言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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言霊付与・クラフト編

その2 バトルフォーンの甲冑

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 さて、それじゃ、この甲冑さんをなんとか売れるアイテムに変えてしまおう。私は、腕まくりをする。

「このアイテムに言霊・物語付与のスキルを使用します」

 私が言うと、システムダイアログボックスが起動する。


「バトルフォーンの甲冑《改》。とある森の主だったバトルフォーンを討伐した際に完成した甲冑。バトルフォーンの怨念が染みついており重量があるが、触れたものに同等の重量を課する呪いを付与できる」

 今までやってきたRPGゲームの知識を思い出しながら、それらしい内容を呟いてみる。するとその通りに、アイテムの説明欄が書き換わっていく。

「また、この呪いは重ねがけが可能。武器、防具一つ一つに付与が可能」

 ……ちょっと設定盛りすぎた気もするけど。これで少なくとも、マイナスの部分をプラスに変えることはできたんじゃないかな。こっちの動きが鈍るのなら、相手の動きを同じくらい遅くしてしまうか、相手を自分より遅速にしてしまえば、短所じゃなくなるでしょ。

 私は一人で満足してうんうん頷く。そしてカンナおばさんの方を振り返って言った。

「今日は『初心者が作った傷薬』と、この『バトルフォーンの甲冑《改》を目玉商品として売り出します。これで売り上げが伸びればいいですけど……」
「なんか、よく分からないけどじゃあそれでやってみようか」

 カンナおばさんはそう言うと、にっこり微笑んだ。

「何かアタシに手伝えることはあるかい?」
「それじゃ、今から言うものを用意して頂けますか?」

 私は、カンナおばさんに傷薬を作るのに使う素材と、商品を入れるための箱、それからポップを作るための素材をお願いする。そして用意してもらった素材を脇に置いて、作業を開始した。

 1時間後、10個ほどの傷薬と傷薬用のポップの用意ができた。傷薬を箱の中に入れ、箱の蓋にポップをつける。

『初心者が作った傷薬。効果が薄めのため、15Yにてご提供。ただし、交換返品は受け付けません』


 それから甲冑の胸にも、『今日のオススメ』の手作りポップを貼り付けておいた。店先に傷薬の箱を置いて、私はその近くに小さなテーブルと椅子を置く。そしてその場所で傷薬づくりを再開する。

 ここなら、お客さんがどんな反応を示すか間近で見られる。でも、視線をずっと通りに向けてちゃ、だめ。あくまで、作業しながら時々ちらっと、通りに目を配る。

 これは私が数年前、同人イベントに参加した時の経験。同人誌即売会のイベントで学んだこと。売り手側も買い手側もどちらもやってことがある私。売り手の時、お隣のブースの方と話したり、作業したりして、お客さんの行動を凝視しない方が商品の売れ行きが多かった。もちろん、声をかけられたら別。その方が、お客さんも心置きなく商品を見てくれるんだよね。

 私は、バトルフォーンの甲冑《改》のイラストを鼻歌まじりに描く。これも、後で、どこかに立てかけようかな。そんなことを考えていると、私の目線に誰かの足が見えた。

「いらっしゃいませっ」

 私の前に立ったということは、何か用のある人。記念すべき私にとっての一人目のお客さんかもしれない。
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