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エピソード&記念SS
第5章 学園 エピソード 魔法の言葉
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冬祭りが終わってしばらくした頃に、僕は兄様からお話があるって言われて、兄様のお部屋でお話することになった。約束の時間に部屋に行くと兄様はお茶を用意して待っていてくれた。
そしてゆっくりと口を開いた。
「卒業してからの事なんだけどね」
「はい」
「父様とも色々相談して考えたんだけれど、やっぱりシルヴァン第二王子の側近として残る事になったよ」
「ご友人の皆様もご一緒ですか?」
「うん。ダニーとマーティとジミーと後もう一人の5名」
「いつまでと決まっているのですか?」
「それはまだ分からないかな。父様の手伝いをしながら城勤めをするようになる」
「父様のように大変なのですか?」
「うん。どうなんだろうね。一応成人をしたので王宮で何かの会議がある時は出るような事もあるかもしれないな。でも父様は領主が出席をしている会議に出ているから、多分父様の方が忙しいかな」
少し苦笑をしている兄様に僕は「お体に気を付けて下さいね」と言った。
すると兄様は今度は少しだけ困ったような顔をする。
「兄様?」
「ああ、うん。また父様からのきちんとした話があるかもしれないけれど、先日の学園の魔物騒ぎの後に王宮の方で色々と揉めたって事は父様から聞いただろう?」
「はい」
何だか大変だっていうのは聞いた。聞いたけれど。
「ルシルがシルヴァン王子の側近候補に決まったよ」
「側近候補……ですか?」
僕は始め兄様が何を言っているのか分からなかった。
そしてじわじわと頭の中に『記憶』が浮かんでくる。
小説の中の彼ら。
愛し子を守るように戦うマーティン君たち3人とシルヴァン王子。
そこには兄様はいなかったけれど、それは小説の世界の話だ。
この世界では兄様はちゃんと生きている。
そして、たった今聞いた、兄様が第二王子の側近になる事。という事は?
「…………兄様も、ルシルを守るのですか?」
そう口にした瞬間、僕は胸の奥をギュッと掴まれたような気がした。
ずっとずっと一緒にいてくれた兄様が、今度は王子の側近になる。
それはいい。だってそれはお仕事だから。
王室の人に仕える事が決まったのだから、多分そうしなければいけないんだろう。
でも、兄様が王子の側近候補として王子のそばにいるルシルを守るのは嫌だ。
ルシルの為に兄様が魔物と戦うのは嫌。
「エディ?」
「小説の中の皆と同じように、兄様もルシルたちと一緒に戦う事になるのでしょうか。そして光の愛し子のルシルをみんなと一緒に守るのでしょうか」
悲しいような苦しいような気持ちが身体の中に広がっていくのが分かったけれど、どうしてそんな風になるのか分からない。
だけど、嫌なんだ。どうしても嫌だ。兄様がルシルを守るのは嫌。
「エディ、ルシルが側近候補になったのは牽制の為だよ」
「牽制?」
「そう。父様が言っていただろう?ルシルの力に頼って使い捨てようとする者たちもいるって。それはエディの力に対しても同じことが言えるんだよ。それは分かるね?」
「……はい」
その事は以前、囲い込みとか聞いた。だから僕は力を公にはしていないんだ。
「特別な加護を持つ一人に全てを背負わるのは間違っている。けれどその力がある事を知ってしまったら何としても使おうとする人もいるだろう。それを牽制する為にシルヴァン王子の側近候補という形にして、王室が囲い込んだように見せているんだ。王子の側近候補を魔物退治に貸してくれと言いに来る人間はあまりいないだろうからね。それに王室は今の所ルシルの力を積極的に使わせるつもりはないらしい」
「そう、なのですか?」
「うん。危機的な状況になればまた分からないけれど。小説のようにあちこちに出向いて王子を含めた5人で魔物退治をするというのは現実的ではないしね、それに一度できたからと言って次も必ず出来るとは限らない」
僕の緑の命の魔法のようだと思った。そう。もう一度同じことをと言われてもできるかどうか分からない。
「それにね、エディ」
兄様は真っ直ぐに僕を見た。
「はい」
「側近というのは王子の公務の手助けや助言をしたりすることで、騎士や護衛や侍従とは違うよ。僕は王子を守るのではなく支える立場になるんだ。そしてルシルもね。だから僕がルシルを守る事もない。それは僕の仕事じゃないよ」
どうしてだろう。どうして痛かった胸の痛みが消えていくんだろう。
どうして、兄様の顔が滲んでいくんだろう。
「はい。分かりました」
「うん。だから今までと何も変わらないんだよ。ただ、学園に通っていたのが王宮になるだけだ」
兄様は立ち上がって僕のそばに来て、顔を見ながらそう言った。
「バランスの崩壊がこれからどういう形で現れるのかは分からないけれど。僕はエディの傍にいるから、大丈夫」
「………っ……!!」
笑った顔。
大丈夫という言葉は魔法の言葉だ。
「アル兄様!大好き!」
「うん。僕も、エディが大好きだ」
