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第5章 学園
【エピソード】- 光の愛し子
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学園内に魔物が出るなんてシナリオはなかった。
ましてや魔素の中から湧き出すなんて事は、ありえない事だった。
初等部の屋外実技場に現れたキマイラは普通だったらこんな所に出てくる筈がない魔物の筈だ。
ゲームでは倒した事があったけれど、実際を見るのは勿論初めてだった。
僕は記憶の中にあるゲームの中ではいくつもの魔物を倒した事があった。
魔法の使い方だって魔力を練ったり、術式などを考えたりする事もなくただ選択をすればいいだけだった。
だけど、起きないイベント。
本当に使えるのか分からない聖魔法。
聖神殿で鑑定した時には魔法属性は聖属性で【光の愛し子】という加護が記憶と同じように付いていた。
だから多分使えるんだろう。
でもどうやったらそれが使えるのか、僕はもう分からなくなっていたんだ。
だから一緒にいきたいって言った。
目の前に本物のキマイラが現れて夢中で光魔法を練り上げてぶつけたけれど、あまりうまくいかないと感じる。
違う、こうじゃないんだ。
もっと違う魔法だった。でもどうしたらいいんだろう。
気付くと周りの騎士たちの魔力が落ちているのが分かった。ああ、そうか。みんな初等部の方からずっと戦ってここまで追いかけてきているんだ。
それならば癒しはどうだろう。
光魔法は回復が出来るはずだ。聖属性と光属性が僕の中でははっきりしていないけれど、多分ゲームでやっていたようにバフのような事は出来るんじゃないだろうか。
そうだ、イメージすればいい。
聖属性の魔法をうまく使いこなせなくても、きっとそれなら出来る。
うまく戦えないならば、せめてそれくらいはさせてほしい。
癒すイメージ。
魔力を戻すイメージ。
疲労を回復させるイメージ。
体の中から力が湧いてくるイメージ。
何でもいい。プラスのイメージを詰め込んで、ついでに傷も治せる方がいい。
ゆっくりと体の中にイメージを巡らせて、相手に向けて押し出していく。
「……っ……」
僕の中から何かがすぅっと抜けていくのが分かった。けれどそれは失うと言う感じではなくて相手の背中を押すようなそんな感覚だった。
(できた!)
目の前の騎士が明らかに魔力が戻って動きが良くなるのがわかった。
一度出来れば後は簡単だった。
それぞれに必要なものを渡すような感覚で僕は光のような何かを押し出す。
みんながそれに気づき始めて、僕の方を見た。
ああ、良かった。少しでも役に立てて良かった。
特に感謝をされたのが竜蛇の頭が出す毒のダメージだった。
解毒もイメージをすれば、うまくいった。
ああ、そうか。
僕はもしかしたら考えすぎていたのかもしれない。
こうなる筈とか、こうでなかったらダメだとか。
そういう事でなく何をしたいのか、どうしたらみんなと一緒に戦えるのか。目の前の魔物がどうなったらいいのかを考えればよかったんだ。
大丈夫。きっと出来る。
「離れて下さい!」
精一杯の声を張り上げたら、皆が何を言ってるんだって顔をして僕の方を振り返った。
シルヴァン王子の顔も見えた。
攻略だとかそんなものは関係ない。そんなものはこの世界では無理だって事はもう十分分かっている。
でも、見ることは許されるでしょう?
