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22章 「純愛物語」の大先輩
第82話 生徒と先生の関係は誰でも悩むよ
しおりを挟む「懐かしい……ですか?」
お兄ちゃんが不思議そうに聞く。
「なんてことはないです。僕も担当した教え子に一目惚れして、最終的にはその子と結婚した不良教師ですからねぇ。結花はそのたった一人の生徒ですよ」
代わりに陽人さんが笑って結花先生の肩を持つ。
結花先生が私にしてくれたお話の内容を掻い摘んでお兄ちゃんにもお二人のことを話してくれた。
結花先生も悩んでいたと話してくれたけど、お相手の陽人先生も本当に悩んでいたんだ。
押し付け委員長から始まって、それでも誰かのためにならと努力する学校生活の繰り返し。貧乏くじばかり引かされていた目立たない女子生徒。
そんな教え子が辛い闘病生活を送りながらも紡いでいた儚い想い。
受け止めてやりたくても自らは担任の教師であるという関係に悩みながら結果としては一度突き放すしかなかった。
「答えは最初から分かっていたのよ。だから恨んだりもしてないし、当然のことだと思っていたわ。それよりもお返事の手紙をいただけたことが本当に嬉しかったのを覚えてる」
「ダメだって書いたのにな。本当に不思議な奴だ」
「だって、小島先生から個人的な気持ちの書かれたお手紙をもらったのは、私が最初で最後の生徒だったんですもの。私も『好きです』なんて書いたのは人生であの1回だけ。夜の病室でめそめそ泣きながらね」
「結花先生……」
「今の未来があると当時わかっていたら、そんな情けない姿は見せなかったでしょうけどね?」
自分への返事を書くために時間を割いてくれた。それだけで十分だったはずなのに、二人の間で交わされた『学校を卒業する』という約束を守れない選択をしたことで結花先生をずっと苦しめてしまったなんて。
「遅かれ早かれ原田結花の退学はあり得ると予想はしていました。本当に辛そうなときも、僕の前では必死に笑ってくれましたから。でもその状況を作り出してしまったのは自分です。休学や退学もやむを得ないと話しておけばよかったかもしれなかったな」
「仕方なかったの。あれがあのときの私たちの限界だったんだから」
普通ならそれで終わるのに、結花先生が高校を退学されたことに責任を感じて、陽人さんも高校教師という職を辞めてしまったことが、この二人の絆の強さだと驚かされる。
これで半ば強引にとはなるけれど「教師と生徒」という殻を破った。
偶然の再会。変わっていなかったお互いの想いに、止まっていた時間を取り戻すように気持ちを育んでいった。
お仕事の関係で離れ離れに暮らすことに耐えられなかったお二人は、中卒という学歴が陽人さんのお仕事で迷惑にならないように高卒認定の受験を受けたし、陽人先生も結花先生のご両親に二十歳前での結婚を直談判。
最終的には、二人の絆の強さを理解してくれた双方のご両親から、「この二人の間だけ」という条件でお許しを取り付けた。
最後はニューヨークでお仕事をしていた陽人先生の元に結花先生は一人で飛び立って、夜景を見下ろしながらのプロポーズを受け取ったなんて、ヘタなドラマよりもドキドキしてしまうような純愛ストーリーだ。
珠実園で、結花先生がご自分のことを「みにくいアヒルの子」と重ね合わせていると聞いたことがある。
あの物語の最後は、行くところがなくなったアヒルの子が水面の自分の姿を見て、自らがアヒルではなく憧れていた白鳥だと気づき、仲間に暖かく迎えられるところで終わっている。
そうなんだ。絶望の淵から何度も落ちそうになるのを周囲の味方に助けられ、最後は自分の力で陽人先生のところに羽ばたいていった。
結花先生の小物に白鳥のモチーフが多いのは、そこから来ているんだ。陽人先生がニューヨークに渡ってきた結花先生のことを「自分だけの白鳥」と呼んだことからスタートになっていると。
「僕たち二人のやったことは、真似してくださいとは絶対に言いません。相手が結花だったからできたことです」
結花先生の懐の深さは、これだけの愛情を受けて、辛い思いを乗り越えて、最後には自分たちが決めたゴールに助け合ってたどり着けた経験があるからなのだと。
これはきっとご自宅にこう招待してもらえなければすべてを知ることはできなかったと思う。
「さすがに、みんなの前でこれ全部を話すわけにいかないじゃない? だから今日はこの席にしたの」
あまりにも壮絶な人生を歩いてきた結花先生たちに私もお兄ちゃんも声が出なかった。
「私もお母さんいなくなっちゃったし、学校辞めちゃってもいいのかもな……」
「花菜ちゃん、学校に通えなくなったわけじゃない。それは本当に打つ手がなくなったときの最後の切り札なのよ。私も学校を辞めて、陽人さんには本当に迷惑をかけてしまったから」
「そうですか」
この先のこと、特に就職についてはほとんどが高校卒業程度と求められてしまう。
高卒ということを最初にお二人が確認したのは、ご自身たちの経験から言っていたのだとようやく気づいた。
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