47 / 98
15章 はじめての名前呼び
47話 ペンギンよりも強いおまえは白鳥だ!
しおりを挟むもっと、この気持ちがお互いに早く共有出来ていたらと一瞬思った。
でも、当時の私たちには許されない関係だったから、学校という環境の中にいる限り、秘密であり続けることは難しかったかもしれないよね。
「先生、ありがとうございます。こんな私を選んでくださって」
「原田以上を探すって、めっちゃ難しいぞ。ただな、おまえの魅力は同級生じゃ難しかったかもしれない。これまでフリーだったのが嘘みたいなんだから」
先生が私の手を取って立ち上がる。
「これからはオープンだ。よろしくな」
「はい。お願いします」
水槽ゾーンを出てみると、雨は止んでいた。
うっすらと日差しも出ている。今日は降ったり止んだりの繰り返しだと言っていたっけ。空を見上げると雲の流れが速いからまた雨雲が来てしまうかもしれない。
地面もフェンスも濡れているけれど、屋外飼育のペンギンを見たがる私に先生は笑った。
「水族館に来て、魚やイルカとかではなくそんなにペンギンが好きなのか?」
不思議がる先生。
そうだよね、でももう黙っている必要もない。
それでまた新しいことが見えてくるかもしれないのだから。
「ペンギンさんは鳥です。でも空は飛べません。陸の上ではよちよち歩きで決して早く動けるわけでもありません。自然界では敵に狙われてしまう弱い存在です。……私も同じでした。小さい頃から友達を作るのが下手で、運動神経も鈍くて、勉強もできなくて。おまけに病気までして。周りの子はみんな自然と持っているものも、私は逆に失った方が多かったくらいです」
「原田……」
先生が私を見ている。
大丈夫、心配しないで。
もう平気です。
「その代わり、あの子たちは水の中では自由に泳ぎ回れます。鳥の仲間にも水中に飛び込んだりする種類はいますし、水面をスイスイ泳いでいるどんな水鳥さんだって、水の中に潜ってしまえばペンギンさんには敵いません。あんなふうに私もどこかで強くなりたい。そう思っていたんです。そして今日、私も誰にも負けない幸せを受け取れました。だから、これで帳消しです。ううん、プラスになったと思います」
「原田……」
先生が私を抱きしめてくれる。
きっと私の鼓動は先生に伝わっていると思う。そのくらい力強かった。
「まさに『みにくいアヒルの子』の話そのものだな」
「お話だったら、そうかもしれませんね」
「例えが重なったり混じって申し訳ないが、おまえは周りのアヒル連中じゃない。ペンギンよりも辛い寒さを乗り切って、いつの間にか誰にも負けない立派な白鳥になっていて、どこまでも飛んでいける力もあるんだ。もう、そんな過去の心配をしなくていい。後ろは見るな。自信もって前だけを見ろ」
「はい。今日からはそれができそうです。でも、それならそれで、私にも目標を作りたいと思います」
先生の相手になるのが今の私のままじゃ、本当に申し訳なさすぎる。
学校を辞めたあと、茜音さんや菜都実さんのところで働くようになってから、私がこの先を生きていくために必要かもしれないと思っていたことを始めようと、この時強く思ったんだよ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】お茶を飲みながら -季節の風にのって-
志戸呂 玲萌音
ライト文芸
les quatre saisons
フランス語で 『四季』 と言う意味の紅茶専門のカフェを舞台としたお話です。
【プロローグ】
茉莉香がles quatre saisonsで働くきっかけと、
そこに集まる人々を描きます。
このお話は短いですが、彼女の人生に大きな影響を与えます。
【第一章】
茉莉香は、ある青年と出会います。
彼にはいろいろと秘密があるようですが、
様々な出来事が、二人を次第に結び付けていきます。
【第二章】
茉莉香は、将来について真剣に考えるようになります。
彼女は、悩みながらも、自分の道を模索し続けます。
果たして、どんな人生を選択するのか?
お話は、第三章、四章と続きながら、茉莉香の成長を描きます。
主人公は、決してあきらめません。
悩みながらも自分の道を歩んで行き、日々を楽しむことを忘れません。
全編を通して、美味しい紅茶と甘いお菓子が登場し、
読者の方も、ほっと一息ついていただけると思います。
ぜひ、お立ち寄りください。
※小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にても連載中です。
観察者たち
崎田毅駿
ライト文芸
夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?