少しでも大好きな人のそばで何かが出来たら幸せだから。
それだけでいいから。
「キマイラが消えた……?」
誰かが呆然としたようにそう言った。
自分でもどんな魔法を使ったのかは分からないけれど、目の前にいたキマイラを浄化できたことは分かった。
そして学園内にもう一体魔物が湧いた事と、救援が来た事が知らされる。
それならば僕が出来る事は一つだ。
「すみません。どなたか魔素溜まりの前まで転移をしてもらえませんか?これ以上湧き出しても困るので元を消します」
僕は今の所転移が出来ない。
初等科まで走っていく事も出来るが、さすがに今の魔法で体がきつい。
僕の言葉に応えてくれたのはシルヴァン王子だった。
「そうだな。元をなくしてしまうのが一番いいだろう。ルシル、まだ大丈夫なのか」
「!!はい!」
思わず声が弾んでしまった事を誰も責めないでほしい。
「では僕が」
そう言ったのはマーティン・レイモンド伯爵子息だった。
「レイモンド。私たちも一緒に行けるか?」
「殿下。私がメイソンとスタンリーと一緒に行きます」
「分かった。では私とルシルを転移させてくれ。フィンレーは残りの二人を」
「かしこまりました」
そう言うとすぐに初等部の実技場へ場所が変わる。
そこにはほとんど戦闘不能となったキマイラと、新たに湧いたらしいヘルストーカーの姿があって、その奥に黒く大きな魔素溜まりがゆらゆらと揺れていた。
「殿下!危ないので下がってください!」
救援に来たらしいフィンレー領主が声を張り上げた。他の騎士たちは魔物たちと戦っている。
「分かっている。魔物は任せた。魔素溜まりを確認したい。ルシル」
「はい」
名前を呼ばれて僕は魔素溜まりの方に顔を向けた。
「無理はするな。駄目ならやめろ。誰もお前を責めない。いいな?」
「はい」
向けられた言葉に瞳が熱くなる。
そこに向かう僕の周りを記憶に近い形でマーティンとジェイムズとダニエルが囲む。
そしてその後ろにシルヴァンがいて、シルヴァンを守るようにアルフレッドが前に立つ。
それを感じながら僕は息を一つ吸って、吐いて。
黒く揺れるような魔素を見た。
これはここにあってはいけないもの。
浄化すべきもの。
もうここから魔物が湧く事はない。
ゲートを閉じるようなイメージ。
身体の中を先程と同じように魔力が駆け巡る。
開いてしまった道は消える。悪いものは全て無くなる。
浄化、光、消滅……
「魔素溜まりが……」
黒くぽっかりと開いて、ゆらゆらと揺れていたそれは何もなかったかのように消え去った。
けれどその次の瞬間、僕の身体の中から何かがものすごい勢いで抜けて行った。
「……っ……!」
口を開いたけれどうまく空気が吸い込めない。そんな感じだった。
胸を押さえてそのまま前に身体が倒れていくのが分かった。分かったけれどどうする事も出来ない。
そう思った瞬間。
「大丈夫だ。よくやってくれた。だが、無茶をしたようだな」
「……………………」
誰かがそう言って抱き留めてくれたような気がしたけれど、僕の意識はそこで途絶えた。
そして次に気づいた時は神殿で、シルヴァン王子たちが魔力切れを起こした僕をここへ連れてきてくれたのだと聞かされた。
僕は僕の出来る事をしたつもりだった。
でもそれは王国の中を揺るがすような出来事になった。
現れた魔物を一瞬で浄化をさせてしまう力は人々に様々な思いを抱かせることになったらしい。
これからどうなるんだろう。
この力を使って王国を守るようにと言われるのだろうか。
ただ、魔物を狩る奴隷のようになってしまうのだろうか。
けれど僕の事を守ろうとする人々も存在した。
子供に全てを押し付けるような事をするなと。
それが僕が今までに沢山の話をしてきたメイソン家やレイモンド家、スタンリー家、そしてフィンレー家などの領主たちで、王子もそれに賛成をしてくれたと聞いた。
それだけで、ここで生きていけると思った。
そしてその年が終わる頃。
