うだつの上がらないエッセイ集(たまに自由研究)

月澄狸

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続・夏のワクワク観察日記 ~キマダラカメムシと夏の終わり~

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 8月7日。拾い集めた5個の卵を半透明の小箱に入れて飾りながら、私はキマダラカメムシの卵をどうするべきかと考えていた。

 本来並んでどこかにくっついているはずの卵は、根元から取れてバラバラに転がっている。無事孵るのだろうか。


 接着剤でどこかそのへんに貼り付けようか?
 何かに挟んで固定する?

 いやいや、接着剤なんか使ったらフタが外れなくなるだろうし、こんな小さな卵を上手く挟んで固定できるものも見当たらない。

 何かケースに入れて家の中で見守ろうかと思ったが、密閉容器じゃ具合が悪いだろう。
 でも穴があいていたら、小さな幼虫はそこから抜け出すんじゃないか。カメムシはちょっとした隙間から家の中や干してある洗濯物の中に入ってくる。カメムシの体の柔らかさと賢さはそれなりに目にしてきたはずだ。

 カメムシ卵を地面にバラまいて「無事を願っているよ」と言って立ち去る方法もある。だがなんとなく、嫌な記憶が脳内をよぎる。


 草むしり中、地面に転がっていたスズメガの仲間っぽいサナギを他の場所に移しておいた。あとで見ると、サナギは大量のアリに囲まれ解体されていた。

 家の中で見つけた女王アリを庭に逃がし、しばらく別の方に目をやったあと再び視線を戻すと、女王アリはハエトリグモに捕らえられていた。

 捕食者が跋扈する地上に卵をバラまいたら、卵ごと持って行かれるか、卵から産まれたばかりの柔らかい赤ちゃんがアリに食べられるんじゃなかろうか。


 また、最初にカメムシ卵を踏んでしまったことと、冬にクサギカメムシを踏んでしまったことも思い出される。

 冬に数日間雨が降り続けたとき、一匹のクサギカメムシが雨の当たらない壁で雨宿りをしていた。そして雨が降り止んだ日にカメムシの姿はなくなっていた。きっと日が照って暖かくなった隙に遠くへ行ったんだろうと思った。

 しかしその数日後、何気なくスリッパを履いたら……その中にいたのだ。あのときの雨宿りカメムシが。

 私は踏んでしまったカメムシをどうしようと慌てたが、どうすべきか分からず、近くにあった落ち葉にカメムシを挟んで置いておいた。翌日、落ち葉は吹き飛ばされて遠くに落ちており、カメムシもいなくなっていた。


 ……と、「良い思い出」で終わらないような後味の悪いことばかりしてきたため、今回は「みんな無事に産まれて良かった! 元気でねー!」とお別れするようなハッピーエンドを望んだ。

 結局、昆虫飼育ケースを取り出してきて中に四つ折りにしたティッシュを置き、その上に5つの卵をパラパラとまいて、飼育ケースのフタを閉めて雨の当たらない屋外に置いた。最初に孵った12個の卵があった場所のすぐ近くだ。
 親カメムシが選んだ場所の近くなのだから、ここが良いだろうと思った。屋外だから、産まれた幼虫が飼育ケースのフタの穴をくぐって外へ出て行っても問題ない。


 しかしケースを置いた場所は日が当たるとあり得ないほど暑くなる。かといってここ以外に良い場所も思い付かない。卵焼きにならないよう、飼育ケースの下に束になった紙を置いて暑さ対策してみた。また、今は遮光し直射日光が当たらないようになっている。
 これで暑さを防げるのか、そもそも固定されていない卵から赤ちゃんが出られるのかも分からないけれど。とりあえずこのまま様子を見た。


 8月14日、15日、16日……。
 だんだん卵の色が変わってきた。黒っぽくなっている。

 卵を拾ってから10日ほど経っている。この色の変化は、赤ちゃんが産まれかけということか……。そうだと信じつつ待つ。


 しかし卵はそのまま変色していき……
 とうとう孵らぬ卵となってしまった。


 何がいけなかったのだろう。
 やはりケース内が温室効果で暑くなりすぎたのだろうか。一応ケースに手を触れて熱さ確認をし、「そこまで温度が上がっていないな」と確認していたし、その場所は日が当たる時間もそんなに長くなく、遮光もされているのだけれど……。

 本来固定されているべき卵が外れて横たわっていたせい、というのもあるかもしれない。卵が上を向いていないといけなかったのだろうか。

 それとも水分が足りなかった……?
 霧吹きとかしてあげれば良かったんだろうか。

 卵に見えて、そもそも卵じゃなかったとか?


 後味の悪い思い出たちを変えるために選んだ道なのに、卵は孵らなかった。
 拾ったときは黄緑色に輝いていたのに。生きていたのに。申し訳ない。

 やっぱり私には生き物育ては無理だな……。
 今度から卵を見つけたら地面にまいておこう。


 しかし、良くも悪くも、ここでキマダラカメムシとの関係が終わることはないだろう。カメムシたちはきっとまたやってくる。

 私が罪悪感から距離を置こうとしても、近付くなと念じても、カメムシはポケットや洗濯機の中に紛れ込んでくる。
 この間も飛んできたカメムシがおでこに引っ付いたので振り払った。カメムシを服に引っ付けて連れ帰ってしまったこともあった。……そういう虫なのだ。


 秋が深まればカメムシウィーク、いやカメムシ月間……いや、数ヶ月間続くカメムシフェスティバルが始まる。

 また会おう、キマダラカメムシ。ごめんねキマダラカメムシ。


 秋になるまでカメムシとの関係はひとまずお休みだ。

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