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言霊・物語付与のスキル
カフェの店員さん
しおりを挟むカフェの中は、たくさんのお客さんでにぎわっていた。私は、店員さんたちが着こなしている服に目が行く。あれは、確か……――、カマーベストって言うんだっけ?
蝶ネクタイに、ベスト。ああ、お腹いっぱいですありがとうございます。尊すぎて、眩しい。
「あ、サランさんもこういうのが好きな人ですか? ルリアもこういうの好きみたいで、毎日来てるみたいです」
私の隣に並んだセナさんは、ふふっと笑う。セナさんとルリアさんって同い年なのかな。セナさん、大人っぽいもん。
「セナさんって、ルリアさんと同い年なんですか」
私が尋ねると、セナさんは、小さく首をかしげて言った。
「ううん。あたしの方が少し年上なんです。あたし、大学4年で就職活動中なんですよ」
「道理で。すごく大人びているなと思って。私は、社会人4年目になる26歳です」
「へええ。落ち着いてらっしゃると思ったら、社会人さんなんですね」
セナさんは頷くと私に向き直り、とても申し訳なさそうな顔をした。
「あたしをだました人でもないのに、お話を聞いてくれるということで、ありがとうございます」
「いえ。私もこのまま放ってたら、自分にも疑いをかけられることもあるかもしれないと思って。あくまで、自分の保身のためにお話し聞きたいと思ったところありますから、そんなにかしこまらないでください」
私の言葉に、セナさんは少し顔をほころばせる。
「そう言って頂けると嬉しいです」
「ここにしましょう」
ルリアさんが言って、2人用のテーブルを2つくっつける。これで4人用テーブルに様変わり。今更だけど、女性のお客さん多くない? そしてあちこちから黄色い声が聞こえるよ。
私の隣にフリントさん、向かい側にルリアさん、斜め向かいにセナさんが座る。ルリアさんは鼻歌を歌いながら、メニュー表を眺めている。
セナさんは小声で私に教えてくれた。
「ちなみにここ、イケメン店員さんが多いんですよ」
ああ、なるほどね。私は納得する。それで女性のお客さんが多くて、黄色い声が上がってるのか。男性店員さん、みんな忙しそうだもんね。あ、でも、女性店員さんもいて、女性店員さんも美人さんが多い。この店、すごい。
あちこちを私が見渡していると、すっと水の入ったコップが視界に入る。あ、ここ、水はセルフサービスじゃないんだね。カフェでも無料の飲み物はセルフサービスのところってあるじゃない。
水を持ってきてくれたのは、黒髪のお兄さん。30歳前後かな。ここの店員さんたちの中では年齢の高い方だと思う。
他の店員さんは無料の笑顔を振りまいているけれど、この人はまったく笑顔を見せない。そもそも、失礼しますとか、一切声かけられた記憶がないし。クールなポジションなのかな。
もっと顔をよく見たかったけどお兄さんは、4人分の水の入ったグラスを置くと、踵を返して去っていく。その背中を見送りながら、私は考えた。
あの人、まったく気配を感じさせなかった。いくらこれだけお店が騒がしいとはいえ、店員さんが近づいてくるのに気づかないなんて。こんなこと、今までになかった。
私は、まだ去っていくお兄さんの背中をぼーっと眺めていたけれど、ルリアさんの声で現実に引き戻される。
「あたくし、決めましたわ。ミルクティーにします」
あ、ようやく決まったのね。私は、コーヒーかな。そして、VRMMO世界での初めての飲食、楽しみ!
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