末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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最終章 王子と令嬢の結婚

1.ジュニア・プロムの思い出

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 五年生の試験が終わった後、夏休みに入る前にジュニア・プロムがあった。
 僕は当然、ジュニア・プロムにロヴィーサ嬢を誘っていた。

「ジュニア・プロムの会場では毒見の関係もありますし、何も口にできませんね」
「ロヴィーサ嬢の作ったものを持って行って、水筒に飲み物も持って行ったらどうでしょう」
「そうするしかないですね」

 みんなと同じものを口にできないというのは、やはり寂しいものがあった。
 アルマスがモンスターの肉から毒素を抜く技術を見出してから、王城ではその技術は積極的に使われていた。いつか飢饉が来たときにこの国では対応ができると示すためでもあったが、明らかに僕のためでもあった。
 バックリーン家でもハーヤネン家でも、僕のために料理が用意された。僕がそれを大量に食べることはなかったけれど、それでも同じ食事の場を共有できるという楽しみがあった。

 魔族の血を引いていればモンスターの肉や魔力の宿った食材を食べられると分かってから、エリアス兄上やエルランド兄上と同じものを食べていたが、父上だけは人間だったので同じものを食べられなかった。そのことを父上はずっと寂しく思っていた。

 今になって父上の気持ちが分かる。
 一人だけ別のものを食べなければいけないというのは寂しいものだ。

「エド殿下のお好きなミントティーを水筒に入れましょう。フルーツティーも入れて、どちらも飲めるようにしましょうね。サンドイッチは白身魚のフライと、ローストビーフと、フルーツサンドも作りましょう」

 僕の気持ちを分かっているようにロヴィーサ嬢が明るい声で言ってくれる。
 ミントティーもフルーツティーも僕は大好きだし、白身魚のフライのサンドイッチは僕の大好物だった。寂しい気持ちを盛り立ててくれようとするロヴィーサ嬢に感謝する。

「ありがとうございます、ロヴィーサ嬢。とても美味しそうです」
「今日は楽しみましょうね」

 白を基調としたドレスを着たロヴィーサ嬢の手を引いて講堂に入る僕。
 これ以上に美しいひとはいないと胸を張って言うことができた。

 アルマスはヘンリッキと一緒に参加していた。
 僕を見るとアルマスとヘンリッキが近寄ってくる。

「エドヴァルド殿下、いい夜ですね」
「ロヴィーサ様のドレスもとてもお似合いです」

 挨拶を受けてロヴィーサ嬢が優雅にお辞儀をする。

「アルマス様、ヘンリッキ様、こんばんは。三人で素晴らしい成績を修めたと聞きました。おめでとうございます」
「私はロヴィーサ様の言葉を胸に頑張っただけです」
「アルマス様がわたくしの言葉を?」
「いつも戦う相手は自分だと言われて、その通りだと思いました。ヘンリッキに教えているからなんて言い訳は通用しない。成績が悪ければ、私は自分に負けたのです」
「ヘンリッキ様に教えながら自分の成績も保ったのですね。さすがです」

 ロヴィーサ嬢に褒められてアルマスは照れ臭そうにしていた。
 出会った頃からだが、アルマスはロヴィーサ嬢を前にすると妙に態度が改まる。僕やヘンリッキの前だと乱暴な言葉づかいもするのに、ロヴィーサ嬢にはそういうことはない。

「アルマスはロヴィーサ嬢に対してとても丁寧だけど、それはなんで?」

 嫉妬半分に聞いてみると、アルマスが慌てる。

「だって、こんなお姫様みたいな方、俺は初めて会ったんだぞ? 出会ったときから淑女で、礼儀作法がきちんとしてて、アンニーナとアクセリの教育係までしてくれて」
「言われてみれば、わたくしは女公爵ですから、王族の次にこの国では身分が高いことになりますね」
「そうでした。ロヴィーサ嬢は公爵家の当主で、女公爵でした」

 お姫様みたいというアルマスの言葉も間違ってはいない。
 ロヴィーサ嬢は王族を除けばこの国で最高位の貴族になる。ハーヤネン家もエクロース家も当主は男性なので、ロヴィーサ嬢だけが公爵家の当主にある女性なのだ。

