい。
「ありがとう。ありがとう俺を助けてくれて。ありがとうアクセルと会わせてくれて。ありがとうアクセルとアクセルの地に連れて行ってくれて」
「我からも礼を言う。我にユタを引き合わせてくれた事、感謝する」
頬をぺったり幹に付けた俺の横に大きな手の平を付けたアクセルが、俺に覆い被さって頭にキスをした。
『あら?あらら?んふふふふ~♪そうだったのねぇ。
あのねぇ、世界樹は頑張るユタに喜んで貰って本当に嬉しいみたい。中々進展しない2人にヤキモキしてつい拾っちゃった転生勇者が悪い事した時は本当にごめんなさいですって。何をされたのかしらぁ』
それは忘れたい過去だから放っておいてくれ。
そんでアクセルが落ちて来た理由は俺の為で、テンが落ちて来た理由も俺の為とか。もしかして俺って世界樹に野菜ちゃん好き好き仲間として滅茶苦茶気に入られてないか?嬉しいけど恐れ多いな。でもそっか、
「ありがとう世界樹」
もう一度しっかり幹に抱き着きお礼をした俺は、世界樹が鳴らす葉鳴りが止むまでそっと耳を澄ましていた。
「さて、畑の様子も気になるし、今日はここで失礼するね」
いつの間にか高くなっていた陽の光を片手で遮る。
『帰りもここからだからねー』
「うん、わかった。ありがとうガジュマ」
『いいのよぅあたしも世界樹に帰って来れたんだものー』
パタパタと小さな手を横に振るガジュマとも一旦お別れ。ガジュマは世界樹と、他の精霊達と積もる話が盛沢山らしい。
という訳で此処からは久し振りのアクセルと二人っきりの旅路だ。って言っても下に行けばテンとヴェイズと合流するんだけどね。あの二人野菜ちゃん達のお世話してくれてるかな。いやしてないかな。テンだし。っていうかテンが生半可に手を出したら大惨事になってそうだ。いつかのハウス栽培の惨状みたいに。な~んてなっ、一緒に畑仕事したんだから今更枯らさないよな。うん、大丈夫大丈夫。
「ねえ、アクセル」
「何かなユタよ」
「うん、あのさ、野菜ちゃん達が気になるから、早めに降りて良い?」
大丈夫大丈夫。嫌な予感なんて気の所為。だからこれはただ早く野菜ちゃん達に会いたいだけ、会いたいだけなんだからなっ。
「構わぬ。あの羽虫風情に任せていては不安しかないからな」
うわああん!やっぱりアクセルもそう思ってた!
という訳で、俺はアクセルのお姫様抱っこという恥ずかしい恰好を甘んじて受けて、駆け足で下に降りて貰ったのだった。
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