言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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リアルでの活動開始

話を聞く前に

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 数日後の夜。私たちはゲームの中で落ち合った。場所は、例のごとくカンナさんのお店。私は楽でいいんだけど、他の人にとっては、どうなんだろう?

 私がログインした時には既に月島部長……――、もとい、シュウさんが既にカンナさんのお店で待っていた。

「早いですね」

 私も、約束の時間の1時間前に来たのに。私が声をかけると、椅子に腰かけていた彼は、私を見上げた。

「……そちらの性分的に、1時間前にはログインするだろうことを見越して、早めに来てみた」
「さすがシュウさん。私のことをよく分かってらっしゃいます」

 私が笑うと、シュウさんも目を細めた。

「でも、私より早めに来たということは、何か私に言いたいことがあるんじゃないんですか」
「……そちらも、こちらの性分を理解してくれて、嬉しい」

 シュウさんは言って、何やら書物を取り出した。

「この世界では、このように書物になるのだな……」
「これは」
「……現時点で会社にあったあの男に関する情報だ。現実世界のメールアドレスには、ワード文書添付メールを送付してある」

 ドスン、と重そうに書物をテーブルに置く。なかなか分厚い本だ。お話を聞く前に、この情報を頭に入れられるだろうか。

 手を伸ばして、書物を手に取る。それから中身をパラパラとめくった。すると、シュウさんが私の思っていたことを察したのか声をかけてくる。

「全ての内容を頭に入れる必要はない。それは既に、こちらの頭の中にある」
「よかった……」

 思わず心の声が漏れる。すると、くすっと笑う気配。

「……。それを今頭に入れろなんて無理難題を言うと思ったのか」

 シュウさんの言葉で改めて、私は考える。私が勤めていた会社の上司が悪すぎたのか、それとも月島部長という人間が、出来すぎた人間なのか。

 どちらでもいい、そう思った。今は、この人が上司だ。

「……そちらにお願いしたいのは、相手方の情報の聞き出しだ」
「え」
「……こちらは、人と話すのが、得意ではない」

 私も、特に人と話すことは本当は得意じゃない。でも、仕事と割り切れば、ある程度のサービス精神で話をすることは可能だ。

「私も、仕事ではない時にはあまり人と話すことは得意ではありません。でも、今日はあくまで仕事ですから」

 私は笑って言葉を続けた。

「情報聞き出しは、私に全面的に任せてください。それでは、今のうちにシュウさんが聞いておきたい質問などお伺いできればと」
「それなら、ここに全てまとめてある」

 そう言って、書物とは別の、一枚の羊皮紙が渡される。

「こちらの世界にログインしてから書いたものだから、手書きで申し訳ないが……」

 シュウさんの少し申し訳なさそうな声。しかし、申し訳なく思う必要なんてどこにもない流麗な字。ああ、私もこれくらい綺麗な字が書けたらいいのに。
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