末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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五章 十六歳の性教育

15.ウズラではないウズラ

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 セシーリア嬢も一緒に魔窟に行くことになって、僕は魔族としてセシーリア嬢がどれくらい戦えるのかを心配していた。
 もちろん、ロヴィーサ嬢は風の魔法は使えるがほとんど僕を戦わせない。セシーリア嬢も守ってできるだけ戦わせない方向で行くのではないかと考えていたが、戦闘の場面では何が起きるか分からない。
 ユリウス義兄上が魔窟に行かない決意をしていたのも、自分が魔窟に行って怪我をすると、ロヴィーサ嬢がその罪を問われる事態になってしまうと分かっていたからだろう。ユリウス義兄上は分別のある方なのだ。

 シャツとベストとズボン姿で、腰に太いベルトを巻いて、そこに大振りのナイフを下げているロヴィーサ嬢。髪は括って纏めてあった。セシーリア嬢もロヴィーサ嬢に倣ってシャツとベストとズボン姿で、靴は滑りにくい加工のショートブーツを履いている。

「魔族の国には魔窟はたくさんありますよね。どうして、ミエト家の領地の魔窟を選んだんですか?」
「ロヴィーサ様と一緒に行けるということが大きかったですね。それに、わたくしが魔窟に行ったなどと魔族の国で噂が広まれば、嫌な貴族たちがまた何を言って来るか分かりません」
「魔窟の調査もモンスターの捕獲もとても大事なことなのに」
「料理をするのが下賤なことと思われているように、魔窟で食材を捕らえて来るのも貴族のすることではないと思われているのです」

 魔族の国には魔族の国で面倒なことが多いようだ。ロヴィーサ嬢とセシーリア嬢が話しているのを聞いて、僕は納得する。
 この国の方が自由に動けるのだと理解して、セシーリア嬢はロヴィーサ嬢を頼って来たのだ。

「決して前に出過ぎないでくださいね。セシーリア様とエド殿下は後方からの支援をお願いします」
「はい。ロヴィーサ様の指示に従います」
「ロヴィーサ嬢、今日は何を狩りに行くのですか?」

 話に入れそうな雰囲気だったので僕が聞いてみると、ロヴィーサ嬢はお魚四号さんからの報告書を見せてくれる。
 そこには、モンスターのウズラが卵を産んだと書かれていた。

「ウズラというと、小さな茶色の斑点模様の鶏ですよね?」
「卵も模様がありますね」

 僕の問いかけにロヴィーサ嬢が答えてくれる。
 僕はモンスターのウズラがどのようなものか、ダミアーン伯父上にいただいた魔法書で調べてみることにした。
 魔法書を広げて「ウズラ」と言えば、ページにウズラの絵が浮かび上がってくる。

 身体は小さく、茶色の斑点模様で、白地に黒い模様のある卵を産むと書かれている。卵の大きさは親指よりも少し大きいくらいで、野生にいるモンスターではないウズラと変わらないようだ。

「セシーリア嬢の知っているウズラもこれですか?」
「はい。ウズラの卵は小さくて、茹でてお料理に入れたりしますわ」
「なるほど」

 魔族の国でもウズラはこのサイズのようだ。
 このサイズならば警戒することもないだろうと僕は胸を撫で下ろす。

「卵がたくさん取れたら、八宝菜に入れましょう」
「八宝菜とはどんな料理ですか?」
「色んな種類のお野菜を炒めて、片栗粉でとろみをつけた料理ですよ」

 僕も気になっていたが、セシーリア嬢の方が先にロヴィーサ嬢に聞く。美味しそうな気配のする八宝菜という料理に、僕は期待していた。

「卵を産む量も多いようですね」
「七個から十二個と書かれていますが、十八個産んだ例もあるようです」

 魔法書を見ながらロヴィーサ嬢と僕でウズラの卵の数を考える。
 来年も収穫することを考えると、残さなければいけない卵もあるだろうから、全部は取れないが、ウズラが生息している階には何匹も番になっているようなので、収穫は多いだろう。

 魔窟の入口に行くとお魚四号さんとオリーヴィアさんがお魚五号ちゃんとソイラちゃんを着替えさせていた。お魚五号ちゃんとソイラちゃんはご飯を食べ終わった後なのか、眠そうにしている。

「今回も報告ありがとうございます。早速収穫に行かせてもらいますね」
『収穫が終わりましたら、その数を教えてください』
『記録として残しておきます』
「ウズラの卵はお魚五号ちゃんとソイラちゃんも食べますか?」
『残しておいてくだされば、数を見極めて、収穫できる量は収穫します』

 お魚四号さんもオリーヴィアさんもしっかりと魔窟を管理してくれている。僕とロヴィーサ嬢で話をしてセシーリア嬢を見ると、お魚四号さんとオリーヴィアさんとお魚五号ちゃんとソイラちゃんに視線が釘付けだった。

