言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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言霊・物語付与のスキル

待ち合わせ

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 私は、約束の1時間前にゲームにログインしていた。5分前には、広場に行ってみるつもりでいるけれど、その前に傷薬作りを頑張っておきたいもんね。

 店の前で傷薬作りをしながら、私はふと思いつく。そういえば、私の言霊・物語付与のスキルって1日3回が上限使用回数だけど、これって貯めておいたりできるのかな。ログインしてない日とか、使わなかった分が貯められたらいいんだけど。

 私はそう思ってスキルのタブを開くけど、3回って書いてある。昨日はゲームにログインせずに寝たはずだから、貯めておけるなら6回になっているはず。なので、毎日回数はリセットされて、貯めてはおけない仕様みたい。

 だったら、その悪事を働いている人もおそらく、3回くらいしか毎回悪いことはできないはずだよね。ま、そんなに悪いことをする人なら、回数制限というルール自体を無視できる方法とか知ってそうだけど。

 私がそんなことを考えながら傷薬を作っていると、フリントさんがやってきた。

「あ、フリントさん。おはようございます」
「おはようございます、サランさん。今日、被害に遭われた人のご友人と会うんですよね」
「ええ、まあ」

 私が言うと、フリントさんは私の隣に腰かける。

「僕も一緒に行きます。少なくとも、僕が言い出したことですしね」
「いいんですか」
「ええ。向こうは一人で来られるんですか」

 フリントさんの問いに、私は肩をすくめてみせる。

「それが、よく分からないんですよね。ただ、広場に来るようにって言うあのメールしか受け取らなかったから、大勢で来るのか、一人で来るつもりなのかも、さっぱり」

 私の言葉に、フリントさんが苦笑する。

「それならなおさら、僕もご一緒した方がよさそうですね。いざ待ち合わせ場所に行ってみたら、えらい目にあう羽目になったなんてことがあってはいけませんし」

「助かります」

 向こうも、脅迫状みたいに一人で来いとは書いてきてなかったもんね。私はそんなことを思いながら、傷薬を作り続ける。なんだかんだ言って、傷薬作りも板についてきたんじゃないかな。

 カンナおばさんによると、私が作っているこの『初心者が作った傷薬』、結構評判がいいらしい。回復量は少ないけど、その分値段も安くしてあるから、低レベルの冒険者には人気らしい。冒険者を始めたばかりの、レベルをこれから上げていくって人には、コストパフォーマンスがいいのかもしれない。

 フリントさんと取り留めのない話をしていたら、約束の時間10分前になった。傷薬を作る材料を片づけて、フリントさんと一緒に広場に向かう。

「そういえば、相手の特徴など聞いていますか」

 フリントさんが思い出したように言う。私もそれを聞いてはっとなる。そういえば、どうやって相手を見つければいいんだろう。

 そう思っていると、少し離れたところから言い争いが聞こえて来た。声の主は、金髪に可愛いフリルのついたワンピースを身にまとった少女と、ボーイッシュな茶髪の背の高い女性。

「ルリアがちゃんと特徴とか聞いておけば、それで済んだ話じゃん」
「そんなこと言いましても! あたくしだって宿題を片づけるのに必死だったんですわ」
「そんなこと言って、実はさっさと寝たかっただけでしょうよ」

 ルリア、その名前は昨日の。

「あのぅ、ルリアさんでお間違いなかったでしょうか。私、昨日ルリアさんとお約束させて頂いた、サランと申しますが」

 もちろん同じ名前の人なんて、たくさんいると思う。でもまぁ、声をかけてみる価値はある。考えるより先に行動した私の言葉に、言い争いをしていた二人の視線がこちらに向けられる。

 一瞬呆気にとられたような顔をしていた二人だったけど、先にボーイッシュな髪形をした女性の方がこちらに向かって会釈してきた。

「おお、よかった。探す手間が省けた! あ、あたし、セナって言います。昨日は、無理を言ってごめんなさい」

 あ、この人はすごく常識人っぽい。よかった。私は一つ安心する。すると、セナさんの後ろから金髪の少女が喚くように言う。

「あなたが、昨日のメールの主なんですの!? 難しい言葉で何を言ってるのかかく乱させるなんて、卑怯にもほどがありますわっ!」

 ん? かく乱? 私が首をかしげていると、セナが笑って言った。

「ごめんなさい。彼女、高校生だからビジネスのメール文とか見る機会がなくて。本とかも読まないから、難しい言葉に縁がないんだよね」

 ああ、確かに。私勝手に大人ばっかりがゲームしてると勘違いしてたけど、そりゃあ子どもだって遊んでるもんね。そう考えたら、あのメールはちょっと堅苦しすぎたか。私も高校生くらいの時なんて、丁寧語と尊敬語の違い、よく分かってなかったし。

「ごめんなさい、普段使っているメールの文面で書いてしまったもので、分かりにくかったですよね」

 私が素直に謝ると、金髪の少女……――、ルリアさんは虚を突かれたような顔をする。

「ま、まぁ構いませんわ。セナが解読してくれましたし。それで、そちらの殿方は」

 ルリアの言葉に、私の傍らにいたフリントさんが小さく会釈する。

「申し遅れました。僕は、フリントと言います。サランさんの友人です」
「フリントさん、ですわね。どうぞよろしく」

 よかった、ルリアさん、私一人で来なかったことに対してはノーコメントだね。ま、指定されてないけど。

「ここでは何ですし、場所を変えましょう。そこに素敵なカフェがありますわ」

 ルリアさんが顔をほころばせながら、歩き出す。ああ、この世界にもカフェなるものがあるのかぁ。私は所持金を気にしながら、彼女たちについていくことにする。ま、最悪はフリントさんに借りればいいし。
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