末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

文字の大きさ
152 / 180
最終章 王子と令嬢の結婚

2.お魚四号さんとオリーヴィアさんの卵

しおりを挟む
 夏休みの終わりに魔窟に狩りに出かけた。
 ロヴィーサ嬢が狩りに行くときには、セシーリア嬢もついてくるようになっていた。
 僕も風の魔法が使えるのだが、魔法の使いどころがよく分かっていなくて、役には立っていない。ロヴィーサ嬢が水の中に入った後で、出て来たときに髪と体を乾かすくらいしかできることはなかった。
 それでもロヴィーサ嬢は僕が役に立っていると言ってくれる。

「びしょ濡れのままお屋敷に帰らなくて済むようになりました。エド殿下の魔法は助かります」
「これくらいしかできませんが」
「充分です」

 狩りをしている間は、僕は見ていることしかできない。
 セシーリア嬢は氷の盾で身を守ったり、氷の刃でモンスターの足止めをしたりする。僕もあんな風に魔法を使えたらいいのにと思い始めていた。

 魔窟に行くとオリーヴィアさんが嬉しそうに報告してくれた。オリーヴィアさんが大事に抱いているのは三つの中が透けている卵である。丸い卵の中には白い小さな胎児が丸まって入っている。

『新しい卵を産みました。上の子も大きくなってきたので』
『にーた』
『ねーた』
『赤ちゃんが生まれてお兄ちゃんとお姉ちゃんになるのを楽しみにしているんですよ』

 お魚五号ちゃんとソイラちゃんは自分をお兄ちゃん、お姉ちゃんだと主張している。卵に近寄って大事そうに撫でているのもとても可愛らしい。

「マーメイドは三個卵を産むのですか? 前回も三個だったとお聞きしましたが」
『一個から四個産むのが普通ですね。私は三個産む体質だったようです。前回が初めてのお産だったので、産むまでは知りませんでした』

 マーメイドによって何個卵を産むかは決まっているようだ。オリーヴィアさんは三個卵を産む体質だったと自分で言っている。

『前回は一個孵化しませんでした。どれだけ手を尽くしても、卵が濁って行って、中の赤ん坊が死んでいくのを止められなかった。今回は三個とも孵化するように祈っています』

 前回の出産で卵が一個死んでしまったのは、お魚四号さんにとってもショックなことだったようだ。今回は全ての卵が孵るように、僕も祈らずにはいられなかった。

 卵の大きさはグレープフルーツくらいだが、これから大きくなるのを知っている。お魚五号ちゃんとソイラちゃんが入っていた卵を見せてもらったときには、人間の頭くらいまで大きくなっていたのを僕は覚えている。

「卵に触らせてもらってもいいですか?」
『どうぞ。優しく触ってください。中の胎児が大きくなるように、殻がとても柔らかいのです』

 僕のお願いにオリーヴィアさんは卵を差し出してくれる。そっと卵を抱くととくとくと鼓動が手に伝わって来る。確かに生きているのだと実感する。
 卵の殻は柔らかく、直に胎児を抱いているようで僕は不安になってしまう。

「わたくしも失礼します」
「わたくしも、よろしいですか?」
『いいですよ。その子はたくさんのひとに愛される子になるでしょうね』

 お魚四号さんもロヴィーサ嬢とセシーリア嬢が卵に触れるのを許してくれる。優しく両手で抱き上げて、ロヴィーサ嬢とセシーリア嬢が顔を見合わせている。

「こんなに小さいのに、心臓の鼓動が伝わってきます」
「柔らかくて暖かくて、この子も生きているのですね」

 生きている大事な命がこれから健やかに育っていくことを僕は願うだけだった。

 魔窟の中で、ロヴィーサ嬢は巨大な鶏そっくりのモンスターを狩った。
 ロヴィーサ嬢の狩ったモンスターをセシーリア嬢が凍結して鮮度を保つ。

「鶏のモンスターをいただきました」
『鶏のモンスターを一匹ですね』

 魔窟の入口に戻るとロヴィーサ嬢はお魚四号さんに伝えて記録してもらう。
 帰ってからロヴィーサ嬢は鶏のモンスターを捌いてお肉にしていった。

「今回は何を作るのですか?」
「焼き鳥を作ろうと思います。レバーと皮はたれにつけて、他は塩で」
「焼き鳥ですか。鳥を焼くだけですか?」
「串に刺して焼くのですよ」