「マーマンとマーメイドの夫婦で管理人をしてもらっているのですね。赤ちゃんもいてとても可愛いです」
『初めまして。人間の喉では私の名前は発音できないので、ミエト家のお二人に「お魚四号」と呼び名をつけて頂きました』
『私は「オリーヴィア」と名前をつけて頂きました』
『魔族の方ですね。どうぞよろしくお願いします』
「わたくし、セシーリア・リンネと申します。この魔窟にはロヴィーサ様とエドヴァルド殿下と通って来ることになると思います。よろしくお願いします」

 笑顔で挨拶をしていたセシーリア嬢だが、階を降りていくにつれて首を傾げていた。

「四号……? なんで四号なのでしょう?」

 そこはどうしても気になるところのようだった。

「あのマーマンさんは四男なのでしょうか。きっとそうなのですね」

 セシーリア嬢が自分で納得しているので、僕もロヴィーサ嬢も特に説明はしなかった。
 ウズラの生息している階に入って、僕とロヴィーサ嬢とセシーリア嬢は立ち尽くしてしまった。

 大きい!
 ウズラの番が巣を作っているのだが、小さいはずのウズラが大型犬くらいの大きさがあるのだ。

「これは、ウズラでしょうか?」
「褐色の斑点模様のある体……ウズラに見えますが」
「大きすぎますよね?」

 これが品種改良の結果だとしたら、この魔窟を作った古代の魔族は何を考えていたのだろう。
 巨大なウズラは卵を狙う僕たちに向かって襲い掛かってくる。

「わたくしが囮になります。その間に、エド殿下とセシーリア様は卵の収穫をお願いします」
「分かりました。ロヴィーサ嬢、危険のないように」
「卵は産んである数の半分ほどいただきますね」

 素早くロヴィーサ嬢が指示を出して走り出す。ウズラの群れはロヴィーサ嬢を追い駆けている。
 僕とセシーリア嬢は巣の中に入ってウズラの卵を拾い始めたのだが、あまりにもイメージが違う。このウズラの卵は拳くらいの大きさがあるのだ。

「ウズラの卵ですよね?」
「模様があります。ウズラの卵だと思います」
「大きすぎませんか?」
「わたくしも、こんなに大きなものは初めてです」

 話しながらも魔窟の土の床の上に木の枝を組んで作られた巣の中から、卵を拾っていく。巣の中には平均で十個くらい卵があり、巣も十五個くらいあったので、途中で僕とセシーリア嬢は収穫を止めた。
 卵の合計は五十個を超えている。

「このくらいでいいのではないでしょうか」
「そうですね。それにしても、鶏卵よりもずっと大きいウズラの卵なんて初めてです」

 魔族の国で暮らすセシーリア嬢もこんなウズラの卵は初めてと驚いていた。

「ロヴィーサ嬢、終わりました!」
「ロヴィーサ様、こちらへ!」

 階の出口に立って僕とセシーリア嬢がロヴィーサ嬢を呼ぶと、ロヴィーサ嬢が魔法の睡眠玉をウズラに投げて、鎮静化させて出口にやってきた。

「卵は無事に取れましたか?」
「取れましたが、この通り、とても大きかったです」
「ウズラの卵とは思えません」

 拳大もある卵を見てロヴィーサ嬢が目を丸くしている。

「これは八宝菜には入れられませんね」
「残念です……」
「煮卵を作りましょう!」
「煮卵?」
「ゆで卵をお醤油やお出汁や少しの唐辛子で味をつけた液につけて、味をしみ込ませたものです」

 八宝菜が食べられないと聞いて意気消沈する僕に、ロヴィーサ嬢が煮卵を提案してくれる。煮卵を食べたことがなかった僕は、ロヴィーサ嬢の説明に興味を持った。

「わたくしにも作り方を教えてくれますか? エルランド殿下にお届けしたいです」
「一緒に作りましょう、セシーリア様」
「よろしくおねがいします、ロヴィーサ様」

 手を取り合って協力する旨を言い合うロヴィーサ嬢とセシーリア嬢に僕は頬が緩む。
 魔窟の入口でお魚四号さんとオリーヴィアさんに何個卵を取ったかを伝えて、僕とロヴィーサ嬢とセシーリア嬢はミエト家に帰った。

「この大きさだと、上手に黄身が半熟にできるか分かりません」
「煮卵は黄身が半熟なのですか?」
「そうです。とろりとして、絶品なのですよ」

 ロヴィーサ嬢の説明に僕はこくりと喉を鳴らす。
 大量の巨大なウズラの卵を茹でて剥いて、調味液につけていく。

「こちらの器はセシーリア様の分、こちらが我が家で食べる分です」
「こんなにいただいていいのですか?」
「まだまだ卵はたくさんあります。遠慮なさらずにどうぞ」

 調味液に浸かった卵をロヴィーサ嬢はセシーリア嬢のために器を分けて用意していた。

 ウズラの品種改良がどうなっているのか。
 これは話し合わなければならない大事な事柄だったが、まずは僕は煮卵を味見したかった。
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