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氷迷宮の迷い子編

24話 竜龍族のリーナ

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「「いただきます」」

 僕たちは食事を手に取り、束の間の休息に入る。

「……んんっ、お魚美味しいです」
「うん、淡白な味わいの中にしっかりと旨みがあってめちゃくちゃ美味い! なんていう種類の魚なんだろう? ゲーム内にも釣り自体はあったんだけど、あまりやっていなかったからここら辺の知識は乏しいんだ」
「クーラでも知らないことがあるんですね」
「買い被り過ぎだよ。僕だって知らないことはいっぱいある。今も魚がちゃんと焼けたかどうか、生焼けじゃないかどうか心配してたりもするよ」
「ふふ、生焼けでも問題ありません。今の私は猫ちゃんですから」

 ナコがドヤ顔で言う。

「あはは、食べ終わったら睡眠を取ろうか」

 ダンジョンは朝と夜の判別がつかない。
 基本的に陽の光が当たらない場所が大半であるが、ダンジョンの至るところにある魔水晶ますいしょうが光を放つので視界不良を感じることはない。

 時間を判断する術はマップ機能に付属した時計が主となっていた。
 現在は夜更け、休むにはベストな頃合いだろう。
 僕はアイテムボックスからある装備を取り出し、

「このマント、氷耐性があるから寝袋みたいにくるまって寝るといいよ」
「ありがとうございます」

 名をフリーズマントという。
 念のため、アクアニアスのホームからは耐性の付いた装備を何種類か持って来ていた。
 その他、フレイムマント、アースマント、ウィンドマント、諸々――名前からしてわかりやすい。
 ナコがフリーズマントを頭から可愛らしく被り、僕の方をじーっと見つめてくる。

「クーラも一緒に寝ませんか?」
「僕はまだ眠くないから大丈夫、気にせず寝てくれていいよ」
「……じゃあ、私もまだ眠くありません」

 ナコが不満気に頬を膨らませながら言う。
 もしかして、一緒に寝ようって――フリーズマントを二人でくるまってって意味だったのかな。
 僕は別に全然構わな――いや待て、いくら今は同性といえどコンプライアンス的にいいの?
 僕は手招きし、そばに呼び寄せる。

「おいで。眠くなるまで話でもしようか」

 と、ナコを抱いて膝の上に乗せ――その上からフリーズマントを覆った。
 ナコが目を細めて僕の胸に頭を預ける。
 なんだか、小さいころの妹を思い出して懐かしい気持ちになった。

「機嫌は直りましたか? お姫様」
「ふふ、直りました」
「ナコは素直だね、僕の妹にそっくりだ」
「クーラの妹さんは、おいくつなんですか?」
「高校二年生、僕とは5歳差になるかな」
「……5歳差? クーラーは成人していたのですね」
「実はお酒も飲めちゃう年齢なんだよ」

 そういや、この世界のお酒ってどんな味がするんだろう。
 お酒は好きかきらいかでいうならば好きな方である。ウィンディア・ウィンドに着いたら一回酒場にでも行ってみようかな。

「クーラはもとの世界ではお仕事していたのですか?」
「ううん、まだまだ勉強中だったよ。お医者さんを目指していたんだ」
「お医者さんの卵ですか?」
「そうなるのかな。身体のことについては多少知識があるよ」
「なんだか格好いいです。私が病気した時は隅々まで診察してくださいね」
「……隅々まで」
「どうかしましたか?」

 ナコを診察かぁ。
 僕に医師免許があるわけでもなし、小学生の女の子とお医者さんごっこをする大人ってだけになるような。
 絵面と文字面のパワー感がすごい。
 素直に了承できない僕、そんな中ナコが口もとに手を当てながらポツリと、

「……でも、クーラは私と10歳差くらいなんだ。この世界だったら問題なさそう」
「急に真剣な顔してどうしたの?」
「なんでもありません」

 なにやら満足気に微笑むナコであった。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ナコ、紅茶入れたけど飲む?」
「……飲みゅ、ます」
「ナコ?」
「……」

 気付けば、ナコの口から寝息が漏れていた。
 すぅすぅと、愛らしい寝顔――僕は起こさないよう、ナコをフリーズマントに包み込みそっと地面に寝かせる。

 僕は残り火を見守りながら、ゆっくりと紅茶を飲む。

 ガルフの一件もあるためイレギュラーがないかを警戒していた。
 安全と思われたゴーレムが襲いかかってくるということもありえる。

「……中々、休まる時がないな」
「わかるわかる、厳しい世界だよねー」
「ごふぉぶぁっ?!」

 唐突な相槌に驚きむせ込んでしまう。

「ありゃ、大丈夫? 背中トントンしてあげようかー?」

 声の主の方を見やる。
 澄み切った空のように青い髪色、大きく尖った黒い角が2本、手の甲には頑丈そうな黒い鱗が覆っている。
 この特徴的な姿は――竜龍リュウリュウ族だ。
 竜龍族の女の子はナコに入れていた紅茶を勝手に飲みながら、

「ふはぁ、この紅茶爽やかな味で美味しいー。おかわりしてもいい?」

 敵意は、ないのか?
 僕は触手をこっそり展開させ、なにが起こってもいいように――水面下で戦闘準備を整えておく。

「きひひ、警戒しなくていいよー。リーナは悪いプレイヤーではないのだっ! なんちゃってね」

 リーナという人物は付け加えて、

「周囲に張り巡らせたスキル、解除してくれると嬉しいなー。リーナは本当にお話がしたいだけだからさ」

 察知していたのか。
 危険を承知した上で、さらに自身がプレイヤーだということも伝えた上で、友好的な態度を取ってきているのだ。
 僕は触手を解除し――彼女の気持ちに応えるべく本音を伝える。

「ごめん。ここに来るまでに色々とありすぎて過敏になってるんだ」
「気持ちはわかるよー、あなたもプレイヤーだよね。その慎重な判断はリーナもすごく正しいと思う」
「僕の名前はクーラ、よろしくね」
「クーちゃんだ! あ、リーナのことは気軽にリーナって呼んでね」

 く、クーちゃんか。

「僕とナコは――そこで寝ている子なんだけど、ウィンディア・ウィンドを目指して二人で旅をしているんだ。わけあって追われている身分でね、ダンジョンを経由して身を潜めながら進んでる」

 僕は逃げている経緯を素直に話す。
 一瞬、誤魔化そうかとも考えたが――触手を察知したリーナの洞察力、嘘は吐かない方がよいと判断した。

「そっかそっかー。こんな辺鄙なところに来る人少ないからさ、どんな理由があるんだろうって気になっちゃって。やーでもタイミング悪いなー」
「タイミングが悪い?」

 リーナは腕を組みながら渋い顔付きにて、

「今、ウィンディア・ウィンド方面の出入り口は封鎖されてるんだよねー」
「封鎖!?」

 思いがけない返答に疑問符が飛び出る。

「最近このダンジョンに来たプレイヤーらしき人がゴーレムと派手に戦闘してねー。暴れに暴れ回って出入り口付近で崩落が起きたの」

 リーナは次いで、

「出入り口は完全に埋まっていて隙間もない状態、もともと人が来ることのないダンジョンだから支障は全くないんだけどねー」

 僕にとっては非常にまずい。
 引き返して――飛車に乗って空路に切り替えるか? いや、アクアニアスに戻るわけにはいかない。
 僕の困った様子を見かねてか、リーナがこんな提案をしてくる。

「クーちゃんに出会ったのも縁だからね、リーナがお手伝いしようかー?」
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