「ミエト家は女性が代々当主を継ぐようになっていますからね」
「それは理由のあることなのですか?」
「男性の当主が治めていた時代は争いごとが多かったと記録に残っています。もっと領民に寄り添い、争いを避けるようにと、女性が当主になるように決められたのだと聞いています」

 アルマスの問いかけにロヴィーサ嬢が答えている。
 ヘンリッキが難しい顔でアルマスを見ている。

「私に姉がいても、姉は別の家に嫁がされて、兄が当主になることが決まっていたでしょう。この国はまだ、女性の権利が確立していない」

 ヘンリッキの言葉に僕は花街のことを思い出した。
 花街ではそこで働かざるを得ない人々がいることを僕は学んだ。自立するためにその仕事を選ぶ女性もいると言っていたが、そういう仕事でないと女性が一人で生きていけないような国であることは確かなのだ。

「ミエト家は変わっていると思われるかもしれませんが、ミエト家の血にもその理由があります」
「どういうことなのですか?」
「ミエト家は男性が生まれにくく、女性の方が生まれやすいのです」

 遺伝的な問題があるのか、ミエト家には男性は生まれにくいのだという。そういえば、クラース殿が娘や孫について話していたが、誰も女性だった気がする。

「男性も生まれないわけではないのですが、女性の方が圧倒的に多いですね」
「僕は娘の父親になる可能性が高いのですね」
「はい、そうだと思います」

 遺伝的な問題まであったのか。
 ミエト家は本当に不思議な家だと僕は改めて思っていた。

「ロヴィーサ嬢、せっかくなので踊りませんか?」

 僕が手を差し出すと、ロヴィーサ嬢が僕の手に手を重ねてくれる。ふわりと白いドレスの裾が講堂の灯りを受けて光りながら翻った。白いドレスには薄紫の光る糸で刺繍が施されているのだ。

 ロヴィーサ嬢が僕に手を引かれて踊りの輪に入ると、周囲の視線が集まるのが分かる。ロヴィーサ嬢の美しさに誰もが目を引かれているのだ。

「エドヴァルド殿下が素敵だから、皆様、見ていますよ」
「ロヴィーサ嬢を見ているのですよ」
「いいえ、エドヴァルド殿下です」

 言い合う僕とロヴィーサ嬢。
 ダンスをしながら小声で話すのも楽しい。

 僕は背が伸びて少しばかり見目はよくなったかもしれないが、ロヴィーサ嬢の豪奢な黒髪、海より深い青い目、透けるような白い肌に、よく似合う薄紫の光る刺繍の入った白いドレスに適うはずがない。
 絶対に周囲のひとたちはロヴィーサ嬢に夢中になっている。
 そう思うと見せるのが惜しくなって、ダンスが終わると僕は端の椅子にロヴィーサ嬢を連れて行った。

 ロヴィーサ嬢の出してくれる水筒のフルーツティーを飲んで、一息ついて、サンドイッチを食べる。ロヴィーサ嬢もフルーツティーを飲んでサンドイッチを食べていた。

「ロヴィーサ嬢は会場のものを食べられるのでは?」
「毒見の観点からは食べない方がいいですし、エドヴァルド殿下と同じものを食べた方が美味しいです」

 僕に付き合ってくれるロヴィーサ嬢に、僕は幸せな気持ちのままジュニア・プロムを終えた。

 ジュニア・プロムが終わると、僕は夏休みに入った。
 夏休みには隣国の姉上のところに行って、ミルカとラウラと会ったり、王城の庭を散歩して白薔薇を見たりした。

 夏休みの終わりには僕は十七歳になって、ロヴィーサ嬢とキスをすることができた。
 キスをするまでもロヴィーサ嬢の唇が気になって仕方がなかったのだが、キスをしてしまってからはますますロヴィーサ嬢を意識してしまう僕。
 ロヴィーサ嬢とキスが成功すれば、またしたいと思うのだから人間は強欲だ。

 キスがしたいと僕が悶々と思っていることにロヴィーサ嬢は気付いているのだろうか。
 大人の余裕でかわされてしまいそうで、僕は次の手を練っていた。
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