悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第6章  それぞれの

【エピソード】- 一番になりたい(アルフレッド)

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エディから魔導書簡が届いたのは、ちょうど遅めの昼食をとろうとしていた時だった。
王国学園と同様、この王宮も使える魔法が限られている区域がある。
更に転移魔法や攻撃魔法は使える場所も限られている。
無事に受け取る事が出来て良かったと思いながらすぐさまそれを開けると、私は踵を返して先ほど出てきたばかりの第二王子の執務室に向かって歩き出した。

書簡は、よほど急いだのか、自分とメイソン子爵の両方に宛てられたものだった。
エディが気にしていた本が子爵から届いた事。それを見て思った事などを伝えたいので時間をとってほしいと思っていたが、別件で急ぎお知らせをしたい事が出来たので、なるべく早く話をしたい。というような内容だった。

エディがこんな風に早く話をしたいと言ってくる事はほとんどない。
という事はそれだけ気がかりな事が起きたという事だ。

「あれ? アルフレッド、もう食事をとってきたのかい? 随分早いね」
「ああ、すまない、ロイス。家から至急の呼び出しがあったんだ」
「至急の?」

微かに眉を寄せたニールデン公爵子息は、ほんの少しの間をおいて、小さく溜息をついた。

「弟君かな? こんな呼び出しは滅多にしないだろうから、急いで行ってあげた方がいい。ただし、後できちんと話を聞かせてほしい」

頭の回転はとても早くて、仕事も出来て、魔力量も高い。
はじめはどこかとっつきにくい印象があったが、慣れてくるとロイス・ニールデンは付き合いやすい人物だった。
何よりも色々探らずに済むのがありがたい。

「すまない。話は話せる範囲できちんと」
「ああ、もちろんそれで十分だ。私も話せる事と話せない事があるからお互い様だよ。弟君には味の良いポーションで大変お世話になっているからね。今日は王城を抜けずとも、この先の部屋から転移が可能になっていると聞いたよ。便乗してしまってもいいんじゃないかな。これを見せれば使えるよ」

ニッコリと音がするような、人好きのする微笑みに、アルフレッドはニールデン公爵家が申請している部屋から、有難く転移をさせてもらう事にした。




馬車の者には護衛から先に戻ると伝えさせて、私はそのままタウンハウスにとんだ。
着いた途端目の前に見えた姿にそのまま名前を口にする。

「エディ!」

振り返った顔は一瞬だけ驚いて、次にホッとしたような、嬉しそうな表情に変わる。

メイソン子爵から届いた本を読んで、エディが感じた事を書きとめていたノートを見た。
昔と同じように思いついた事を書きとめていて、笑みが零れた。
初めてその覚書を見せてもらった時は、幼い字で「あくやくれいそくにならない」「にいさまをころさない」と書かれていた事を思い出す。

その後メイソン子爵もいらして、護衛が幼い頃に読んだ事のある本の話も聞き、夜にはその護衛が持ち帰った古い本も読んだ。

確かにバランスの崩壊として起きていた事と重ねようとすればいくらでも重ねられるような、そして色々と確認をしたい事も沢山あった。おそらくはメイソン子爵が手が届く範囲で今日中に動き出してくれるだろう。
私も私が出来る事を考えなければいけない。

本を受け取ってからバタバタしていたのだろう。エディの顔は少し疲れが見えた。
このまま部屋に行かせてしまえば、キリもなく色々と考えてしまうだろうと思い、以前話題にして買っておいた一風変わったお茶を一緒に飲もうと誘った。

出てきた青いハーブティにエディは楽しそうにしていた。
けれど、どうしても意識はそちらへ行くようで、王国はどこに向かっているのかなどと漏らした。
ああ、やっぱりあのまま部屋に帰さないで良かった。

「そうだね。確かに今の状態で考えると、王国の古い歴史が王国の未来を握っているかもしれないというのは、何とも不思議な事だね」
「ああそうか。はるか昔の始まりが、これからの事を知っているかもしれないんだ」
「うん。でもね、エディ。私は悲観はしていないよ?」
「アル兄様?」
「だって、未来は変えられるから。知っているだけで変えられないわけじゃないっていうのは、私たちはとっくに経験済みだ。そうだろう?」

