61 / 98
18章 人生の先生だもの
61話 私のためにずっと準備を…
しおりを挟む私が連れていってほしいとお願いをしたのは、国内でも有数の大きさを誇る水族館。
あの修学旅行の時も、先生が私を助手席に乗せて連れてきてくれた。
ジンベイザメのオブジェの前で写真を撮っていたら、係りの人から撮ってもらえることになって、初めて二人で一緒に写った。
「あの日、ここに来たグループもあったんだろう?」
「どうでしょうか。私は1日ここにいるつもりでしたけど、他はみんな次の目的地に向かったと思います」
あの当時、私たちが到着したのは、モデルコースのバスが到着してから1時間以上は経っていたと思う。
私たちが着いた直後にバスが次の目的地に出発していたから、みんなはそちらで移動したのではないだろうか。
先生と二人でいるところを目撃されたという情報が無かったのは、あとで本当のことを唯一教えた千佳ちゃんが目を丸くして驚いたということから、誰もノーマークだったことが証明されている。
「卒業アルバムには俺たち二人とも個人写真としては載ってないからな」
「でも、ちゃんと修学旅行の集合写真には載っているって、ちぃちゃんに見せてもらいましたよ」
以前、お店に友達を連れてきた千佳ちゃんが卒業アルバムを持ってきて見せてくれた。
「しまったなぁ。それじゃ俺たちの関係がバレちまう」
「生徒に手を出した悪ぅい先生ですもんね」
「禁断の掟を破った不良生徒のせいだ」
巨大なジンベイザメの泳ぐ大水槽の前に来て、私は足を止めた。
「原田はここが好きだったな」
大きな水槽に、大小の魚たちが泳いでいる光景に私は吸い込まれてしまう。貴重な種類が分かるよう個別に入っているエリアよりも、こういう大水槽の方が好き。
「大洗の時もそうでしたけど、私の心の洗濯です。嫌なこともみんなちっぽけに感じてしまって。涙ごと洗い流してもらえるんですよね。だから、水族館で私が泣いていても気にしないでくださいね」
「それは難しいなぁ。横で涙を流されていたら気分はすっかり悪者だ」
「そういうときは、こうやって抱きしめてください。悪者にはなりません」
先生の両腕を私の背中に回してもらう。
一昨年は二人だったけれど、こんなことは許される関係じゃなかった。
屋外のイルカや別棟のマナティーの水槽にも回って、ゆっくり見せてもらった。
本当に最低でも半日は過ごしていたい。
「先生が私のことを見直したのはこの場所からでしたか?」
きっと、私はこの場所でそれまで誰にも見せたこともない顔をしていたと思う。
「そうだな。それまでは学校生活という表面上でそれなりに気にはなっていたんだが、ここに来て、目を輝かせたり、泣きそうになっていたり、いろんな原田を見た。もっと知りたいと強く思うようになったのは本当だが、立場的に手を出せなかったしな」
「私を口説くには水族館って、もしかして先月も思っていたんですか?」
私が先生からの想いを受け入れたのも、水族館だったよね。
「正直、全然決めてなかった。いろいろシチュエーションも考えたんだけど、結局は自然に口をついて出てしまった。もう少しロマンチックにしたかったとも、あの後に思ったんだけどな」
頭をかいて苦笑いしている。
「ううん、あれで私は十分すぎるくらい幸せだったんです」
「そうだな、許してもらえるなら本番の結婚の申し込みはもっとシーンを考えてやるつもりだ」
「先生、それってもう私にプロポーズするって言っちゃってるじゃないですか!?」
「ダメか?」
「いいえ……。間違いなく泣いちゃいます」
笑ってしまった私の頭に、温かい手を乗せてくれる。
「元々は担任と生徒の俺たちだ。ちゃんと準備をして、みんなに祝福してもらえるようにならないとな。ずっと一緒でいられるように。結花の高認受験と同じだ……」
ちゃんと考えてくれているんだ。きっと、私が成人する年とか、病気の経過とか。私たちのことでみんなを不安がらせないように。でも……。
「大丈夫だ。何かあれば今すぐにでも結花を欲しいとご両親に頼むつもりだ。最初に一目惚れしたときは16歳になったばかりだったんだから。美人になったと贔屓目なしに俺は思うぞ」
「約束ですよ?」
「あぁ、約束だ」
淡いアクアブルーの光の中、私は先生に抱きしめられながら唇を合わせていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 11/19 『夫の疑問、妻の確信3』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/15
*『夫の疑問、妻の確信2』
11/11
*『夫の疑問、妻の確信 1 』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
アマツヘグイ
雨愁軒経
ライト文芸
幼い頃の経験がきっかけで血液を好むようになり、家族から見放された少女・薄墨冬子。
国語教師である長谷堂栄助が、彼女の自傷現場を目撃してしまったことをきっかけに、二人の『食事』と称した逢瀬が重ねられていく。
かつての失恋以来、心に仮面を被り続けてきた栄助。
どうせ誰にも受け入れられないのならと、仮面さえ放棄した冬子。
教師と生徒という禁断。血液嗜好症という禁忌。
不器用な二人の『食事』という鈍い愛は、業に縛られるヨモツヘグイとなるのか、あるいは――
書く人に向けて書くコーナー
アポロ
ライト文芸
どこからでもさくっとつまみ読みしていいよ。
ほっこりしたりじんわりしたりしたらいいよ。
何か書いてる人へのプレゼントのつもり。
お気に入りにしてやってちょうだい。
It's a energy.
リエゾン~川辺のカフェで、ほっこりしていきませんか~
凪子
ライト文芸
山下桜(やましたさくら)、24歳、パティシエ。
大手ホテルの製菓部で働いていたけれど――心と体が限界を迎えてしまう。
流れついたのは、金持ちのボンボン息子・鈴川京介(すずかわきょうすけ)が趣味で開いているカフェだった。
桜は働きながら同僚の松田健(まつだたける)と衝突したり、訪れる客と交流しながら、ゆっくりゆっくり心の傷を癒していく。
苦しい過去と辛い事情を胸に抱えた三人の、再生の物語。
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
片翼を君にあげる②
☆リサーナ☆
ファンタジー
自分の過去を乗り越え、レノアーノへの想いを素直に受け止めたツバサは自らの人生《みち》を見付け、ようやく夢の配達人として再出発を切った。
しかし、最初は順調かと思いきや、その人生《みち》で待ち構えている様々な苦悩や試練。
そして、愛、友情、約束……。ツバサ、レノアーノ、ラン、ライ。幼馴染み4人の絆も、子供から大人への成長で変わっていくーー。
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
2021.9.24(金)
連載開始
【完結】お茶を飲みながら -季節の風にのって-
志戸呂 玲萌音
ライト文芸
les quatre saisons
フランス語で 『四季』 と言う意味の紅茶専門のカフェを舞台としたお話です。
【プロローグ】
茉莉香がles quatre saisonsで働くきっかけと、
そこに集まる人々を描きます。
このお話は短いですが、彼女の人生に大きな影響を与えます。
【第一章】
茉莉香は、ある青年と出会います。
彼にはいろいろと秘密があるようですが、
様々な出来事が、二人を次第に結び付けていきます。
【第二章】
茉莉香は、将来について真剣に考えるようになります。
彼女は、悩みながらも、自分の道を模索し続けます。
果たして、どんな人生を選択するのか?
お話は、第三章、四章と続きながら、茉莉香の成長を描きます。
主人公は、決してあきらめません。
悩みながらも自分の道を歩んで行き、日々を楽しむことを忘れません。
全編を通して、美味しい紅茶と甘いお菓子が登場し、
読者の方も、ほっと一息ついていただけると思います。
ぜひ、お立ち寄りください。
※小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にても連載中です。
裏切りの扉 非公開にしていましたが再upしました。11/4
設樂理沙
ライト文芸
非の打ち所の無い素敵な夫を持つ、魅力的な女性(おんな)萌枝
が夫の不始末に遭遇した時、彼女を襲ったものは?
心のままに……潔く、クールに歩んでゆく彼女の心と身体は
どこに行き着くのだろう。
2018年頃書いた作品になります。
❦イラストはPIXTA様内、ILLUSTRATION STORE様 有償素材
2024.9.20~11.3……一度非公開 11/4公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる