異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
上 下
176 / 227
第十三章 陰謀の気配

第百七十一話 ナイフの練習

しおりを挟む
朝日が氷像を照らし、この街に朝が来た事を告げる。
その氷像の足元では魔法の訓練をしている者や、身体を鍛えている者、アーティファクトを洗っている者と三者三様である。

「エレナ、ありがとう。洗車には水が不可欠だからな」

「いえいえ、水魔法の練習にもなりますので」

一度水をかけ、使い古した布で汚れを落とす。
再度水をかけてから、マスタングが実体化したタオルで車体の水を拭き取る。

吸水性の高いマイクロファイバータオルであり、触り心地も良い。
しばらくすると、輝きを取り戻したマスタングが氷像の前に居た。

「氷像の足元にマスタングか…なんか映えるな」

イズミが腕を組みつつボヤいていると、ベリアがマスタングのボディを見つめている。

「おぉ!顔が写ってる」

綺麗になったマスタングは反応していないが、嬉しそうに見えるのは気の所為だろうか。

「洗い終わったなら、練習に付き合ってくれないか?」

ベリアが木製のナイフ…訓練用だ…を持ってニコリと笑う。

「ナイフは苦手なのだが」

断れない雰囲気だったので渋々ナイフを受け取ると、左手で軽く振って感覚を確かめた。

「左持ちなのか?」

「あぁ。右はコイツを持ってる事がほとんどだからな」

イズミはショルダーホルスターに仕舞われたマグナムを軽く叩くと、身体を伸ばして準備運動をした。

「じゃ、緊急時用で後で右でもやろう」

イズミがナイフを構えた瞬間、ベリアは獣人の戦闘速度で接近して来た。
練習とは言っても、最初から全力なのだろうか?

初手の攻撃は何とか避けられたが、2度目からは下半身が動きに追い付かない。
上半身をのけぞるようにして避けると、ベリアは身を引くと同時に足に1撃切り込んで来るのだ。

人間離れした動作に…獣人なので厳密には人間とは違う…イズミは防戦どころかコテンパンにされていた。


「イズミ…全体的に身体が硬いぞ。動きも最初は良いけど、すぐに重くなって避けきれてない」

「…あのな、ベリアと一緒にしないでくれ。近接戦闘は苦手なんだ」

「近接戦闘とか言う前の問題だぞ、イズミは体力不足だ。強力な武器を扱っているが故に、武器に頼り過ぎているんだ」

イズミは肩で呼吸をしているが、ベリアはケロッとしている。

「なるべく一方的に攻撃を繰り出せる状況作りを心がけているのだが」

「それでも、本気の獣人や魔族を相手にしたら、今のイズミでは厳しいぞ。まだアタイもウォーミングアップだし」

信じられない言葉を発したベリアがイズミから20m程距離を取ると、少し身体を伸ばす動作をした。

「じゃ、試しに」

そう言うと、1秒も掛からずにイズミの目の前までやって来た…と思ったらナイフをはたき落とされ、イズミは背後を取られていた。
喉元にはピタリと訓練用のナイフを当てられている。

「…速いな」

「アタイでもコレだから、もっと強いヤツなら追加で数発は攻撃が入るぞ」

「あの移動速度は、ベリアの特殊能力なのか?」

イズミから離れたベリアが、欠伸をしてから答えた。

「いや?猫の獣人は皆んな足は速いんだ」

どうやらベリアが特別な訳では無いらしい。
そうなると、先程の動きにも対応出来ないと、速攻であの世行きになるのか。

相手が本気になる前にホルスターからマグナムを抜き、初弾を命中させられないと瞬きをする間に命の危機へ直結とは…
ショットガンなら希望はあるが、相手が手練れで2人以上いたら無理だ。

「やれやれだな」

イズミは汗を拭きながら、訓練用のナイフを右手に持ち替えた。

その後、ベリアにコテンパンにされたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する

覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。 三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。 三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。 目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。 それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。 この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。 同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王> このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。 だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。 彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。 だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。 果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。 普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...