僕は第二王子の側近候補としてある意味で囚われ、ある意味で守られる存在になった事を知った。
「ルシル・マーロウ。無理に魔物と戦う必要はない。やらなければならない事などない。それだけは覚えておくように。君が戦うと言うならば、私たち全員が戦いに向かうという事になる。いいね?やれる事をやれる範囲内でやればいいんだ。考えなければならないのは今は大人たちだ。甘えられる時は甘えよう。学園の初等部1年に出来る事など限られている。無理をして体を酷使するのは馬鹿だ。だが、学園での事は感謝をする。ありがとう」
にっこりと笑ったシルヴァン王子は小説の中ともゲームの中とも少し印象が異なっていたけれど、それでもやっぱり好きだなと思った。
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ましてや魔素の中から湧き出すなんて事は、ありえない事だった。
初等部の屋外実技場に現れたキマイラは普通だったらこんな所に出てくる筈がない魔物の筈だ。
ゲームでは倒した事があったけれど、実際を見るのは勿論初めてだった。
僕は記憶の中にあるゲームの中ではいくつもの魔物を倒した事があった。
魔法の使い方だって魔力を練ったり、術式などを考えたりする事もなくただ選択をすればいいだけだった。
だけど、起きないイベント。
本当に使えるのか分からない聖魔法。
聖神殿で鑑定した時には魔法属性は聖属性で【光の愛し子】という加護が記憶と同じように付いていた。
だから多分使えるんだろう。
でもどうやったらそれが使えるのか、僕はもう分からなくなっていたんだ。
だから一緒にいきたいって言った。
目の前に本物のキマイラが現れて夢中で光魔法を練り上げてぶつけたけれど、あまりうまくいかないと感じる。
違う、こうじゃないんだ。
もっと違う魔法だった。でもどうしたらいいんだろう。
気付くと周りの騎士たちの魔力が落ちているのが分かった。ああ、そうか。みんな初等部の方からずっと戦ってここまで追いかけてきているんだ。
それならば癒しはどうだろう。
光魔法は回復が出来るはずだ。聖属性と光属性が僕の中でははっきりしていないけれど、多分ゲームでやっていたようにバフのような事は出来るんじゃないだろうか。
そうだ、イメージすればいい。
聖属性の魔法をうまく使いこなせなくても、きっとそれなら出来る。
うまく戦えないならば、せめてそれくらいはさせてほしい。
癒すイメージ。
魔力を戻すイメージ。
疲労を回復させるイメージ。
体の中から力が湧いてくるイメージ。
何でもいい。プラスのイメージを詰め込んで、ついでに傷も治せる方がいい。
ゆっくりと体の中にイメージを巡らせて、相手に向けて押し出していく。
「……っ……」
僕の中から何かがすぅっと抜けていくのが分かった。けれどそれは失うと言う感じではなくて相手の背中を押すようなそんな感覚だった。
(できた!)
目の前の騎士が明らかに魔力が戻って動きが良くなるのがわかった。
一度出来れば後は簡単だった。
それぞれに必要なものを渡すような感覚で僕は光のような何かを押し出す。
みんながそれに気づき始めて、僕の方を見た。
ああ、良かった。少しでも役に立てて良かった。
特に感謝をされたのが竜蛇の頭が出す毒のダメージだった。
解毒もイメージをすれば、うまくいった。
ああ、そうか。
僕はもしかしたら考えすぎていたのかもしれない。
こうなる筈とか、こうでなかったらダメだとか。
そういう事でなく何をしたいのか、どうしたらみんなと一緒に戦えるのか。目の前の魔物がどうなったらいいのかを考えればよかったんだ。
大丈夫。きっと出来る。
「離れて下さい!」
精一杯の声を張り上げたら、皆が何を言ってるんだって顔をして僕の方を振り返った。
シルヴァン王子の顔も見えた。
攻略だとかそんなものは関係ない。そんなものはこの世界では無理だって事はもう十分分かっている。
でも、見ることは許されるでしょう?
