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26章 クリスマスイブの予約
第99話 お願い…叶っていたんですよ
しおりを挟む「外に出てみようか」
「はい」
寒さは感じるけど、暖房で火照った体に海風はかえって気持ちがいいくらい。
もう港の中ではなくて、東京湾に出てからの海岸沿いの明かりが並ぶ。それだけでもイルミネーションのように輝いて、いつもの生活とは別の世界にいるように感じる。
「いつも、春先になると思い出していた。あの子のところに帰らなくちゃと……。でも気持ちも確かめずに出ていったのは俺だ。嫌われていても当然だと思っていた」
「ううん……」
「それなのに、あの子……松本は待っていてくれた……。まさかと思うような再会だったけど、俺は……」
「先生? 私ね、もう願いがかなっちゃったんです。もう一度大好きな人に会って、その人のことをもう一度昔と同じように呼びたい。それはもう出来ちゃいました。だから、私は後悔しません。これから進む道がたとえどんなにでこぼこでも、茨の道だったとしても、私は前を向いて歩いていけます」
「強いな……松本花菜は……」
「いいえ……。長谷川啓太さんがいてくれるから……。私は無茶苦茶な道でも歩けるんです……」
「まったく……。先に言われちゃったな」
「えっ?」
「松本……、手を出してくれないか? 違う、左手だ」
私に手を出させておいて、先生は片手をポケットの中に入れる。
「目をつぶってくれないか?」
「はい」
目を閉じた私の左手、薬指にそっと何かがはまった。
「もう開けていいぞ」
ホワイトゴールドの細いリングの上に透明な石がひとつ取り付けてある。
まさか4月の誕生石でもあるダイヤモンド? いや、これは無色のクオーツ・クリスタルだ。私の誕生日石だ……。
「あの……、これ……」
そういうこと……って理解していいんだよね? サイズもぴったり。私のためにこれを作ってくれたってことなんだよ……ね?
「花菜ちゃん、フライングのセリフだけど、時期が来たら結婚しよう。こんなやり方して卑怯かもしれない。ただ、今のうちに伝えておかないと、次こそ手が届かないところに行ってしまいそうで……」
「……ううん……。今のうちでいい。未熟者ですけど、お願いします……。どうか、もう……一人にしないでよ……」
「分かってる。もう絶対に離さない」
涙で視界がぼやけている。
でも、今はお願い……。この腕をつかんでいたい。
ベイブリッジのイルミネーションの真下を通るとき、私は上を向いたまま目をつぶった。
唇を柔らかく塞がれて、涙が目尻からこぼれ落ちる。でもその涙は今まで感じたことがないほど温かかった。
「言っちゃったな。ショックだったか?」
「いいえ。将来まるごと予約されちゃいました。取り消しは無しですよ?」
「本物のダイヤモンドはまた今度な。まだちょっと早いと思って……」
「ううん、これで十分すぎるよ」
「学校には付けてくるなよ?」
「そんな事したら、私のほうが自滅します。これまで学校では誰からもプレゼントを貰ったことがないのですから。誕生日も春休み中でそんな話題にもなりません」
「それもそうだな」
少し着ぐずれてしまったコートを直してくれて、先生は私の唇をもう一度そっと温めてから笑ってくれた。
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