――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。
ある日の事
病弱体質
エッセイ・ノンフィクション
私が甲状腺がんとバセドウ病(甲状腺機能亢進症)だと診断されるまでの工程を書きます。
長いですよ。
3年前から精神疾患により訪看(訪問看護)を利用していた。
知らない人の為にざっくり説明すると、自宅に来てくれてバイタルやメンタル、薬の管理等をしてくれます。
そして、訪看を利用し始めて2年が過ぎた頃、妙に息切れや血圧や脈拍が早かった。
それは自分自身感じていた。
なぜならデブだから笑笑
だから、気にもとめていなかった。
でも、特にその症状以外支障がなかった。
でも、訪看さんにこの数値は異常だから循環器内科を受診した方がいいかもしれない
と言われた。
その時も聞き流すだけで、病院には行かなかった。
でも、本当に微量ながら体調が悪かった日がちらほら出てきた。
少し、ネットで調べてみる事にした。
やはり、いろいろな病名が出てくる。
早めに受診しないと心臓系なら死ぬ可能性もあると書かれていた。
少し、怖くなり有休を使って次の日に近所の循環器内科を受診する事にした。
次の日
田舎なので個人病院も少ない。
そして、近所の循環器内科に行き受付をしようとしたら
「原則予約制ですので、予約が無いと見れません」と。
……!?😳
病院自体は古くホームページも無かったから前日の診療時間内に電話で確認したら予約は必要無いので明日診療時間内に来て下さい。
って言われたんですが…
と、私が言うと 決まりですので。と。
は?となりました。
情けないですが、あまりにも腹が立ち少し声を大にしておかしいでしょ、こっちは言われた通りに来たんですよ と言ってしまった。
そしたら、診察室に居た院長さんが出てきて話を聞いてくれた。(この時病院自体に患者さんは誰1人居ませんでした。)
全て事情を話したら、すごく謝ってくださってこちらが悪いので予約無しでも見ますよと言って下さいました。
その後すぐ、診察室に呼ばれて採血やら必要な検査を受けた。
採血は結果が出るまでに1週間以上かかるから1週間後にまた来て下さいと言われた。
その時心電図や心拍数やらいろいろ検査した結果、
上室性発作生頻拍(じょうしつせいほっさせいひんぱく)と診断された。
採血で異常が無ければこの診断で確定できるけど、まだ分からないから仮で診断名を付けとくねと。
このままだと、心臓カテーテルアブレーションをしなければならなくなるから薬を飲んで安静にしといて下さいと言われた。
薬は1種類だけ。
頻脈を抑え血圧を下げる薬が処方された。
仕事をしばらくお休みを頂き、薬を飲みながら安静にしていた。
その薬を飲むとほぼ症状が出なく過ごしやすかった。
でも、1日でも飲み忘れてしまうと症状がぶり返してしまうと言う感じだった。
そして月日は流れ1週間後になった。
続く。
彼女(幼馴染)が親友と浮気したから親友の彼女(元カノの双子の妹)と復讐した結果、理想の彼女ができた。
東権海
ライト文芸
「お姉ちゃん、捨てたんだから私が貰ってもいいよね?」
彼女(幼馴染)が浮気した。
浮気相手は親友、しかも彼女持ち。
その彼女は幼馴染の妹。
「寝取ったんだから寝取り返してもよくね?」
浮気した二人への親友と(義)妹と幼馴染による復讐劇。
復讐が終わればもちろん関係は一気に甘々に…。
更新は当面の間毎日です。
初めての作品です。色々至らないことがあるかと思いますが、よろしくおねがいします。
カクヨムにて投稿しているものをこちらで連載する形になります。アルファポリス限定の特別ストーリーをたまに混ぜつつ投稿します。
僕は、来世のきみと恋をする〜未来の約束〜
たかはし 葵
ライト文芸
これといった夢もなく、何の取り柄もない平凡な“僕”は、高校入学早々にクラスメイトの美少女の世話を焼くことになった。
彼女と関わっていくうちに変わっていく未来。彼女は僕の導(しるべ)となり、来世へと希望を繋ぐ。
※作中に「悪性不良性貧血」という病気についての描写があります。不快に思われる方、地雷な方はお読みにならないことをお勧めします。
※同じお話を「小説家になろう」でも公開しています。当初は4話完結としていましたが、来世のふたりがおしゃべりを始めた為、続きを書くことにしました。
わたしの中のノイズ~ある少女の欠落~
かみゅG
ライト文芸
わたしの中にはノイズがある。
たとえば、両親と朝の挨拶を交わすとき、こう聴こえる。
「お■■さん、おかあさん、おはよう」
「おはよう、■■■」
「■■■、おはよう」
でも、日常生活で支障が出ることはほとんど無い。
ノイズとの付き合い方は慣れている。
そんなわたしは、今日から高校に通う。
これは欠落を抱えた少女の、ごくごく平穏で、でもちょっとだけ不思議な物語。
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる