末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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四章 キスがしたい十五歳

24.アルマス、十七歳

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 アルマスのお誕生日会について、僕は不安を抱えていた。
 バックリーン家が伯爵家となったお祝いの催しには、ロヴィーサ嬢が料理や使用人の動きや大広間の配置を教えていた。バックリーン家の両親はそれを聞いて学んでいたはずなのだが、本当にバックリーン家だけでパーティーが開けるのか心配でならない。

 そのことをロヴィーサ嬢に相談すると、ロヴィーサ嬢はあっさりと答えた。

「エド殿下のよいところは優しいところだと思いますが、ときには信じることも大事です」
「僕はアルマスたちを信じていないのですか?」
「わたくしの手助けがあったとはいえ、バックリーン家は伯爵家に陞爵されたお祝いを自分の家で開催できました。あのときの手順を忘れてはいないと思います。バックリーン家を信じて、手伝わない選択をすることも大事なのです」

 ロヴィーサ嬢の言っていることは分かるのだが、僕はどうしても不安だった。アルマスのお誕生日会でバックリーン家が大失敗をしてしまったら、伯爵家に相応しくないと言われてしまうかもしれない。
 まだ不安顔の僕にロヴィーサ嬢が穏やかに言う。

「わたくしたちがいつまでも手伝っていると、バックリーン家はそれこそ、自分たちで采配のできない家になっていきます。今回はバックリーン家を信じましょう」
「ロヴィーサ嬢の言う通りだと思います」

 厳しくしたくてロヴィーサ嬢もバックリーン家を突き放したいわけではないのだ。
 バックリーン家がしっかりと自立できるように信じて見守りたいと思っているだけなのだ。

 僕も理解して納得することができた。

 バックリーン家で開催されるアルマスのお誕生日には、僕もロヴィーサ嬢も招かれていた。僕とロヴィーサ嬢が着くと、アクセリとアンニーナ嬢が迎えてくれる。

「ようこそ兄の誕生日にいらしてくださいました」
「共に兄の誕生日を祝い、楽しい時間を過ごして下さったら嬉しいです」

 パーティーのホストとしてアクセリもアンニーナ嬢もきちんと挨拶ができている。

「本日はお招きいただきありがとうございます。エドヴァルド殿下と共に楽しませていただきます」
「アルマスのお誕生日本当におめでとうございます。アルマスにも挨拶をさせてもらいますね」

 ロヴィーサ嬢も僕もアクセリとアンニーナ嬢に挨拶をして会場に入って行く。
 自然と会場をチェックしてしまう。
 お茶も飲み物も潤沢に用意されている。隣国に短期留学に行っていたお土産のフルーツティーが冷やされて振舞われていた。
 大広間の端のテーブルには料理が潤沢にある。料理の内容はサンドイッチや果物や焼き菓子やケーキなど、珍しいものはないが、無難に品ぞろえはできていると言ったところだろう。

「バックリーン家の支度は大丈夫でしたね」
「信じてよかったでしょう?」
「はい。ロヴィーサ嬢の言う通りでした」

 安心した僕はロヴィーサ嬢と一緒にアルマスのところに挨拶に行く。貴族に囲まれているアルマスだったが、僕が来ると王子という身分のせいか、貴族の群れが割れて道ができる。

「アルマス、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます、エドヴァルド殿下、ロヴィーサ様。お二人に祝ってもらえて本当に嬉しいです」
「アルマス様の一年が幸福なものでありますように」

 アルマスは主催なのでそんなに長々と話をしてはいられない。アルマスに挨拶をしたい貴族はたくさんいるのだ。
 もっと話したかったけれど我慢して会場を回っていると、僕と同じ気持ちの人物に出会った。
 ヘンリッキだ。
 婚約者のヘンリッキはアルマスの隣りにずっといたいに違いないのに、今回は我慢している。今回がバックリーン家で開催されるアルマスのお誕生日としては初めてだから遠慮しているのだろう。
 ヘンリッキはアルマスの婚約者だが、まだ結婚しているわけではない。

 僕は例外的に婚約している状態でミエト家でロヴィーサ嬢と一緒に暮らしているので、常に行動を共にしているのが普通だが、ヘンリッキとアルマスはまだ婚約の状態なので、バックリーン家がハーヤネン家の傘下にあるような行動は慎んだ方がいいと判断しているのだろう。

