異世界無宿

ゆきねる

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第十三章 陰謀の気配

第百七十話 微温くはない

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マスタングが特定した通りの結果に満足しつつ、イズミは左側の男に近づいた。

「そうか、コッチが術者か」

「帝国出身の魔術士だ…俺は帝国出身じゃないからな!」

イズミは右側の男の右眼に刺していたナイフを抜き、改めて質問を続けた。

「では帝国出身の魔術士に聞くとしよう…目的や依頼主は?」

叫び声が止まないので、ナイフの柄で男の頭を叩く。

「聞こえたか?目的と依頼主を答えろ」

「ぐぅ!…言うとでも思うのか?」

「言わないなら、次は耳か指が無くなるだけだ」

イズミは涙を流す男の左眼にナイフを見せつける。
既に痛めつけているので、躊躇はしない男だとは認識していると踏んでいると仮定して行動に移す。

口を割らないと判断したイズミは、右耳を切り落とそうとナイフを持ち直して男に近づく。
男の左眼が捉えたイズミの目には、光が無い。
本気なのだ。

「止めてくれ!頼む!…目的は、情報収集と殺しだ」

白状すると言うので、イズミは男の耳を切るのを止めて話を続けされる。

「ある貴族の女が使う魔法について調べるのが1つ、調べた結果危険と判断したら殺す。それが依頼内容だった」

「では、何故隷属の魔法を使う必要がある?」

「此方の足を掴ませない為だ。隷属の魔法であれば、拷問をされても自白を封じ込められるし、自刃も強制出来る」

ナイフに付いた血を拭き取りつつ、依頼主に関しても聞く。

「依頼主は俺達じゃ分からないんだ…いつも上の連中から指示が来るだけだからな」

「…そうか。隷属の魔法を無傷で解く方法は?」

「細かな違いはあるが…魔法の発動者が直接解除するか、発動者が死ぬかだ」

「では解除してもらおう。解除するなら、殺さないでおいてやる」

イズミがナイフを仕舞ってから、ゆっくりと立ち上がって指示をした。

「おっと、変な事は考えるなよ?小細工をしたら…地の果てまで追いかけて、生きたまま魔物の餌にしてやる」

顔を真っ青にした男が、左腕に描かれていた模様に右手を合わせる。
青白い光が灯ると模様が薄くなり、やがて綺麗に消えた。

「…これで隷属の魔法は解けた」

「分かった。では、アンタらを殺すのは止めておくとしよう」

イズミは2人を解放してから、ベリアと一緒にマスタングへと戻った。

「イズミ、あの2人を逃がして良かったのか?」

「あぁ。戦闘以外では優しい方が良いと思ったのだが」

「微温いな。微温過ぎるぞ」

ベリアが助手席であくびをして、男達が走り去った方角を見ていた。

「屋敷へ連れ帰って、もっと色々と聞いた方が良かったかもしれない」

「そうでもないぞ?奴等の魔法反応は追跡中だ」

「追跡?」

ベリアが聞き返して来たので、マスタングのモニターを指差す。
モニターには2つの赤い矢印が点滅している。

「逃げた先まで反応を追跡しておいて、動きが止まったらそこが別のアジトだと判断出来る」

「そんな魔法、初めて聞いたぞ」

ブロズムナード辺境伯の屋敷に戻る途中で、イズミに眠気が接近して来た。
コーヒーを飲んでいても、眠気はやって来るのだ。
帰ったらベッドでグッスリ眠りたいと思いつつ、安全運転を心がけてステアリングを握る手に力を込めた。


イズミ達が辺境伯の屋敷に到着すると、ゾルダが状況を報告してくれた。

「隷属の魔法に関してだが、少し前に消えたよ。解除させられたのだな…術者は捕らえられなかったのか?」

「無事に消えたのは何よりだ。術者は逃がしてやったよ…現在追跡中だ」

イズミはマスタングのルーフをなでつつ話を続けた。

「何日か泳がせる。奴等の拠点を絞ってから、次の動きを考えるさ」

夜空を見上げると、氷像も視界に入り込んだ。
氷は未だに溶け始めておらず、優しい微笑みを浮かべているように見える。

「今日はもう寝るとしよう。明日から何かと忙しくなるだろうからな」

イズミは静かにマスタングのドアを閉めた。
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