小さい頃のように兄様にしがみつくと、兄様は笑って僕の身体を受け止めてくれた。
--------------------------
5章終了です。
そしてゆっくりと口を開いた。
「卒業してからの事なんだけどね」
「はい」
「父様とも色々相談して考えたんだけれど、やっぱりシルヴァン第二王子の側近として残る事になったよ」
「ご友人の皆様もご一緒ですか?」
「うん。ダニーとマーティとジミーと後もう一人の5名」
「いつまでと決まっているのですか?」
「それはまだ分からないかな。父様の手伝いをしながら城勤めをするようになる」
「父様のように大変なのですか?」
「うん。どうなんだろうね。一応成人をしたので王宮で何かの会議がある時は出るような事もあるかもしれないな。でも父様は領主が出席をしている会議に出ているから、多分父様の方が忙しいかな」
少し苦笑をしている兄様に僕は「お体に気を付けて下さいね」と言った。
すると兄様は今度は少しだけ困ったような顔をする。
「兄様?」
「ああ、うん。また父様からのきちんとした話があるかもしれないけれど、先日の学園の魔物騒ぎの後に王宮の方で色々と揉めたって事は父様から聞いただろう?」
「はい」
何だか大変だっていうのは聞いた。聞いたけれど。
「ルシルがシルヴァン王子の側近候補に決まったよ」
「側近候補……ですか?」
僕は始め兄様が何を言っているのか分からなかった。
そしてじわじわと頭の中に『記憶』が浮かんでくる。
小説の中の彼ら。
愛し子を守るように戦うマーティン君たち3人とシルヴァン王子。
そこには兄様はいなかったけれど、それは小説の世界の話だ。
この世界では兄様はちゃんと生きている。
そして、たった今聞いた、兄様が第二王子の側近になる事。という事は?
「…………兄様も、ルシルを守るのですか?」
そう口にした瞬間、僕は胸の奥をギュッと掴まれたような気がした。
ずっとずっと一緒にいてくれた兄様が、今度は王子の側近になる。
それはいい。だってそれはお仕事だから。
王室の人に仕える事が決まったのだから、多分そうしなければいけないんだろう。
でも、兄様が王子の側近候補として王子のそばにいるルシルを守るのは嫌だ。
ルシルの為に兄様が魔物と戦うのは嫌。
「エディ?」
「小説の中の皆と同じように、兄様もルシルたちと一緒に戦う事になるのでしょうか。そして光の愛し子のルシルをみんなと一緒に守るのでしょうか」
悲しいような苦しいような気持ちが身体の中に広がっていくのが分かったけれど、どうしてそんな風になるのか分からない。
だけど、嫌なんだ。どうしても嫌だ。兄様がルシルを守るのは嫌。
「エディ、ルシルが側近候補になったのは牽制の為だよ」
「牽制?」
「そう。父様が言っていただろう?ルシルの力に頼って使い捨てようとする者たちもいるって。それはエディの力に対しても同じことが言えるんだよ。それは分かるね?」
「……はい」
その事は以前、囲い込みとか聞いた。だから僕は力を公にはしていないんだ。
「特別な加護を持つ一人に全てを背負わるのは間違っている。けれどその力がある事を知ってしまったら何としても使おうとする人もいるだろう。それを牽制する為にシルヴァン王子の側近候補という形にして、王室が囲い込んだように見せているんだ。王子の側近候補を魔物退治に貸してくれと言いに来る人間はあまりいないだろうからね。それに王室は今の所ルシルの力を積極的に使わせるつもりはないらしい」
「そう、なのですか?」
「うん。危機的な状況になればまた分からないけれど。小説のようにあちこちに出向いて王子を含めた5人で魔物退治をするというのは現実的ではないしね、それに一度できたからと言って次も必ず出来るとは限らない」
僕の緑の命の魔法のようだと思った。そう。もう一度同じことをと言われてもできるかどうか分からない。
「それにね、エディ」
兄様は真っ直ぐに僕を見た。
「はい」
「側近というのは王子の公務の手助けや助言をしたりすることで、騎士や護衛や侍従とは違うよ。僕は王子を守るのではなく支える立場になるんだ。そしてルシルもね。だから僕がルシルを守る事もない。それは僕の仕事じゃないよ」
どうしてだろう。どうして痛かった胸の痛みが消えていくんだろう。
どうして、兄様の顔が滲んでいくんだろう。
「はい。分かりました」
「うん。だから今までと何も変わらないんだよ。ただ、学園に通っていたのが王宮になるだけだ」
兄様は立ち上がって僕のそばに来て、顔を見ながらそう言った。
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「………っ……!!」
笑った顔。
大丈夫という言葉は魔法の言葉だ。
「アル兄様!大好き!」
「うん。僕も、エディが大好きだ」
小さい頃のように兄様にしがみつくと、兄様は笑って僕の身体を受け止めてくれた。
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5章終了です。
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