「ヘンリッキ、アルマスを取られちゃったね」
「少し寂しいけれど、バックリーン家でアルマスのお誕生日会ができるようになったのは素晴らしいことだと思います」

 自分の寂しさは置いておいて、ヘンリッキはバックリーン家の成長を喜んでいた。ヘンリッキにとっては婚約者の実家なので当然のことだろう。

「アルマスも十七歳か……」

 僕が呟いていると、ロヴィーサ嬢が僕がヘンリッキと話しているのに気を遣って、料理や飲み物を取りに行ってくれた。部屋の端のソファに座って僕はロヴィーサ嬢を待ちながらヘンリッキと話す。

「ヘンリッキ、アルマスとキスはしたの?」
「ぶふぉ!」

 ヘンリッキがフルーツティーを吹いた。フルーツティーは鮮やかな赤い色なので、シャツに染みができないように急いでハンカチで押さえている。

「アルマスは十七歳で、ヘンリッキは十六歳……それでもまだキスをしちゃダメなの?」
「エドヴァルド殿下ははっきり聞きますね。そういうことは、恋人同士の秘密なんですよ」
「秘密……僕とヘンリッキは親友じゃなかったの?」
「それとこれとは別なんです!」

 ヘンリッキは僕に教えてくれなかった。
 顔を真っ赤にしていたし、あの態度ならばキスはしていそうな気はする。
 僕だけが置いて行かれたような気分になって、僕は俯いた。

「エドヴァルド殿下、サンドイッチもケーキも、全部魔族の食べ物から毒素を抜いたものですよ」

 嬉しそうに言いながらロヴィーサ嬢がソファに腰かける。ロヴィーサ嬢は僕の分のフルーツティーも持ってきてくれていた。

「ありがとうございます、ロヴィーサ嬢」

 お礼を言って食べるけれど、僕は何となくヘンリッキやアルマスに置いて行かれた気がして気分が落ち込んでしまっていた。
 アルマスのお誕生日会が無事に終わって、僕はロヴィーサ嬢とミエト家に帰る。あまり食べていない僕はお腹が減っていた。
 キュルキュルと鳴くお腹と、口数の少ない僕。
 僕の変化に気付いたのか、ロヴィーサ嬢は帰ってすぐに厨房からアイスクリームを持って来てくれた。
 果物の添えられたアイスクリームを見ていると、とろとろと溶けてしまう。溶ける前に食べないとと思うと、スプーンを必死に動かして、気が付けば全部食べていた。

「エド殿下、何かお悩みでしたか?」
「悩んでいましたが、アイスクリームを食べていたら、ちょっと気がまぎれました」

 素直に僕が言うと、ロヴィーサ嬢が微笑む。

「アイスクリームは溶けてしまうでしょう? 目の前でアイスクリームが溶けても平気なひとはほとんどいません。食べているうちに、悩みを喋ろうかなと思うくらいの元気は出るものなのですよ」
「すごいです、ロヴィーサ嬢。その通りになりました」
「わたくしの母が、わたくしが悩んでいると、アイスクリームを食べさせてくれたのです」

 ロヴィーサ嬢の知恵はお母上から受け継がれたものだった。
 僕は正直にロヴィーサ嬢に相談する。

「ヘンリッキとアルマスがキスをしているのか気になったのです。ヘンリッキは答えてくれませんでした。僕は疎外感を覚えて……。それに、僕だけ子どもだと言われているようで」

 話題がキスのことになったのでロヴィーサ嬢は少し頬を赤らめたが、真剣に話を聞いてくれる。

「それは、エド殿下を仲間外れにしたのではないと思いますよ」
「そうなのですか?」
「エド殿下に、自分たちがキスをするような仲だと告げてしまうと、これから学友として接するときに、エド殿下が遠慮してしまわないかという配慮だと思います。エド殿下は疎外されたのではありません」

 ロヴィーサ嬢がそう言ってくれると、僕もそうなのかと思えてくる。
 ヘンリッキもアルマスも、僕を仲間外れにしたくないから、恋人同士の顔を僕の前では見せない。それもまた友情なのではないだろうか。

「ロヴィーサ嬢と話すと安心します」
「それならばよかったです」

 ロヴィーサ嬢にお礼を言って、僕はアイスクリームのお代わりを頼んだのだった。
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