そう。エディも、そして途中からその記憶を自分のものにした私も、そうしてきた。
だから崩壊という名の何が待ち構えていても、きっとその未来は変えて見せるから。
必ず、守るから。

そうしてそろそろ部屋に戻ろうかと思って、ゆっくり休むように言うと。
「兄様も今日は本当にありがとうございました。あの……お仕事中なのにすぐに来て下さって、ニールデン様にはご迷惑をおかけしてしまいましたが、本当に嬉しかったです」

全くこういう所がエディの、エディたる所だ。
胸の中で苦笑して一緒に部屋に向かいながら、言われた言葉がやはり嬉しくて、そして何も気づかないエディが少しだけ憎らしくも思えて、私はいつもならば言わない言葉を口にした。

「連絡はメイソン子爵と一緒だったけれど、それでも一番にエディの元に来られて嬉しかった。さっき、嬉しかったって言って貰えてそれも、嬉しかった」

そう。それだけで嬉しかったんだ。
まるで子供だ。好きな子から一番に声をかけてもらえただけで喜んでいる。
だけど、エディは私が思っていたよりも更に斜め上だった。

「はい、その……僕の方こそ……えっと、あの、兄様とハワード先生に一緒にお知らせしたけど、きっと兄様が先に来てくれるって思っていました」
「………………」

もしかしたら、何かを試されているんだろうか。そんな気さえした。
まったく、これが無自覚の恐ろしさだ。
でもね、エディ。私はいつまでも優しいだけの兄様でいるつもりはないんだよ?

「うん。これからも、ずっとそうでありたいと思っているよ」
「はい……えっと……あり、ありがとうございます」

照れるような赤い顔を見て、もう一押ししても大丈夫だろうかと、そんな事を考えてしまうんだ。

「何が起きても隣にいるから。必ず駆けつけるから。だから、一人で抱えて考えているような事がないように。分からないような事や、迷う様な事があったら、今日みたいに一番に教えてほしい。……エディの、一番で居させてほしい」

エディがどうしたらいいのか分からないというように、赤い顔のままうまく言葉を出せないようになっても。

「駄目かな」
「! だめじゃない、です! え、でも、え?」

すぐに返ってきた言葉は、おそらくきちんと理解をしていないと判っていても。

「お、お話します。ちゃんと。それで、あの、僕も、ちゃんとアル兄様を守りますから。前から言っているように、僕も守られるだけでなく、守りたいです。だから、えっと、えっと」

赤い顔を更に赤くして、必死に言葉を紡ぐエディを見つめたまま、ごめんね、もう一歩進ませてほしいんだ。
だって、もう手放すつもりはないから。12の時にその力を知って、守らなければならないと、自分が幸せにしたいと誓ったから。

父には無理矢理は駄目だとクギをさされている。もちろんそんな事をするつもりはない。
ただ、父を見習って、父が母にしたよりも優しく、そして確実に、この手の中に入れて離さないと決めているんだ。
『だいすき、アルにーさま!』
きっと、あの瞬間から…………。

「うん。エディ、ありがとう。大好きだよ」
「! 僕も大好きです!」

よし、言質はとった。といってもエディだから、言葉以上の事など、今は望めないけれど。

ふわりと抱き寄せると「わぁぁ!」という声が上がる。
でも今日はエディが先に煽ったのだから引かないよ?
そう思って頬に口づけた。そして更に耳元で囁くおまけ付だ。

「おやすみ、エディ」
「ふわぁ! おや、おやすみなさい、アル兄様」

真っ赤な顔で部屋の中に入ったのを見届けて、自分の部屋に戻った。
さて、今日の言葉はどこまでエディの中に残ってくれるだろうか。

『きっと兄様が先に来てくれるって思っていました』

そうしたいと思っている。いつでも。一番に。


「……愛しているよ、エディ」


その言葉はまだ伝える事はできないけれど。
早く君の心が、この思いに追いついてくれますように。
君の一番になりたいと、心から願っているよ。



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( *´艸`)
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