 切った鶏肉をロヴィーサ嬢が串に刺していく。
 肉の間には玉ねぎが挟まれていた。

 鶏皮はたれにつけて、カリカリになるまで焼く。
 レバーはたれにつけてふっくらと焼き上げる。
 鶏肉は串に刺して、塩と胡椒で味付けして焼く。

 たれの焦げる匂いや、焼き上がっていく鶏肉の匂いで、僕は我慢できなくなりそうだった。

「鶏肉もこうやって焼くと全然違う料理になるのですね」
「たれで焼いても美味しいのですよ。塩とたれと二種類作りましょうか?」
「それでは、わたくし、たれを担当します」

 セシーリア嬢との話し合いで、塩とたれの二種類が作られることになった。セシーリア嬢が鶏肉をたれにつけて焼いている。
 美味しそうな香りに僕のお腹はキュルキュルと鳴いていた。

「ロヴィーサ様は鶏も躊躇いなく捌いてしまわれる。わたくしは、まだまだ、モンスターの捌き方は修行が必要ですわ」
「セシーリア様もお上手になられましたよ。もう少しでお一人で捌けるようになりますね」
「はい、頑張ります!」

 ロヴィーサ嬢とセシーリア嬢が仲良くしているのを見ているのも楽しい。
 僕はいつものようにご飯を炊いて、茄子の煮びたしを作って、ピーマンのじゃこ炒めも作って、手伝いをしていた。炊けたご飯はおにぎりにして海苔を巻いておく。

 セシーリア嬢は晩ご飯が魔族の国の宰相家に用意されているので、味見だけして帰って行った。
 二人きりで大量の鶏肉を食べるのはもったいなかったので、僕はクラース殿とロヴィーサ嬢のお父上を呼んだ。
 普段は離れの棟で食事をしている二人も、僕が呼ぶと母屋に来てくれる。

「いい香りがするね。今日は焼き鳥かな?」
「そうなのですよ、クラース様。匂いでよく分かりましたね」
「いい料理人は舌も鼻も鋭いものなのだよ」

 クラース殿は匂いだけで今日は焼き鳥と分かったようである。部屋中に香ばしい匂いが充満している。ロヴィーサ嬢はクラース殿を見上げているときに、何とも言えない安心したような表情をしている。
 死んでいると思っていた曾お祖父様が生きていて、自分のそばにいて、ミエト家を守るために尽力してくれていたと聞いたとき、ロヴィーサ嬢はどれだけ安心したことだろう。
 ロヴィーサ嬢にとってクラース殿もいなくてはならない家族になっているのだ。

「先ほどまでセシーリア様が来ていたようだね」
「そうです。セシーリア様と一緒に焼き鳥を作りました」
「ロヴィーサに心許せる親友ができたようで嬉しいよ」

 ロヴィーサ嬢のお父上もロヴィーサ嬢とセシーリア嬢が仲がいいことを喜んでいた。

 居間のテーブルについて、焼き鳥とおにぎりを食べる。
 カリカリの鶏皮にはたれがしみ込んでいてとても美味しい。レバーはふっくらとしていて、たれの味が絶妙だ。焼き鳥も塩とたれを選べるので、二度美味しい。
 もりもりと僕が食べていると、クラース殿が僕に聞いた。

「ご飯はまだ残っていますか?」
「はい、少しなら」

 僕がご飯を炊いていることを知っているクラース殿は、わざわざ僕に聞いたのだ。
 おにぎりではなく、ご飯を丼に入れて、クラース殿が串から外したたれ味の焼き鳥をご飯の上に乗せていく。焼き鳥で丼ができて、僕はじっとそれを見詰めてしまった。

「これにたれをかけたら美味しいのですよ。エドヴァルド殿下、召し上がりますか?」
「いいのですか?」
「エドヴァルド殿下が召し上がるかと思って作りました」

 自分用ではなく、僕用にクラース殿は作ってくれていた。焼き鳥丼には刻み海苔も散らしてあって、香りがいい。一口食べると、たれの味が口に広がって、僕はついついお行儀が悪いと分かっていても掻き込んでしまった。

「とても美味しいです」
「そういう食べ方もあるのですね」
「残った焼き鳥を次の日、卵でとじて親子丼にするのもいいよ」
「勉強になります」

 クラース殿はロヴィーサ嬢でも知らないレシピを知っている。
 ロヴィーサ嬢がクラース殿を頼りにする理由も分かると僕は食べながら思っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...