少しでも大好きな人のそばで何かが出来たら幸せだから。
それだけでいいから。
「キマイラが消えた……?」
誰かが呆然としたようにそう言った。
自分でもどんな魔法を使ったのかは分からないけれど、目の前にいたキマイラを浄化できたことは分かった。
そして学園内にもう一体魔物が湧いた事と、救援が来た事が知らされる。
それならば僕が出来る事は一つだ。
「すみません。どなたか魔素溜まりの前まで転移をしてもらえませんか?これ以上湧き出しても困るので元を消します」
僕は今の所転移が出来ない。
初等科まで走っていく事も出来るが、さすがに今の魔法で体がきつい。
僕の言葉に応えてくれたのはシルヴァン王子だった。
「そうだな。元をなくしてしまうのが一番いいだろう。ルシル、まだ大丈夫なのか」
「!!はい!」
思わず声が弾んでしまった事を誰も責めないでほしい。
「では僕が」
そう言ったのはマーティン・レイモンド伯爵子息だった。
「レイモンド。私たちも一緒に行けるか?」
「殿下。私がメイソンとスタンリーと一緒に行きます」
「分かった。では私とルシルを転移させてくれ。フィンレーは残りの二人を」
「かしこまりました」
そう言うとすぐに初等部の実技場へ場所が変わる。
そこにはほとんど戦闘不能となったキマイラと、新たに湧いたらしいヘルストーカーの姿があって、その奥に黒く大きな魔素溜まりがゆらゆらと揺れていた。
「殿下!危ないので下がってください!」
救援に来たらしいフィンレー領主が声を張り上げた。他の騎士たちは魔物たちと戦っている。
「分かっている。魔物は任せた。魔素溜まりを確認したい。ルシル」
「はい」
名前を呼ばれて僕は魔素溜まりの方に顔を向けた。
「無理はするな。駄目ならやめろ。誰もお前を責めない。いいな?」
「はい」
向けられた言葉に瞳が熱くなる。
そこに向かう僕の周りを記憶に近い形でマーティンとジェイムズとダニエルが囲む。
そしてその後ろにシルヴァンがいて、シルヴァンを守るようにアルフレッドが前に立つ。
それを感じながら僕は息を一つ吸って、吐いて。
黒く揺れるような魔素を見た。
これはここにあってはいけないもの。
浄化すべきもの。
もうここから魔物が湧く事はない。
ゲートを閉じるようなイメージ。
身体の中を先程と同じように魔力が駆け巡る。
開いてしまった道は消える。悪いものは全て無くなる。
浄化、光、消滅……
「魔素溜まりが……」
黒くぽっかりと開いて、ゆらゆらと揺れていたそれは何もなかったかのように消え去った。
けれどその次の瞬間、僕の身体の中から何かがものすごい勢いで抜けて行った。
「……っ……!」
口を開いたけれどうまく空気が吸い込めない。そんな感じだった。
胸を押さえてそのまま前に身体が倒れていくのが分かった。分かったけれどどうする事も出来ない。
そう思った瞬間。
「大丈夫だ。よくやってくれた。だが、無茶をしたようだな」
「……………………」
誰かがそう言って抱き留めてくれたような気がしたけれど、僕の意識はそこで途絶えた。
そして次に気づいた時は神殿で、シルヴァン王子たちが魔力切れを起こした僕をここへ連れてきてくれたのだと聞かされた。
僕は僕の出来る事をしたつもりだった。
でもそれは王国の中を揺るがすような出来事になった。
現れた魔物を一瞬で浄化をさせてしまう力は人々に様々な思いを抱かせることになったらしい。
これからどうなるんだろう。
この力を使って王国を守るようにと言われるのだろうか。
ただ、魔物を狩る奴隷のようになってしまうのだろうか。
けれど僕の事を守ろうとする人々も存在した。
子供に全てを押し付けるような事をするなと。
それが僕が今までに沢山の話をしてきたメイソン家やレイモンド家、スタンリー家、そしてフィンレー家などの領主たちで、王子もそれに賛成をしてくれたと聞いた。
それだけで、ここで生きていけると思った。
そしてその年が終わる頃。
僕は第二王子の側近候補としてある意味で囚われ、ある意味で守られる存在になった事を知った。
「ルシル・マーロウ。無理に魔物と戦う必要はない。やらなければならない事などない。それだけは覚えておくように。君が戦うと言うならば、私たち全員が戦いに向かうという事になる。いいね?やれる事をやれる範囲内でやればいいんだ。考えなければならないのは今は大人たちだ。甘えられる時は甘えよう。学園の初等部1年に出来る事など限られている。無理をして体を酷使するのは馬鹿だ。だが、学園での事は感謝をする。ありがとう」
にっこりと笑ったシルヴァン王子は小説の中ともゲームの中とも少し印象が異なっていたけれど、それでもやっぱり好きだなと思った。
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